『詩集 愛について/若松英輔』〈亜紀書房〉.
愛の喪失と永遠。
決して切り離すことのできない、愛の二つの性質。それを克明に描き出した素晴らしい詩集です。愛の本質を追求し、読み手を愛の萌芽へと導く言葉たち。感銘を受けました。この詩集、読まない手は、ありませんよ──。
言葉で
おもいを
告げるのも
いいけれど
気づかれないように
ひとりで
あなたをおもって
祈っているのもいい
──『光』より──.
あなたをおもって
祈っているとき
わたしのおもいは
あなたのそばにある
大事な人と
人生の
避けがたい
試練を
分ちあうことが
真の幸せかも
しれないのだから
──『受苦』より──.
すべてを
分ちあうこと
耐えられないほどの苦痛を
ふたりで乗りきったならば
そこに真の幸せがある
愛し合うこと
それは
耐えがたい
悲しみを
ふたりで
情愛の真珠に
変えようとすること
──『定義 Ⅱ』より──.
悲しみは
愛をはぐくむ
情愛の真珠は
悲しみとともに
輝きをましていく
言葉に
してしまえば
消えてしまう
手にも ふれ得ない
時のきらめき
──『時のきらめき』より──.
時のきらめきに
言葉は追いつけない
あなたが 自分の道を
一人歩く
そんな姿を見るのが
好きだから
そして あなたが
ほんとうの
あなたのときにだけ
私は
ほんとうの
わたしでいられるから
──『あなた』より──.
ほんとうのわたしと
ほんとうのあなた
ふたりが一緒にいるときこそ
ほんとうの世界が
わたしたちの前にあらわれる
神さま
あなたは たしかに
祈りを聞き入れてくださいました
わたしは あのひとを
生涯 愛し続けられますようにと
祈ったのです
──『祈り』より──.
あなたへの愛を
喪ったとき
わたしは死をえらぶほかない
それが本当の愛ならば
ごめんなさい
あなたといたころ わたしは
今ほど 深く
あなたを
愛してはいませんでした
──『積木』より──.
時にながされ
積み重なってゆく愛
すぎ去ってこそ
愛はかがやきを増す
遠くになれば
なるほど強く
相手の幸いを願うのは
愛
──『定義 Ⅲ』より──.
叶わぬおもいを
持ち続けるならば
強く強く
祈り続けるならば
その中心には
愛
光がなければ
色は
存在しない
意味がなければ 言葉も
あなたが いなければ
わたしも
──『存在の秘儀』より──.
あなたは光
世界も
言葉も
わたしも
光に照らされて
美しくかがやく
こころから血を流して
生きている
そう 感じることも
少なくなかった
でも あなたの言葉は
その 赤色の滴りを
いのちの水に
変えてくれた
──『不可視な隣人』より──.
こころから流れおちる血は
蓄積される
いのちの輝きを
はなつ
その時を待ち続けている
あなたは
大切な人
白と黒と
灰色しかなかった
私の人生に
色を
注ぎ込んでくれた人
──『大切な人』より──.
人生の色
それはあなた
あなたに会う前の世界は
死の世界だった
あなたに会う前のわたしは
生きてなどいなかった
いつか
わたしも
あなたがしてくれたように
涙の泉を
誰かの心に
そっと残してから
逝きたいと
願っているのです
──『涙の泉』より──.
与える悦び
あなたに教えてもらったもの
あなたから受けとったおもい
それを
誰かに伝えること
それがわたしの存在意義
あの日 あなたに
出会わなければ
いつまでも わたしは
誰かになりたい
そう思っているだけの
私のままだった
──『大切な人 Ⅱ』より──.
わたしはわたしだ
あなたのおかげで
ありがとう
あなた
ありがとう
わたし
奇蹟は あるとおもう
こんなに多くの ひとがいるのに
あなたに 会えて
わたしは
ほんとうの わたしに会えたから
──『奇蹟』より──.
──Thank You For Reading──.
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