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泉鏡花 天守物語

泉鏡花、なる人物をご存知でしょうか。
着物を着た可愛い女の子で、武装探偵社に所属し、夜叉白雪を召喚するスタンド使いです。嘘じゃありません。嘘じゃありませんが、今回話したいのは実在の男性、泉鏡花について。潔癖で偏執的でプッツン属性のピュアピュア美男子、泉鏡花についてです。今日はあなたの性癖を狙い撃ちます。

空前絶後の変幻自在のボキャブラリー作家

川端康成がそんな風に評したらしいです。私も同意します。泉鏡花の魅力は多元的な意図に富む幻想変幻のボキャブラリー、徹底した言葉(音)への拘りにあります。初めて彼の著作を読むときは、恐らく誰しもが戸惑うと思います。「ルビが多いぃ‼︎」「キラキラネームが可愛く見えるぅ‼︎」「そうは読まん‼︎」とツッコミを入れてしまうでしょう。 私もそうです(現在進行形)。

例えば彼は『2人』を『きしむかい』と読ませます。因果の故が分かりません。『風説』と書いて『ウワサ』と読ませます。これはまだ分かる。風情ですねぇ。『呂』を『キス』と読ませます。これは全く意味不明です。それを知ってから武人呂布に何だかいやらしい印象を持つようになってしまいました。

飽くなき言語への探求者は、こんな意味不明な拘りを見せていながらエンタメ作家であることに拘りました。ひょっとしたらそれはギャグで言っていたのかもしれません。真偽の程は分かりません。

幻想文学、妖怪と美女

彼の作品は大抵、妖怪か美女がでます。妖怪and美女もあります(むしろ多い)。では泉鏡花の言う美女とはどんな女性なのか?『色白で凛々しく気高い黒髪の女性』大抵、そんな風に描写されています。私はいつも黒髪にしたティルダスウィントンをイメージしながら読んでます。美への拘りが凄い。そして彼が描く妖怪は、いつも哀しみと無垢を象徴しております。つまり、泉鏡花が描く『美女な妖怪』は……彼の性癖が極んでます。

戯曲『天守物語』

彼がエンタメ作家である所以を説明するのに一番手っ取り早いのが『天守物語』です。泉鏡花の魅力がたっぷり詰まった名作戯曲。他作家が描いた魅力的な妖怪を一堂に集結させた妖怪アベンジャーズです!そのあらすじを端的に説明すると……

百合!!純愛!!!デウス・エクス・マキナ‼︎‼︎

です。映画ドラゴンボールの副題みたいですね。そうです。鏡花文学は「Don't think! Feel.」美しい言葉の連なりに身を委ねるのです。湧き上がる疑問符に都度足を止めてはいけません。「高尚ではあるがこれはエンタメだ、美しすぎる妖怪同人誌なんだ、幻想に身を委ねるんだ」その姿勢で読むと、少しはとっつきやすくなりますかね?……私、さっきから方々に怒られそうな事言ってますね、鏡花ファンの皆様、申し訳ありません……。

『天守物語』より鏡花文学について

改めて、真面目に説明しますね。物語は妖怪が住まう白鷺城五重の天守閣。天守夫人富姫、以下従者妖怪は嘗て人間の女であった。封建主義が齎す非業の運命に弄ばれ命を落とした女達は獅子頭の不思議な妖力をもって『妖怪』として再び生命を賜った……退屈ながら平安な日々を過ごす富姫一行。しかしあくる晩秋の日没、大空を舞う一匹の鷹が、再び人間の愚かな業を富姫のもとに招き入れる……そんなお話です。

割と、悲しいお話でもあります。人間と妖怪の対立は基本、妖怪が人間に恐怖を運ぶ存在として描かれますが、天守物語はその逆です。泉鏡花はいつも、人有らざる立場の存在に肩入れする作家でした。何故でしょうか?泉鏡花は現世とは違う他界の存在を信じていました。現世で虐げられた美しい魂を救済する他界を……私たちの感覚でいうと、天国、というとしっくり来ますね……そこに泉鏡花の厭世観が見て取れます。幼い頃経験した母との死別が、その世界観の形成に大きな影響を与えていると私は考えます。他界……つまり妖怪の住む世界のヒロイン達は、皆気高く美しく、母性を持ち合わせています。対比するようにそのヒロインと対峙する人間側の主人公は汚れを知らぬ少年のような、純朴な心の持ち主が多いのです。私は彼の作品を見る度に思います。ああ、この美しい妖怪は皆、鏡花のお母さんなんだ。この純朴な主人公は、幼い頃の鏡花その人なんだと……鏡花は自作を通して、最愛の母との会合を何度も何度も繰り返していたんだな、現世と他界が交わる物語の世界だけが、彼が母と再会出来る、救済の世界だったんだな……と。

……これ、かなり私の主観が入っています。殆ど妄想の域ですね。まあでも、そう思えばこの物語のラストも納得できるんですよね。人によっては「打ち切りエンドじゃぁ!」と憤るかもしれませんが、私にとっては感涙を禁じ得ないシーンです。その結末は是非あなたの目で、お確かめください。

ここが変だよ!泉鏡花

①散歩好き、でも犬が怖い。犬対策にいつもステッキを持参し、臨戦態勢で散歩を楽しんだ。何をするだァーッ!
②超潔癖、消毒用に常にアルコールランプ持参。あんぱんだって炙って食べる。『腐る』という文字も不潔なので『豆腐』を『豆府』と書いた。お物は消どくだ〜‼︎
③亡き師、尾崎紅葉の食生活を揶揄した徳田秋声にブチ切れ泣くまで殴りつけた。君がッ泣くまで、殴るのをやめないッ!
……いかがですか?まだまだ不可思議なエピソードは沢山ありますが、今日はこの辺りにしときましょう。折角直前に書いたほろ苦い泉鏡花像が壊れてしまう……笑。

泉鏡花入門おすすめ作品

泉鏡花の魅力、少しでも伝わったでしょうか?青空文庫に沢山の作品が公開されています。よかったら、是非ご覧ください!初めて読む方は「Don't think! Feel.」を忘れずに……笑

『高野聖』
鏡花入門といえばコレ!鏡花文学の魅力がギュッと詰まった一冊です。幻想文学の金字塔、これを見て鏡花にはまった人も多いはず……!

『外科室』
これも入門におすすめ!短編作品です。幻想要素は薄めですが、簡潔な物語に宿る愛と美のタペストリー……ハラハラドキドキ、読み進めたらきっとあっという間に結末まで駆け抜けちゃいます。

『草迷宮』
冒頭七行で、私の心は鷲掴みにされました。泉鏡花の人生を透過した、母性や男性性を追求した作品……寺山修司により映画化もされています。至極!

むすびとおまけ

長い文章、最後までお付き合い頂きありがとうございました^^
この投稿が皆さんが泉鏡花に興味を持つきっかけになっていたら幸いです。最後に、取るに足らないオマケですが、昨日私が投稿した泉鏡花オマージュ作品を貼り付けておきます。こちらもよかったら暇つぶしにご利用ください。好きな事を気ままに書くって、楽しいですね!

ありがとうございました〜^^


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