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【ハーブ天然ものがたり】ボリジ/ルリチシャ



瑠璃色のレタス


日本での一般的なよび名は瑠璃苣ルリチシャ
チシャはレタスの意味で、ボリジは全草くまなく料理に使用することができる万能ハーブです。
ちなみに日本の台所で食べられているレタスはキク科、ボリジはムラサキ科です。

(レタスの)和名は、チシャ(萵苣)。
古名を「ちさ」といい、「乳草」(ちちくさ)の略とされる。

ウィキペディア-レタス


ボリジは薬用植物としてふるくから使用されてきた記述がのこっており、コンパニオンプランツとして苺やトマトとの相性のよさが知られています。
花は蜜源植物となり、種から得られる油は現代のアロマ市場でもガンマリノレン酸をふくむ貴重なオイルとして、月見草とおなじように重用されています。


「MAGICAJ HERBS」マーガレット・ピクトン 作品社

レタスの名がつくだけあって南ヨーロッパ原産のボリジは西洋では野菜のように食用されてきました。
ほのかにキュウリ風味のするボリジの葉っぱにはカリウムとカルシウム、サポニンやタンニンなどが含まれており、わかい葉っぱはそのままサラダにし、成長してケモケモがついてきた葉っぱは湯がいて食すのが定番だそうです。
星型のあおい花はほのかな甘みと酸味があって、そのままサラダにしたり砂糖漬けにして長期保存するレシピも代々受けつがれています。

「MAGICAL HERBS」には18世紀ころ、パンとチーズとリンゴ酒とともにボリジの葉を数枚いただくお昼ごはんが、イギリスの農民たちの伝統食だったと記されています。

学名(属名)のboragoボラゴはラテン語のcoragoコラゴからつけられたそうで、corago の cor は心臓、心、勇気、気力、
ago は動かす、導く、選ぶからきていると「ハーブ学名語源事典」に記載されています。

この植物(ボリジ)の煮汁を飲むと気分が高揚すると考えられていた。
実際、気分を高揚させたり、副腎を刺激して恐怖やストレスを感じたときにアドレナリンを分泌させたりすることが、現代科学的に解明されている。
ルリチシャは花が瑠璃色(深い紫がかった紺色)のちしゃ(レタス)の意味で、葉をサラダに使用する。

またかつて画家たちは、聖母マリアの衣を描くときこの花弁の汁をつかってマドンナブルーという青い色を出したといわれる。

「ハーブ学名語源事典」大槻真一郎 尾崎由紀子 東京堂出版


聖母マリアの衣の色、マドンナブルーについてはレディスマントルの記事に、「聖母マリアに象徴される青いマントは、女神の庇護と恩寵を思い出し、この世界を縦横無尽に走りまわって挑戦をつづける意欲とセットになっているような気がします」という所感とともに綴っています。

レディスマントルのレディは聖母マリアを意味しています。
マリア様のマント(外套)といえば青い色を想像しますが、宗教画にはアトリビュート(持物)というお約束事があり、聖母マリアを描くときのアトリビュートは海の星(マリア・ステラ)と称えられる青色のマントなのだそうです。

【ハーブ天然ものがたり】ハゴロモグサ/レディスマントル




瑠璃色のボリジの花をワインにうかべて飲む風習は、AC1090年代からはじまった十字軍遠征に出陣する兵士たちが、勇気を奮いたたせるために飲んだ別れのさかずきからはじまったという説もあり、学名の語源となった「こころをうごかす」「勇気をえらぶ」などの祈りがこめられていたのだろうな、と。

憂鬱をおいはらい、勇気をあたえて、たのしく陽気な気分をかもしだすと信じられてきたボリジの力は、下記文献にあるように「ケルト語のよび名Borrach(勇気)やウェールズ語のよび名 Llawenlys(喜びのハーブ)」にもあらわれていると感じます。

「ハーブ図鑑110」レスリー・ブレムネス著 日本ヴォーグ社


古代の詩などでも、ルリジサ(ボリジ)が気分を高揚させると歌われており、ディオスコリデスやプリニウスもその効能に注目した。
中世には騎士が自らの闘志を高めるためルリジサを煎じたハーブティーをよく飲んだ。
人を勇気付けるという効果は決して思いこみではなく、現代的な科学によって、恐怖やストレスに対してアドレナリンを分泌させ、鬱などに効能があることが確認されている。

*ディオスコリデスはAC40 - 90年ころのローマ帝国期の医者、薬理学者、植物学者。ローマ皇帝ネロ治世下(古代ローマ時代)に活躍。
*プリニウスはAC23 - 79年のローマの博物学者、政治家、軍人。自然界の百科全書『博物誌』を著した。

ウィキペディア-ルリジサ(ボリジ・ルリチシャ)


17世紀にイギリスで活躍したハーバリスト、ニコラス・カルペパーさんは、占星学にも精通しており、星と植物の関連性、疾病についての処方を開示したセンセーショナルな薬草本を出版しました。

「薬草本がセンセーショナル?」と思われるかもしれませんが、とうじのハーブ知識は秘密情報で民間に公開されず、聖職者と権力者のみがあつかえるという時代でした。
一般人がハーブを植えたり勝手に使用したりすると魔女狩り対象となり、15世紀から18世紀のあいだに4万人が極刑にあったともいわれています。
いつ誰にチクられて告発されるかわからない、戦々恐々とした時代にカルペパーさんは何冊もの本を出版し現代植物学の礎をつくられました。

(ボリジは)すぐれた強心効果を持ち、体力を強化する。
憂鬱質をとり去り、血液を浄化し、熱をさげる。
汁液からつくったシロップはそれらの目的すべてに大いに役立つ。
花の砂糖漬けは主として強心薬として使われ、長患いで弱った体を支え、肺病・頻繁な失神・動機に悩まされている者の心臓や精神をなだめてくれる。

「カルペパーハーブ事典」ニコラス・カルペパー パンローリング(株)


ボリジは生命力旺盛なハーブで、こぼれ種で自然生育するので一度植えるとおなじ場所で毎年花をたのしむことができます。
あたたかい地域なら2月から開花がはじまり晩夏まで咲きほこります。

摘み草してすぐのフレッシュハーブは小さじ2杯、乾燥させたドライハーブは小さじ1杯で、200㏄くらいの熱湯を注げばボリジ浸剤の完成です。
浸剤に、はちみつを小さじ2杯ほど加えてよーくかきまぜれば「こころをうごかし」「勇気をえらぶ」ボリジ・シロップのできあがり。

私は冷やして飲むのが好みですが、ボリジ・シロップは内熱がこもってだるいときや、空咳がでるような体調不良時に重宝するなぁと実感しています。
熱の循環が体内のどこかで目詰まりしてとじこめられ、解放してくれといわんばかりにドタバタ大あばれしているようなときは、ボリジのエッセンスが火元素霊に親和して、正しい道筋へと熱を流動させ、ちょうどよいあんばいに火加減を調節しているのかもしれないな、と想像しています。

現代ではボリジハーブティーや種苗も市場に出まわり、入手しやすくなりました。
ボリジ・シロップはたくさん作っておいても冷蔵庫で1週間くらい保存できるのと、万が一飲みきれなかったときは、カレーや煮物、シチューなどの料理につかえて重宝します。


熱は変換エネルギー


4大元素の火、風、水、土は地球生命をかたちづくる基礎となって物質社会を形成しているという考え方があります。
「太初、熱があった」と、わたしたちの太陽系が創造されるプロセスを霊視したシュタイナーはいいました。
熱のカタマリが気体になり、液体になって、固体を創造した物語はたくさんの文献のなかに遺されています。

すべてのはじまり=「熱」は火元素として、世界3大伝統医学の軸となり、ヒトはもちろんあらゆる地球生命を理解する要素として認識されてきました。

世界3大伝統医学

ユナニ医学はギリシア医学を起源とし、アラビア文化圏・イスラーム勢力圏で発展した伝統医学。ヨーロッパでも19世紀まで行われた。

アーユルヴェーダは北インドを中心に発展した伝統医学。チベットや東南アジアの医学に影響を与えた。

中医学は中国地域に伝わる伝統医学。漢方(和法、日本の伝統医学)、東医学(韓医学、朝鮮半島の伝統医学)などに影響を与えた。

ウィキペディア-伝統医学


ウィキペディア-アーユルヴェーダ

トリ・ドーシャ(三体液)の図
トリ・ドーシャと五大の関係
トリ・ドーシャ説は、生きているものは全て、ヴァータ(風、運動エネルギー)、ピッタ(熱、変換エネルギー)、カパ(粘液、結合エネルギー)という3要素を持っており、身体のすべての生理機能が支配されているとする説である。


火元素によって生みだされるピッタ体液は胆汁となり、中医学では風元素によって機能亢進する肝臓と胆のうは、火元素担当の心臓を生じるポジションにあります。

五行説

青・肝臓は、赤・心臓のはたらきを助けるの図


「熱(量)がある」とか「熱い人だね」という表現がありますが、熱の正体についてウィキの説明を要約すると、(熱とは)物体から物体へ伝達されるナニモノカであり、物質としてあつかうことはできず、流動し移動するエネルギー形態のひとつで、ある物体からべつの物体への「エネルギーの移動としてのみ」存在する、とあります。

熱は高温から低温へながれます。
物体のあいだに温度差があるからこそ、熱は流動していると考えることもできますし、高温物体が低温物体と接触したとき、外部に熱が流出することがなければ、放出した熱量と受けとられた熱量はおなじ値になるという測定も立証されているそうです。

外界の高温存在からヒトへの熱量の伝搬は、受けとる側の火元素成分の許容量がおおきいほど、「漏れ」なくエネルギー移動できると思いますが、外界からうけとる熱量が自分にとって適切でなければ、あつさをうまく処理できずに疲弊してしまうこともあるかもしれません。

熱量を気力や奮起に変換して、「こころをうごかし」「勇気を選ぶ」という人生のフローにのせるためには、熱の受容力というものがおおきく明暗を分けるのではないのかな、と。

「遺された黒板絵」ルドルフ・シュタイナー 


外の熱が人間によって受けとめられると、
その性質に変化が生じます。
人は外の熱をかんたんに自分の中へ流し込ませているのではありません。
熱が皮膚に触れるところで、その熱を自分にふさわしいものにすることができなければなりません。
そうでないと、風邪をひいてしまいます。
風邪は、自分の生体にふさわしい性質に変えることができなかった
外の熱が惹き起こす中毒なのです。

「熱(量)がある」とか「熱い人だね」という表現はよい意味でも悪い意味でも使われますが、シンプルに考えるなら熱は自己を拡張して思考の枠や活動範囲をひろげるときに、なくてはならない貴重な燃料、ということもできます。

うけとめた熱量によって自己の性質が変化するなら、自己拡大することに積極的か否かで受けとり方もずいぶん変わってくるのだろうし、地上生活のドン底を探索しているときなんかは、冒険のさなかに出会った地球社会どくとくの不燃物(それも大きな自我の一部なのだと思いますが)を掃除しておかないと、完全燃焼できずに炎症をおこしたり風邪をひいたり、からだが悲鳴をあげてしまうのだろうな、と。

「原初、熱があった」ということばをそのまま臓腑におとすなら、この太陽系のはじまりから存在しているものたちのエネルギーや思想、記憶など、つまるところ人間存在をはるかにこえたものたちの熱量は、たえずふり注がれ、大気に充満し、流動して、世界を創造しつづけているのだろうと感じています。

火のからだをもつとされる大天使の熱をうけとめる器がひろがるほどに、ちいさなからだに収まっている自己意識だけがこの世界のすべてと思いこんでいる洗脳から解放され、個人に閉じこもることなく拡大してゆくチャンスも広がるのではないのかな、と。

たとえば体質のちがう人々がおなじ熱量に対峙したとき、ヨロコビいさんで火中に飛びこむ人もあれば、つかずはなれずあたたかさにつつまれる距離を死守する人もいれば、冷えこむほどにドン引きしてしまう人もいると思います。

外界の熱を受けとめて変容していくプロセスは、「その熱を自分にふさわしいものにすること」ができなければ「勇気を選ぶ」どころか風邪をひいてしまうこともあるわけで、私たちの皮膚のうえには自分の生体にふさわしい熱量を受けとれるようサポートしてくれる、ボリジの花のような瑠璃色に輝くバッファ(青いマント・のようなオーラ)があるのかもしれません。



熱のきざはし、ふたたび


ギリシア神話ではプロメテウスが神界から火を盗み、オオウイキョウを火口ほくちとして人間界にもちこんだお話が有名です。
プロメテウスはティタン(巨人)族の一柱神で、人間を創造した神ともいわれています。

天地が明確に分かれることで、土元素(固体)優勢の地上世界で光は色に制限され、音はデシベルと周波数に制限され、熱は火力や温度として計測できるものに制限されて、ようやく肉体というちいさな存在に制限されたヒトの五感で、認識できるようになりました。

現代社会は、まさに制限マスターともいえる人類によって、ゆるぎない物質的世界を協同創造しているまっただなか、という感じがします。

「健康の地図帳」講談社
人の可視領域


過去記事のフェンネルにも綴りましたが、プロメテウスの物語は天界から地上世界のあいだの火加減調節をあらわしたもので、「からだに制限される世界」という舞台を確立するためのプロセスをあらわしているのではないかと想像しています。

制限のある世界を創造するためには、まずはじめに天地の境界線をきっちり区切ることが必要で、つぎにその堅牢な境界線を自在に往来するための梯子をかけるために、1柱分の供儀ともいえるエネルギーが必要だったのかもしれないな、と。

巨人神族プロメテウスのおはなしは、1柱神の肝臓(血)が媒介となり、大鷲がついばんでは地上に少しづつ神の血(神界の火)をおろし、ゆっくりじっくり3万年かけて、火力調節しながら土元素優勢な地球惑星をカタチにしました(制限のなかにとじこもる舞台を整えました)という、壮大なプロセスがあったんだろうな、と想像しています。

大地の密度、大地の磁気、大地の重力は、上方に向かうことによって、下方にむかう愛および供儀の力と地上で合生する。
その協同をとおして両者が出合う地表で、植物は成長する。
植物は宇宙の愛、宇宙の供儀、宇宙の重力、宇宙の磁気の協同を表現するものなのだ。

「天使たち妖精たち」R.シュタイナー(風涛社)


星型の可憐な花がひらくまえのボリジのつぼみは、一撃必殺のサソリの尾のようにみえます。
つらぬかれた瞬間に、制限ありきの思考の枠に風穴があいて外界の熱がとりこまれ、「勇気を選ぶ」魔法にかかってしまうのかもしれません。

熱の通路をこしらえつつも、ボリジのエッセンスはやわらかく浸透しながら固体をつつみこみ、いつのまにか瑠璃色のヴェールみたいにからだをとりまくオーラをいっそうあざやかに染めあげて、女神の庇護を想起させ、神界の火をぬすんで地上におろしたプロメテウスのように、大胆不敵な勇気の1歩をあと押ししてくれるような気がします。

ボリジの花が一輪咲いていました。
撮影したのは1月末ころ、花が見ごろになるのは2月以降の地域です。
全草をおおうケモケモは草食動物をよせつけないための工夫といわれています。
ボリジは「サソリ状集散花序」に分類されます。


体内をめぐる熱量だけではふんばりがきかないなぁと思うとき、
気分は昂揚しているけれど言動が伴わずストレスがたまってしまうとき、
シンプルに大海原や大空をみてココロおどり冒険心をかきたてられるとき、
地球制限マスターの極意はもう充分に堪能したので、つぎのフェイズに飛びこみたいなぁと思うとき。

押しの強さもインパクトもないけれど、ふわりと背中をおしてくれるおおきくてやさしい手のひらみたいなボリジのスピリットには、これまでなんども助けられてきたんだなぁと、数十年つきあってみてようやく感じられるようになりました。

☆☆☆

お読みくださりありがとうございました。
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