志水あみ(shisui ami)/山河図
「最高の夏にしようねノイローゼ」「最高の夏にしようねノイローゼ2」で使用した、一人芝居用上演台本です。
「ゴテンバサノバザール♯3」使用テキスト
「ゴテンバサノバザール♯1」使用テキスト
「ゴテンバサノバザール♯2」使用テキスト
岩井さん「これからやるのは、一度作った/数年前に/一人用の演劇を、五人前に引き伸ばして膨らませて」 安川さん「みんな17歳だった」 岩井さん「その五人前の作品を、たった二人でやる という……」 安川さん「私たちは」 岩井さん「という、二人で。」 安川さん「たったの、特別なことはなくて」 岩井さん「ということをやりますよ〜」 岩井さん「──今ここに何人いる?今ここに何人いるように見えますか?今ここに何人いますか?実際。実際ですよ?」 安川さん「私たちは普通だった」 岩井さん
「七夕は決まって雨」というのが私が短くない人生の中で誰に教わるでもなく身につけた定説で、だから「七夕」という言葉を聞くたびに私は「織姫と彦星」よりも「天の川」よりも先に「雨」という言葉を連想する。 七月六日。アルバイト先の源くんからLINEがきた。 「新人の男の子、すっげえイケメンだた」 私はその時YouTubeでローランド・ショーを見ていて、つまりTHE CLUBとTHE CHICに在籍する沢山のイケメンホストたちの顔を目にしていたところだったので、源くんがそうとは知らずに
梓 幹雄の彼女 幹雄 梓の彼氏 朝、1Kのアパートのキッチンテーブルで幹雄が朝食にジャムの塗られたトーストを食べている。 梓は冷蔵庫を閉めてからテーブルにつく。 梓「幹雄ってほんと、ありがとうの一言が言えないよね」 幹雄「言えるよ」 梓「じゃあ私が言ってもらってないだけか」 幹雄「憶えてないだけだろ」 梓「はあ」 幹雄「ショックだわ。感謝してるのに。それを伝えてるのに、憶えてないって何。」 梓「怒ってるの?」 幹雄「返してほしいわ、俺の言葉とか。言葉に込めた気持ちとか。」
前回の記事 私がことのあらましを伝える間、倉知は私の淹れたお茶を何杯かおかわりしながら「うん」だとか「ふん」だとかを繰り返すばかりであったが、「以上だ」と話が現時点に着陸したところで一度眉毛を大きく動かし、言った。 「──それで俺はなんでこんなところに?」 意外な返答に面食らってしまった私は、「だから」と置いてもう一度同じ話を始めようとしたが、倉知がそれを遮った。 「ああ、いい、いい。話がわかってないわけじゃないんだよ。俺が尋ねたいのは、黒田は俺に何をして欲しいのか、及び
結局、彼女に向けて三國さんと呼ぶことはなかった。 それでも私が彼女のことを頭に浮かべるときにはいつも、「三國さん」と想っている。 私は彼女のことを何も知らない。 井の頭公園の大きな池に一艘のボートが浮かんでいる。私はそこで三國さんの横顔を眺めていて、三国さんは池の水面を眺めている。現在とはただそういう今である。彼女の背景には赤や黄色がまだらに色づいていて、波の揺らぎに合わせてそれらはのたりのたり不規則に運動している。 綺麗だなと三國さんは私に聞こえない声で言ったが、だ
レミングフラワーという花がある。 俺がいつだったか恋人と松並の丘を散歩しているときに咲いていた。恋人が「レミングフラワーが咲いているぞな」と言って笑った。だから憶えている。 レミングフラワーは鳥媒花である。 彼らの特徴は渡り鳥を媒介にして受粉を行った後、葉が特殊な成分を分泌することにある。特殊な成分とは毒である。毒は茎を経由して根に届き、根元から死ぬ。世にも珍しい、自殺する花なのだ。渡り鳥を媒介する花のため、レミングフラワーがある場所に咲いているのは一代限りとなる。
もういくつのお別れがあったことでしょう。わたしは1、2、3、4と「9」までの数字を覚えた時に、とにかく何でもいいから数えたくって、それで──それでというわけでもないんですけど、自分の身近で死人が出たらその都度指折りしようと心に決めました。 そうは言っても思いついた勢いそのまま「一、二!」と数えた幼稚園の園長先生と近所で「全滅のオジキ」と呼ばれていた昼日中でもお構いなしにわたしたちが遊んでいる公園に時々やってきて砂場の蟻穴に二リットルペットボトルの水を全部注ぐおじさんの分の
それで僕たちは手を繋いでATMを目指した。 引き出すお札の枚数を入力する画面で僕は一度振り返って、彼女のつらを見た。彼女──のちにマイ・スウィート・ピアノと僕に名乗ることになる、はガラス戸を開けて酒を何本か選んで小脇に抱えていた。ストロングゼロだった。そういった理由から、僕は「5」と入力して、そのあとやっぱり「3」と打ち直した。 機械から慶應の校長の顔が三枚、押し上げられて出てきた。「ディグトリオでーす」とふざける三人の校長の口を塞がんと言わんばかりに指ですり潰すよう
湖底 という名前は、のちに継母となる女が名付けた、ということを父は死の間際に私に教えてくれたが私はそのことを弱々しく語る父がその身を横たえる布団の皺をこそ見つめながらなるべく見つめながら、ただの音として聞いていたに過ぎないので父が死に遂げた後も継母が死んだ時も別段思い出すことはなくかといって忘れ尽くすこともないつまりは一片の情報として頭の中のたんすに仕舞っていた。 私が生まれたのとほとんど時を同じくして私を出産した女はまるでもともと丈夫ではないその身へのとどめを刺されたか
変なやつがいた。高校の同級生だった。二年生の時に同じクラスになった。 当時の私はめちゃくちゃにバカで、バカというのはつまり勉強ができなかったし勉強するぞという気概もなかったし勉強しなければという危機感も持っていなかった。 彼、須藤くんは同じクラスになる前も名前だけは知っていて、それはなぜかというと学年で一番勉強ができるというので有名だったからだ。 二年生のクラス替えをした際に隣の席になった。「これがかの有名な」とまるで芸能人でも見かけたかのような驚きをおぼえたが、もっ
1998年師走の話。 排気口(劇団の名前)の菊地穂波さんから連絡が来た。手紙で。 「ゴテンバサノバザール、参加者増えていますか?よかったら、12月26日にツイキャスやるんですがそこでゴテンバサノバザールの告知しますよ。」 【ゴテンバサノバザール】というのは私が23年後つまり2021年の5月にその第二回の参加者を募ることになる朗読配信企画である。 私が手紙を受け取ったその日のうちに、「’98年12月26日・夜、ツイキャスを行います」という文言が排気口のTwitterで告
ある朝起きたらなんか視界が狭くて、よくよく注意してみると右目が見えなかった。私は普段からあんまりテンションの高いほうではないというかこないだお昼休みに私の右斜め前の席のコンドーさんが食堂に行ってる間、コンドーさんは親が共働きだからいつも教室でお弁当食べるんじゃなくて食堂でひとりで食べてるんだけど、ひとりで食べてるのはコンドーさんが友達がいないっていうかいじめられてるからなんだけど、そのコンドーさんの多分数学のノートにコンドーさんをいじめているでおなじみサンノミヤさんたちの女子
トンネルを抜けると、そこは あるぴの市 だった。 私は今日も今日とてって感じで学校帰りに自転車スイーと走らせて、iPod ナノでPUFFY聴きながら、10 メートルくらいのしょぼくれたトンネルを抜けた。私の iPod ナノはお父さんのパソコンに元々入ってた PUFFY しか入ってない。うちのお父さんはハゲてるし太ってるくせに PUFFY が好きなんだ。 トンネル抜けてこっからゆるやかな坂です。坂はゆるやかだろうがなんだろうが毎度さしかかるたびにちょっとめんどくさいと思
おもいでの中の帰り道は、いつもだいだい色の田んぼ道です。 1. 図書室は校舎の三階にあって、帰ろうと思って階段を降りていると踊り場に、堀ちゃんが立っていました。 「待ってた。」 「どうして?」ボクは堀ちゃんと、クラスメートながら殆ど喋った事なんて無かったから、不思議に思って尋ねました。 「なに借りたの、それ」とボクのどうしてには答えずに堀ちゃんは質問に質問を返します。 「マルセル・マルボーの詩集だけど・・・」答えてボクは恥ずかしくなってしまいました。詩集を借りるなんて、
排気口(劇団の名前)のワークショップに呼んで貰ったので行った。楽しかった。主催した菊地穂波──以下、人称代名詞を「Dear(ディア)」と表すことにしますが──におかれましては三十分尺の新作を毎月一本計三本も書き下ろす作業は、胃の内容物を全て出し尽くしたのに吐瀉し続けた果てにあふれた涙をおよびじゃねえと叩かれた末にようやく血を吐くような作業だったらしい。直筆で書かれたDearの台本はインクの代わりに比喩でなく血で書かれていて私は思わず「血書じゃん」と言ったけど、それでも笑う気
A面 二次郎は11歳であった。 11歳であったが、周りの人間はみんな二次郎のことを21歳くらいだと思っていたし、実際彼は21歳くらいの風貌をしていた。 二次郎は思っていた。僕は知っている。 この世界に大人なんてものはなくすべて社会という大きな鍋に生まれた瞬間からぶち込まれて高温でグツグツ煮込まれただけの子供でしかないということ。そもそも大人/子供という境目は誰も決められないのにいつのまにか体の大きくなった人間を周りの人が大人だと線引きしているだけだということ。そしてその線