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白暗淵/古井由吉(2019年特に印象に残った本⑤)【874字】

『白暗淵/古井由吉』

1)作品紹介

 静寂、沈黙の先にあらわれる、白き喧噪。さざめき、沸きたつ意識は、時空を往還し、生と死のあわいに浮かぶ世界の実相をうつす。言葉が用をなすその究極へ―。現代文学の達成、最新連作短篇集。 
                   ──「BOOK」データベースより──.


2)所見

 「2019年特に印象に残った本」ということでの『白暗淵』ですが、感覚的な要素が非常に強い小説なのできちんと紹介できる自信はありませんが……書いていきます。

始まりは、白い闇。

 余りにも自由な文体によって書かれている一作。読んでいると、核心に到達したような感覚を一瞬感じられ、しかしそれを感じた時には、既にその地点を通り過ぎてしまっていて、核心がどこにあったのかはわからなくなってしまっている。人生における幸福とはかくあるものか、と感じさせられる。

 此処には存在しない者の記憶、存在しない感覚が視覚・聴覚・嗅覚を通してまざまざと感じられる。
 静寂、沈黙の境から生じる音、空白への気が狂いそうな畏怖。彼の存在のぐらつきの感覚が、生々しいほどに実感できる。

 異なった時間の中

 太初に宿る存在、白暗淵

 私たちは何度でもそこに導かれる

 たどり着いた先は、また新たな始まり。

【P-117】[l-9]無から有は生じない、有は無へ滅しもしない、有も無もただ人間のことだと払いのけないかぎり、これが原則だ、不生不滅でいいではないか、それでも初めという、本来考えられもしないことを人は考える、と言う。

 不生不滅……この領域への精神的、感覚的到達こそが、おそらくは"往生"というものなのだろう。


3)まとめ

 特に表題作がお気に入り。すんごいです。上手く言語化はできないんですけど、読んでいて衝撃を受けました。全く言語化できないんですけどなんかすごい感覚です。すごいです(語彙力)。

「人はすべてを忘れ、すべてを覚えている」

 白い闇に潜む、魂の記憶を呼び覚ませ────。


                〈完〉

        ────Thank You For Reading────.

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