緊急事態宣言下の外食バースデー|オーダーストップ後の飲食店の計らい
午後7時15分、家族4人で慌ただしくファミレスに入り席に着くと、早速メニュー表を開いた。
(ケーキは絶対はずせない。スパゲティに、ステーキに、ハンバーグに、和食か、お酒も少し置いてある。迷っている暇はない)
タダオはメニューを手早く決めると、ステーキのページを開いてメニュー表を子どもに渡した。
「ステーキやハンバーグがある。何でも頼んでいいぞ」
子どもは目を輝かせて見ていたが、事前にメニューを早く決めるように伝えてあったので、すぐに決めてくれた。
妻ともう一人の子どももメニューが決まったようだ。
「呼ぶぞ」
そう行ったと同時に、タダオはスタッフを呼ぶボタンを押した。
「おまたせいたしました」
スタッフが飛んで来た。
「バースデーケーキとストロベリーパフェとチョコレートパフェ、ステーキセットと、ハンバーグセットが2つと、和食ご膳、ドリンクバー3つと、ビールを1つお願いします」
「申し訳ございません。お酒のオーダーは午後7時までとなっております」
「えっ⁉」
タダオは驚いて絶句したが、すぐさま
「仕方ないか。ドリンクバー4つに変えてください」
と言った。タダオは平静を装っていたつもりだが、妻と子ども二人が心配そうにこちらを見ていた。
「ドリンクバーに行って来なさい」
ニコッと笑うと、子どもたちはドリンクバーに行った。
「仕方ない。みんな我慢してるんだから」
まだ妻のミヨが心配してタダオの顔を覗き込んでいたので、努めて明るく振る舞った。
ドリンクバーから子どもたちが戻ってきたので、入れ替わるように妻と二人でドリンクバーに向かった。
* * *
「おまたせいたしました」
さすがファミレス。午後7時25分にはデザート以外のメニューがすべて揃った。
妻だけでなく、子どもたちもしゃべることなく黙々と食事を摂った。
午後7時35分、タダオがボタンを押す。
「お父さん、オーダーストップじゃ?」
口に手をあてながら、心配して長男のノブが聞いてきた。
「頼んであるから、大丈夫だよ」
タダオはマスクをしながら答えた。スタッフが急いでやってきた。
「食後のデザートをお願いします」
ノブもチサもハンバーグを食べ終わっていなかったが仕方ない。
* * *
「おまたせいたしました。お誕生日、おめでとうございます」
バースデーケーキとストロベリーパフェとチョコレートパフェが運ばれてきた。
「それから、これはビールです」
「オーダーストップだったのでは?」
「店長が特別にと。お誕生日ですから」
「あ、あ、ありがとうございます」
(良かったね。お父さん)
三人は口をパクパクさせながら、笑っていた。
* * *
「お父さん、おめでとう」
一旦、4人がマスクをつけた。
「ありがとう」
バースデーケーキは4人で少しずつ分けて、ストロベリーパフェはサチ、チョコレートパフェはノブが食べた。午後8時の閉店時間まで残りわずかしかない。
午後8時、パフェはまだまだ残っていた。スタッフが近づいてきて
「8時が閉店に……」
と言いかけると、タダオはマスクをしながら
「今すぐ出ます。残してしまって申し訳ございません」
と詫びると、そのスタッフが
「15分か30分は大丈夫です。ただ……、他の方にはくれぐれも……」
「わかっています。わかっています。言いません。ありがとうございます」
タダオは頭を下げた。
毎年、家族の誕生日は外食すると決めていた。だから、タダオが会社から帰宅すると、無理してファミレスに来てしまった。
子どもや妻の誕生日ならいざ知らず、このご時世に自分の誕生日で外食するのは違いだったのではと思った。子どもたちには無理をさせてしまった。
でも、やっぱり、来て良かった。
こうやって、困難が待ち構えていても、毎年、毎年、家族の記念日を祝いたい。
いつか、この日の慌ただしい誕生日も、「あんなときがあったね」と笑い話にできる日がくればいいのにと思う。
コロナが終息しても、このファミレスの店長とスタッフの対応はずっと忘れてはいけないと思った。
Happy birthday to me! Thank You everyone!
Welcome to new world.
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