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天国と、とてつもない暇/最果タヒ①【1277字】

 多様なテキストデザインによって展開される詩集。表現されるは無数の愛。変幻自在の愛。詩集三部作を経てたどり着いた、謎の詩人 最果タヒの新境地。

来年まで私がもちこす空白はちゃんとあるのだろうか、

ないなら、だれかを、思い出を、忘れなければ、

次の夏を待つことから、よろこびたちが立ち去ってしまう。

             ──『斜面の詩』より──.
散りゆく世界、積もる白、私の人生、私の、

私への、果てのない、果てのない優しさ。

           ──『自分にご褒美』より──.

人のこころは、ひたすらに空白をもとめ、さまよう、
 
その放浪は、すべてよろこび、果てのない優しさ。

愛してると言われる、愛していると言う、そととき、

必要な覚悟は、たった一人で生き続けるという覚悟だった。

                ──『星』より──.

人は、えいえんに孤独な存在で、誰かと一緒にいるということ、
誰かを愛するということは、孤独と孤独とを、ただ二つ並べるというだけのこと。

拒め、生きろ、きみのすべてがちぎれ、落とされた先にあるのはこの星を超えた運命かもしれない。そこへ、愛した人を連れていけ。

             ──『生存戦略』より──.

生きろ、どこまでも、世界の果てをめざして、宇宙の果てのその先へいけ。
自分の愛するものすべて、生きて、つないで、新しい宇宙をつくりだせ。

わたしの、心がだれかに、

一本の釘で、標本にされていることを、

走るたび、歩くたび、思い出す

             ──『蜘蛛の詩』より──.

わたしたちの心は、神さまの標本。

本棚に並べられた、無数の標本をたのしむ神さまは、たぶん、わたしたちの魂の奴隷。

限界のある身体を、持っているから、苦しみぐらい、永遠でも、いいんじゃないか。獣の本能。傷つくことを、こわがらないで、無駄だから。

           ──『クリーニング』より──.

傷つくことはよろこび。少なくとも、わたしたちの獣は、わたしたちの身体は、そう感じている。

生きることは負けていくこと。恋することは負けていくこと。しあわせに憧れて、負けを認めて消えていくのは私、だけじゃない。

              ──『火の海』より──.

しあわせを感じるほどに、心が満ち足りていくほどに、私は、私という意識は、真っ白になって、静かになっていく。
しあわせを感じたら負けです、私の体が好き勝手にやっている、ということだから、
そうやって私は、生きているかぎり、いつも、いつまでも、負けつづき。

私は、きみに見られないように、ふるまうことが好きだ。
愛し合うっていうのは、なんだか神経衰弱みたいだね。

            ──『かるたの詩』より──.

他人の見せる、ふとしたやさしさに、わたしはわたしを感じてしまう。
人のやさしさに、惑わされて、いまにとどまることに、意味なんかないんだよ?
それは余計な道草だね、無駄な時間だね。早く、先に進まなければいけない、もっと、遠くへ行かなければならない、存在の向こう側を目指して────。


           〈続〉


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