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読書記録(詩)

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記事一覧

『ろうそくの炎がささやく言葉』管啓次郎・野崎歓 編〈勁草書房〉①

内容紹介言葉はそれ自体としては無力だが、慰めにも、勇気の根源にもなる。ろうそくの小さな炎のもとで朗読して楽しめる詩や短編を集めた、31人の書き手によるアンソロジー。「東日本大震災」復興支援チャリティ書籍。 朗読のよろこび、東北にささげる言葉の花束。31人の書き手による詩と短編のアンソロジー。        ──「BOOK」データベースより──. ろうそくがともされた 十 谷川俊太郎ろうそくがともされて ここがうみのむこうのくにになった まっしろいとらをつれて じょおうがか

『詩集 愛について/若松英輔』〈亜紀書房〉.

 愛の喪失と永遠。  決して切り離すことのできない、愛の二つの性質。それを克明に描き出した素晴らしい詩集です。愛の本質を追求し、読み手を愛の萌芽へと導く言葉たち。感銘を受けました。この詩集、読まない手は、ありませんよ──。 言葉で おもいを 告げるのも いいけれど 気づかれないように ひとりで あなたをおもって 祈っているのもいい                 ──『光』より──. あなたをおもって 祈っているとき わたしのおもいは あなたのそばにある 大事な人と

天国と、とてつもない暇/最果タヒ②〈完〉【1529字】

まずしさは、こころのまずしさは、誰かを傷つけた回数でなくて、きみがきみを諦めた回数で決まる。左手があつくなってそのうち、私は、朝のひかりに気づく。              ──『重力の詩』より──. きみがきみを諦めるとき、きみは時をとめようとするけれど、せかいは変わらず流れていく。きみがきみを諦めるたび、きみとせかいの時間はずれていく。 息を吐くたび、空き缶を潰すように世界が私に押し寄せて、 地平線、ひびわれた、 隙間が遠くに見える。               

天国と、とてつもない暇/最果タヒ①【1277字】

 多様なテキストデザインによって展開される詩集。表現されるは無数の愛。変幻自在の愛。詩集三部作を経てたどり着いた、謎の詩人 最果タヒの新境地。 来年まで私がもちこす空白はちゃんとあるのだろうか、 ないなら、だれかを、思い出を、忘れなければ、 次の夏を待つことから、よろこびたちが立ち去ってしまう。              ──『斜面の詩』より──. 散りゆく世界、積もる白、私の人生、私の、 私への、果てのない、果てのない優しさ。            ──『自分

『リルケ詩集;高安国世訳』〈岩波文庫〉⑤〈完〉【901字】

〈後期の詩〉より. 〈フランス語の詩〉より.by Rainer Maria Rilke,1875-1926.  圧倒的、圧倒的です。読んでいて、次へ、次へと、音が次の音を求め導かれていくような、凄まじいまでの読ませる力を持った詩です。一言で言い表すならば、“神聖”という表現が一番しっくりきます。読後のカタルシス半端なし。全篇、全言葉、全音が素晴らしい、完璧な言葉たちです────。  正直、語るに及ばずといった感じなので、以下いくつかの引用によって締めます。 【P-218

『リルケ詩集;高安国世訳』〈岩波文庫〉④【1211字】

1)『オルフォイスに寄せるソネット』──第一部──. 平易な言葉選びをしているわけではないにも関わらず、読み口はとても軽やかで、快活さが感じられれる詩。 【P-126】[l-8]上げた歌声をも忘れるように努めるがいい。流れ去るのみの歌声は。 真に歌うこと、それは別な呼吸のことだ。 何のためにでもない息吹。神の中のそよぎ。風。 【P-133】[l-10]二重の世界においてはじめて 歌声は

『リルケ詩集;高安国世訳』〈岩波文庫〉③【597字】

1)『ドゥイノの悲歌』より.【P-106】[l-12]まだおまえは悟らぬのか。投げよ、腕の中から空虚を、 私らの呼吸する空間に向けて、おそらくは鳥たちが、 そのひとしお優しい羽ばたきの裏に、ひろくなった大気を感じるでもあろう。 【P-108】[l-12]矢が、飛び立つときに力を集めて自己以上の存在となるために、 ひきしぼった弦に耐えるように。なぜならとどまるということはどこにもないのだ。 ・絶えず自己以上の存在となることを求める、永遠の空虚こそが人間の精神。 【P-11

『リルケ詩集;高安国世訳』〈岩波文庫〉②【829字】

1)『新詩集』より.『第一詩集』と比較して、表現の幅が増した印象。穏やかな描写においては、より柔らかで自由に。喪失感を示す描写においては、人生に対する倦厭がより深く、より暗く表現されている。──そして最後には、読み手に優しく微笑みかけてくれる。暗く沈んだ精神を、優しくゆっくりと、安らかな光で満たしてくれるような詩集。 【P-70】[l-5]しかし私たちはもっと深く、 もっとすばらしく献身的に、 真に存在した過去の物に心を傾けることを知らねばならぬ、 そうしてたぶん、一年前よ

『リルケ詩集;高安国世訳』〈岩波文庫〉①【855字】

1)『第一詩集』より.・一見しただけで、認識に左右されないリルケの深い感性が感じられる、美しくも力強い詩。 【P-16】[l-9]私は事物がうたうのを聴くのが好きだ。 きみたちは事物にさわる。事物は凝固し沈黙する。 きみらにかかっては事物はみんか死んでしまう。 ・〈事物をあるがままの姿で捉えること〉、これは事物との一体化であり、自然との一体化だ。  事物の声に、愚直に耳を傾けることができれば、すべての事物が歌い、踊っていることがわかるだろう。 ・『第一詩集』から、まさに