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承認欲求もほどほどに…数字ばかりに囚われたクソみたいなこの世界に一石を投じる型破りなパニックスリラー「スプリー」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(661日目)

「スプリー」(2020)
ユージーン•コトリャレンコ監督

◆あらすじ
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母親と二人暮らしのカート・カンクルはソーシャルメディアで注目を浴び、スターになることを夢見ているが、現実はうまくいかずぱっとしない生活を送っている。カートは「スプリー」というライドシェアアプリで運転手の仕事をしながらライブストリーミングで注目を集める為に「ザ・レッスン」というおぞましい内容の生配信を思いつく。(Filmarksより引用)
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公式サイト↓

『再生回数に取り憑かれた動画配信者が殺人で話題になろうとするもまったく相手にされず、後には引けなくなり凶行はさらに加速していく』という内容のヒトコワ系のパニックスリラーです。

「再生回数稼ぎや承認欲求を満たすために行動がエスカレートしていく」みたいな展開は割とよくありますし、物語前半は特にテンポが悪く退屈に感じる部分もありました。

ですが!

尻上がりに後半にかけて盛り上がっていく展開は相当面白いですし、GoProやスマホなどを駆使した斬新な撮影方法によって臨場感が何倍にも増しており、個人的にはかなり楽しめました。

こういう二画面構成みたいのが非常に有効的でした。
(映画.comより引用)

ちなみにタイトルにもなっている“スプリー”とは、本編ではライドシェア(一般のドライバーが自身の車で乗客を有料で運ぶサービス)アプリのことを指しますが、本来のスプリー(spree)は「一時的な遊びや楽しみの連続」という意味です。

監督•共同脚本を務めたユージーン•コトリャレンコ氏はウクライナ出身の新進気鋭の監督•脚本家です。

synca.jpより引用

デビュー作である「0s & 1s」(’11)は『主人公が盗まれた自分のパソコンを探す』というシンプルなストーリーをOSの視覚言語を用いて、パソコンのデスクトップ上のやりとりだけで進行していくという珍しい手法を用いております。(残念ながら日本では未公開です)

GoProやスマホを用いた大胆な撮影方法や画面構成、そして“SNS”や“承認欲求”など今の流行りに即したテーマに、上手いこと自身のメッセージ性を込めた作品作りには目を見張るものがあります。これからが非常に楽しみなクリエイターの一人だと思います。この監督は要チェックですよ!

現在アマゾンプライム、U-NEXTにて配信中です。

映画.comより引用

◇動画配信でインフルエンサーになることを夢見るカートは10年近く活動を続けるも視聴者はいつも一桁そこらで一向に現状は変わらない。そんな折、ライドシェアアプリ“スプリー”で運転手として働いていた彼は視聴者数が激増するであろう画期的なアイデアを思いつく。それは乗客を車内で殺害する様子をリアルタイムで生配信するという恐ろしいものだった。しかし、いくら殺人を犯しても「フェイク動画だ」だの「ヤラセだ」だのとあしらわれ、視聴者はさらに減ってしまう。あろうことか彼の怒りの矛先は、自分を無碍に扱ったり、タグ付けしてくれない人気インフルエンサーへと向くのであった…

といった感じで展開していきます。

こういう車内カメラみたいな映像も面白かったです。
(映画.comより引用)

あらすじだけを読むとわりとよくある感じの最近のヒトコワ映画です。流れも「ダメダメな主人公がバズりたくて殺人を犯す→バズらないのでまた人を殺す×3くらい→人気インフルエンサーを襲い始める→最終的には反撃され死亡」と結構テンプレ通りですし、登場人物一人一人にもそこまでアイデンティティがあるわけでもなく、どいつもこいつも再生回数や承認欲求に取り憑かれているありふれたクズとして描かれています。

常に配信していたりとスマホを片時も離すことはなく、視聴者数や登録者数のことばかり気にしています。
(映画.comより引用)

主人公のカートは配信者としてのセンスは皆無ですが、車内に大量のカメラを設置し、人が死ぬ様子を視聴者の好きな角度から見られるように工夫したり、乗客にサービスで渡す水にバレないように毒を仕込んだり、何の躊躇いもなく殺人を犯したりと、異なるベクトルでの努力や知恵を働かせたりはできます。

主人公のカート•カンクル
演じたジョー・キーリー氏は人気ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」等でもお馴染みです。
(映画.comより引用)

相手がインフルエンサーと分かるやいなや無神経に「自分をタグ付けしてくれ」と誰彼かまわずしつこく迫ったりと常識や羞恥心は皆無で、平気で人を殺すなど精神異常者のような一面も見せます。しかし『なぜそうまでして人気者になりたかったのか』という一番大事な部分があまり語られておらず、カート自身のバックボーンも薄いため、物語自体にあまり厚みが感じられませんでした。

両親が離婚しているため、『母親を支えたい、喜ばせたい』みたいなところが彼の原動力なのかもしれませんが、それだとクライマックスの展開に少々矛盾が生じるようにも思います。(映画.comより引用)

配信者としても有名なコメディアンのジェシーは中盤からは実質主人公のようなポジションになっています。

実質主人公のジェシー(映画.comより引用)

物語の途中まではカートたちと同様にSNSに囚われておりましたが、終盤には突如SNSを辞めることを宣言して

「みんな取り憑かれて抜け出せない。他人の目を意識して、常に演技をして、本当の自分を見失わずにいられる?」

「今いる世界の話よ。みんな自分を偽ってる」

という、昨今のSNSのあり方や、スマホやネットに依存して物事の本質を見ようとしない人々に対して痛烈なメッセージを発しています。本当にその通りだと思います。これは相当良いセリフなんじゃないでしょうか。

そして、動画を視聴している人々は最後の最後まで他人事で無責任なコメントばかりをしており、これもいわゆるネットのあるあるな感じがしました。

皆で一緒にいるのにスマホばかり見てるのはなんだか寂しいことですね。(映画.comより引用)

少々ネガティブなことも書いてしまいましたが、今作は先述した通り、GoProやスマホを用いた斬新な撮影、車内映像とカートの配信画面など2分割で画面が構成されたりと目新しい仕掛けが随所に仕掛けられており、今まさに自分がその場にいるのではと錯覚してしまうほどのライブ感があってとても楽しいです。

左側のジェシーの生配信を右側のカートがリアルタイムで見ているみたいな演出が多く、それがすごく良かったです。
(映画.comより引用)

車が転倒してひっくり返ったカメラからの映像など面白いアプローチが多く、「普通の映画は見飽きたよ」、「新しい映像表現が見たい」という人にも持ってこいの作品だと思います。

物語の最後ではカートは死に、撃退したジェシーは英雄としてバズり倒します。しかし、カートの死をきっかけに『こんな頭のイカれたヤツがいたんだ』という悪いバズり方をして、いわゆるネットミームになったり、あらゆる掲示板でカートの動画が拡散され続けるという、なんとも皮肉な結果で幕を閉じるのが非常に好みでした。この終わり方はめちゃくちゃ良かったです。荒削りな部分もありましたが、非常に新しさを感じる映画でした。

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渋谷裕輝 公式HP↓


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