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読書記録(小説・その他)

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2019年に読んだ本(記録用)

2019年 ※Twitterに記録していたものだけ5月) ・姑獲鳥の夏/京極夏彦 6月) ・城/フランツ・カフカ ・アリス殺し/小林泰三 ・パンドラの匣/太宰治 ・水中都市・デンドロカカリア/安部公房 ・シーシェポスの神話/カミュ ・ペンギンハイウェイ/森見登美彦 ・葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午 ・夏と花火と私の死体/乙一 ・人間の土地/サン・テグジュペリ ・創作の極意と掟/筒井康隆 ・ドリルホール・イン・マイ・ブレイン/舞城王太郎 ・虚人たち/筒井康隆 ・キッ

さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉③〈完〉【1672字】

1)町を求む【P-157】おれはいま、そんな町を探しているところだ、もう遊んでいるのには飽きてもきた。  あなたの町など、どうだろうか。それをきめるために、この質問に答えてくれないかね。この前の選挙の時に町の政治をよくしようなどと考えて、候補者をなっとくの行くまで検討したかね。それとも、ポスターの大きい候補者に投票したかね。えっ、なんだって。投票所までも行かなかったのか。  裏、裏、裏。裏で蠢くものを想像しなければならない。あなたの町を治める人は、あなたの国を治める人は、あ

『すべての、白いものたちの/ハン・ガン;斎藤真理子=訳』②終.

2.彼女[P-63]雪が降りはじめると、人々はやっていたことを止めてしばらく雪に見入る。〈中略〉音もなく、いかなる喜びも哀しみもなく、霏々として雪が舞い沈むとき、やがて数千数万の雪片が通りを黙々と埋めてゆくとき、もう見守ることをやめ、そこから顔をそらす人々がいる。                            ──『雪』──.  人々が見入る雪。同じ雪を見ていても思い起こすことは皆、別様のものだろう。雪には喜びも哀しみもない、だが、そこに人は喜びや哀しみを見出す。舞

『すべての、白いものたちの/ハン・ガン;斎藤真理子=訳』①

1.私[P-20]何が始まったのかはわからないまま、まだ、二人はつながっている。血の匂いがする沈黙の中で、体と体の間に真っ白なおくるみをはさんで。                         ──『おくるみ』──.  「白」、そこから感じ取れるイメージは、私にとっては「沈黙」だ。  沈黙。静けさ。なぜそうしたイメージを持つのか、それは、白は始まりを感じさせるからだと思う。聖書の『この初に言があった。言は神と共にあった。すべてのものは、これによってできた。』という言葉はあ

さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉①

1)みどりの星へ“Something Green”【P-18】[下l-3]「見たかい、ドロシー。あれが緑色さ。おれたちが行こうとしている星のほか、どこにもない色なんだよ。宇宙でいちばん美しい色だよ、ドロシー……  人は、自分の信じるものの為ならば喜んで気ちがいになる。自分の信じるものこそが、己の絶対的な価値観なのだから。世界はその価値観を中心に廻る。廻っている。誰しもがそうなのだ。──誰しもが気ちがいなのだ。別の気ちがいな価値観に殺されない限り、人は自分だけの気ちがいな世界

『水妖記(ウンディーネ)/フリードリヒ バローン ド ラ モット フーケー』〈岩波文庫〉【1400字】

1)作品紹介 湖のような青い瞳、輝くブロンド。子供をなくした老夫婦のもとにどこからか現れた美少女ウンディーネは、実は魂のない水の精であった。  人間の世界にすみ、人間の男と愛によって結ばれて、魂を得たいと願ったのだ。──ヨーロッパに古くから伝わる民間伝承に材をとった、ドイツロマン派の妖しくも幻想的な愛の物語。                      ──本書表紙の紹介文より──. 2)所見 とんとん拍子に進んでいく、少女「ウンディーネ」と騎士「フルトブラント」、2人の恋の

ヘルマン・ブロッホ『夢遊の人々』─多重な価値世界に苛まれる現代人─【7410字】

【お気の毒Tips:(Ⅳ)、(Ⅴ)に記事の本旨がまとまっています(目次から飛んで先に読むことを推奨)】 https://www.amazon.co.jp/夢遊の人々-上-ちくま文庫-ヘルマン・ブロッホ/dp/4480420061 『ウェルギリウスの死』を読んで大変な感銘を受けてからというもの、ヘルマン・ブロッホという作家について興味が尽きないなかで本書を手に取ったのだが、率直な感想としては非常に難しい作品だった。というのも、どうやらブロッホが考える長編小説の意義から誘起さ

高い城の男/フィリップ・K・ディック⑤〈完〉【4693字】

読了。 1)登場人物整理④•「ルドルフ・ヴェゲナー(=バイネス)(=コンラート・ゴルツ)」……〔国防軍情報部員(スパイ)、製造に関連した商業を装っていた〕. •「手崎将軍(=矢田部信次郎)」……〔日本の参謀総長〕. •「ジョー・チラデーラ」……〔リタの恋人、アベンゼンを狙うゲシュタポの暗殺者〕. •「フランク・フリンク」……〔チルダンに対し、帝国海軍将校を名乗ってきたユダヤ人〕. 2)メモ/所見⑤(a)以下引用文↙️ 【P-353】[l-1]王庭にて断固小人の非を鳴らす

高い城の男/フィリップ・K・ディック④【4495字】

{10章}【P-271】まで読了。 1)登場人物整理③•「プフェール・デフーフ」……〔ライスの秘書官〕. •「梶浦ポール」……〔ロバート・チルダンの店を訪れた垢抜けた夫婦の夫〕. •「梶浦ベティ」……〔同上、妻〕. •「手崎」……〔日本の将軍〕. •「ブルーノ・クロイツ・フォン・メーレ」……〔警察官僚、有能な地方長官〕. •「ルドルフ ヴェゲナー」……〔国防軍情報部員〕. •「手崎」……〔日本の将軍〕. •「ハズルデン大佐」……〔コマンド部隊の隊長?〕.  以下、主要な歴

高い城の男/フィリップ・K・ディック③【2728字】

{6章}【P-169】まで読了。 1)登場人物整理②•「リタ」……〔ウィンダム・マトスンの愛人〕. •「ホーソーン・アベンゼン」……〔『イナゴ身重く横たわる』の著者〕. •「シンジロー・ヤタベ」……〔老紳士、年金生活〕. •「ジョー・チナデーラ」……〔リタの恋人? 『イナゴ身重く〜』について語る〕. •「ラムジー」……〔田上信輔の部下〕. •「ミス・フレイキアン」……〔田上信輔の秘書〕. •「フーゴー・ライス男爵閣下」……〔ドイツ領事〕. 2)雑談① 表紙のハーケンクロイ

高い城の男/フィリップ・K・ディック②【1275字】

{4章}【P-99】まで読了。 1)登場人物整理①•「ロバート・チルダン」……〔商人、アメリカ古美術店の店長〕. •「フランク・フリンク」……〔現無職、ジュリアナの元夫、「エド・マッカーシーと組んで大勝負を検討中〕. •「田上信輔」……〔『易経』研究家、貿易商人、お偉いさん〕. •「ジュリアナ・フリンク」……〔柔道好き、フランクを捨てた〕. •「ミス・デイヴィス」……〔不明、フリンク先生???〕. •「チャーリー」……〔〈テイスティ・チャーリー〉の主人兼コック〕. •「ヘル

高い城の男/フィリップ・K・ディック①【2429字】

       《※一応、ネタバレ注意です。》 {1章}【P-28】まで読了。 1)あらすじ紹介 アメリカ美術工芸品商会を経営するチルダンは、通商代表部の田上に平身低頭して商品の説明をしていた。ここサンフランシスコは、現在日本の勢力下にある。第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わり、いまや日本とドイツの二代国家が世界を支配しているのだ──。第二次世界大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に、現実と虚構の微妙なバランスを緻密な構成と迫真の筆致で書き上げた、1963年度ヒューゴー賞受賞の

『草地は緑に輝いて/アンナ・カヴァン』①【424字】

『草地は緑に輝いて/アンナ・カヴァン』:安野玲訳〈交遊社〉──目次──. 1.草地は緑に輝いて. 2.受胎告知. 3.幸福という名前. 4.ホットスポット. 5.氷の嵐. 6.小ネズミ、靴. 7.或る終わり. 8.鳥たちは踊る. 9.クリスマスの願いごと. 10.催眠術師訪問記. 11.寂しい不浄の浜. 12.万聖節. 13.未来は輝く すばらしい新生活が始まる場所で. 1.草地は緑に輝いて 輝かしい緑を描きながらも、何故か不安感を抱かせる不思議な文章。小説全体に満ち満ち

『草地は緑に輝いて/アンナ・カヴァン』②【634字】

『草地は緑に輝いて/アンナ・カヴァン』:安野玲訳〈交遊社〉──目次──. 1.草地は緑に輝いて. 2.受胎告知. 3.幸福という名前. 4.ホットスポット. 5.氷の嵐. 6.小ネズミ、靴. 7.或る終わり. 8.鳥たちは踊る. 9.クリスマスの願いごと. 10.催眠術師訪問記. 11.寂しい不浄の浜. 12.万聖節. 13.未来は輝く すばらしい新生活が始まる場所で. 2.受胎告知 ゆっくりと、現実を侵していく悪魔。ゆっくりと迫り来る恐怖、脅威、悪意、災厄、絶望、焦燥…