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【ハーブ天然ものがたり】ハゴロモグサ/レディスマントル


賢者の石をつくる水


西洋ハゴロモグサは別名レディスマントル、バラ科ハゴロモグサ属(学名 Alchemilla)のハーブです。
学名のアルケミラをそのまま呼称するのは園芸業界での通称で、Alchemillaはアラビア語の錬金術に由来した名称です。
ハゴロモグサがもつ不思議な魔力を表現したのだといいます。

ヨーロッパからアジア原産で高山地帯の野原や林、岩場などに自生し、葉はまるい手のひらのような(猫さまのパーみたいな)カタチをしています。

葉の表面は細かい毛によって緻密に覆われているので、葉のうえについた水はコロコロと毛のうえをころがりながら雫となり、葉の上にたまってゆきます。
中世ヨーロッパでは西洋ハゴロモグサの葉にあつまる雫が「賢者の石」を作るのに必要な水として重用されてきました。

同時代のハーバリスト、ニコラス・カルペパーは、その雫を飲むと妊娠した女性を助けると伝えました。
西洋ハゴロモグサの使用法や効能について文書に遺されたものは多くありませんが、ヨーロッパでは民間療法として受け継がれ、体感的な使用の効果は途切れることなく口承されてきました。

魔力に満ちた水をあつめるハーブと信じられてきた西洋ハゴロモグサは、その葉が広げたマントのカタチに似ているということもあり、16世紀ころレディスマントル(聖母のマント)と名づけられました。

葉の形についてはライオンの足にも似ているということで、ラテン名ではレオントポディウム(ライオンの足)と呼ばれることもあります。


学名にレオントポディウム Leontopodium (ライオンの足)の名をもつハーブにエーデルワイスがありますが、その記事はこちらに綴らせていただきました。


西洋ハゴロモグサは寒さと霜に強いので、ハーブガーデンや比較的大きな公園などで、グランドカバーとして植えられているものを時折目にします。
かっこいい風合いの岩を連ねて区画整理している周囲に植えてあったり、小径をかたどるように植えられていたり。

日本原産種は北海道・夕張岳、北アルプス・白馬岳、南アルプス・北岳などに自生し、学名を Alchemilla japonica 、ハゴロモグサと呼ばれます。
環境省のレッドリスト「絶滅の危険が増大している種」に登録されているので、いずれ現地球史の日本国土からは、消えゆくハーブになるかもしれません。

西洋ハゴロモグサをハーブティで探すならレディスマントル、観賞用園芸種はアルケミラモリス(Alchemilla mollis)が、日本市場に多く流通しているようです。

ウーマンズ・ベストフレンズというニックネームをもつレディスマントルは、現代ではハーブティが最もスタンダードな使用方法で、月経不順から更年期症状に効果があるとされ、生殖器系のトラブルを悪化させないよう、サポートしてくれると考えられています。

全草にタンニンを含むことから、収れん作用により下痢や胃腸炎を緩和し、喉の痛みや歯肉の出血を鎮める効果もあるので、うがいなどの使用方法も推奨されています。
もちろん止血や消毒作用に優れることから、傷薬としても用いることができます。

乳の出をよくするために牛の飼料に混ぜられたり、葉を煮だして緑色のウール用染料としても使われてきました。


聖母マリアのマント


レディスマントルのレディは聖母マリアを意味しています。
マリア様のマント(外套)といえば青い色を想像しますが、宗教画にはアトリビュート(持物)というお約束事があり、聖母マリアを描くときのアトリビュートは海の星(マリア・ステラ)と称えられる青色のマントなのだそうです。

ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィ「祈る聖母」(1640-1650)


聖母マリアの青いマントに、ローズマリーのものがたりは外せません。

学名の Rosmarinus(ロスマリナス)と、聖母マリアに関係の深いハーブという逸話から、マリア様のバラ rase of maria(ローズオブマリア)と呼ばれるようになり、学名と音が似ていることから Rosemary(ローズマリー)と呼ばれるようになったというあたりがはじまりのようです。
有名な逸話では
「追ってから逃れるために聖母マリアはローズマリーの生け垣に、そのとき着ていた青い外套をかぶせて身を隠し、難を逃れることができました。そこでローズマリーを祝福し、それまで白い花を咲かせていたローズマリーは、この時から青い花を咲かせるようになったといいます」というものがあります。

【ハーブ天然ものがたり】ローズマリー

聖母マリアのアトリビュートとして植物界からバラとユリが抜擢され、芸術界で不動の地位を得たようにみえますが、レディスマントルやローズマリーに示されるように、ハーブ全般を見渡すと他にもたくさんの植物たちが聖母とのつながりをもっています。
聖書の英語訳以外にはバラと訳された部分が水仙になっていたり、ヒヤシンスだったり、野花やサフランと訳されているものもあるそうです。

世界中の土着信仰や古代民族の神話・信仰が、ある時代からぎゅぎゅっとキリスト教に集約されていく過程で、あらゆるものを包含していた、大きな大きな女神サイズの天蓋は、人型サイズに小さく分断されて、聖人ごとのマントに分割されていったのだろうか、と想像しています。

たとえばハゴロモグサは、レディスマントルと名前を付けられる以前、北欧神話の女神フレイヤに捧げるハーブだったという説があります。
女神フレイヤは生と死、愛情と戦い、豊穣とセイズ(人心を操る魔法)をつかさどり、アース神族の長であるオーディンやヴァン神族の長ニョルズとも対等な力をもつことから、対概念的な女神として位置づけられます。

蜂蜜と琥珀を意味するベイグルとトリエグルという2匹の巨大な猫がひく車で颯爽と移動し、自らも牝山羊に変身することができ、鷹に変身できる羽衣(マント)で空を飛ぶこともできます。

ウィキペディア-フレイヤ
エミール・ドプラーによって描かれた
猫が牽く車に乗るフレイヤ


北欧神話では戦場で死んだ勇敢な戦士がヴァルハラに招かれるというお話は有名ですが、その選別はフレイヤによってなされ、オーディンと分け合うという記述がのこされています。
主神と対等に戦死者を分け合う力がある、ということからフレイヤはオーディンの妻フリッグと同じ女神だったのではないか、そして戦死者をオーディンの元へ運ぶワルキューレたちの実質的なリーダーだったのではないか、という説も含めて研究は進行中だそうです。

女神フレイヤはMardöll(マルドル、マルデル)、Hörn(ホルン、ホーン)、Gefn(ゲヴン、ゲフン)、Sýr(スュール、シル)など、神話のなかでたくさんの名を使います。
【ハーブ天然ものがたり】ニワトコ/エルダーでご紹介した「ホレおばさん」も、女神フレイヤ(あるいは主神オーディンの妻フリッグ)なのではないかという説もあります。

キリスト教は善と悪を明確に線引きし、さらに善のなかでも純潔、豊穣、多産、処女性などさらに役割をこまかく分割して、女神の総合的な力を分断してきた(近代思想的な)意図があるように感じています。



マントは防寒の用途もありますが、袖がついた防寒着に比べると圧倒的に魔法的な匂いのする御召物、という気配が濃厚になります。
人型サイズに分割されたとはいえ、マントを羽織るだけで人ならざるモノの気配が漂い、胴体を隠すことで隠しきれない品性や魔性、神秘性や怪しさが滲み出てしまうような。

象徴としてのマントのはじまりは、地球を覆う大きな天蓋で、古代エジプト神話に示される天空女神ヌトだったり、メソポタミア神話のアンだったりするのではないかと妄想しています。

天空という大きな天蓋は創造降下によって分割され、いろいろな神話のなかに神仙キャラクターとして登場する、と考えるなら、キリスト教に描かれる聖人、聖女も分割された天蓋マントを羽織り、持物としての布によって、元はひとつだったことを表しているのかもしれません。


英雄をまもる幌、武士をまもる母衣ほろ


マントの歴史は人類が狩猟をはじめ、その毛皮を防寒用に羽織っていた時代にさかのぼるといわれています。
ヨーロッパでは支配層の人々が権威を象徴するものとして活用してきました。
産業革命が起こって19世紀あたりからファッションとして定着してゆきますが、身分や職業を示すための制服としても使われてきました。

現地球史における象徴としてのマント人は、社会的な階層のトップに君臨する王族、貴族、騎士、司祭などです。
あるいは社会的な階層枠におさまらない旅人や魔法使い。
さらに階層を引っ掻きまわす怪盗や、超人、吸血鬼、悪魔と、それに対抗するヒーローにもマントは必需品です。
キャラ的にはいつも動きまわり、考え続け、求め、奪い、奪われ、取った取られたとハラハラドキドキ、波乱万丈な道を行ったり来たりする感じです。

神話には放埓な男神や英雄がよく登場しますが、有名どころのキャラクターにはみな女神(あるいは母神)の庇護があり、自由闊達にその力を振るうことを使命としています。
立ち止まることなく走り回り、いったりきたり、上ったり下りたり、ともかく活発に動きまわります。

では放埓のさらなる元型はいったいどこにあるのかというと、女神フレイヤをはじめとする古い女神たちではないのかな、と考えています。
天真爛漫というか、まさに天衣無縫なるマントをひるがえし、溌剌と、やりたい放題の神話が散見するからです。

時代は変遷し古い女神たちは後方に引っ込んだものの「俺のバックにはフレイの姉御がいるんだぜ」とばかりに、やんちゃな男神、あるいは英雄キャラクターが新世代として大暴れしていったのではないかな、と。

タロットカードの戦車に描かれる英雄は幌つき(天蓋)馬車にのって、女神の庇護を受けていることを象徴しています。

「戦車」の英雄は天蓋に覆われた馬車に乗っています。
青マント3人衆の、
「隠者」は探求の旅人、魔法使いにも見えます。
「正義の女神」は地球史を掌握し「女教皇」は地球史を見守る
天空神成分多めの象徴なのではないかと。

以前、ある瞑想法でタロットカードの絵柄を見ながら変性意識に入るという会に参加した時、戦車のカードでは決まって巨大な着物の帯が出てきて、帯の上を勢いよく戦車が走りまわる、というイメージを受けとっていました。

帯は神社でいうところの参道を表し、おやしろと現世のあいだを戦車(英雄)は、女神の指示通りに行き来しているのではないかと。

そんな天空神の分割魂が宿るものとして、はじまりは動物の毛皮だった。
それから動物の毛やお蚕さんの繭、植物の繊維で織られた布へと変化し、布がもつ天空神成分は微量ながらも、裁断の少ないものほどその効力を発揮しやすいのでは、と妄想はふくらみます。

だからマントには魔法の匂いがついてまわり、動物に変身できたり、透明になったり、空を飛べたり、シールドになったり、物語のなかでさまざまなマントが登場してきたのではないかな、と。


古く日本でも、女神を母と表現したのか、戦国時代に母衣ほろと呼ばれるマントのような武具がありました。
武士の七つ道具のひとつとも称されるほど由緒あるもので、兜や鎧の背に巾広の絹布をつけて風で膨らませ、矢や石から防御する武具のひとつです。


レディスマントルという名をもつハーブは、女神の庇護と恩寵を思い出し、この世界を縦横無尽に走り回って挑戦をつづける意欲とセットになっているような気がします。言い方を変えるなら、

マントに身を包むキャラクターたちのように、与えたり奪ったり、受けとったり奪われたりする、その参道を走りまわる闊達な力を得る、ということではないのかな、と。

ウィリアム・ブレイクのことばを借りるなら「思想は、おのれより偉大なるものを知ることは不可能」で、レディスマントルに秘められた女神の力が、いったいどのように作用するのかは、はかり知れない、というのが正直なところです。

ただ日本に自生するハゴロモグサが絶滅危惧種に指定されていることを思うと、日本の民族魂は「女神の参道」を走り抜けて、あたらしいフェイズへ旅立とうとしているのかもしれない...。なんてことを思ったりもしています。

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