宇宙人VS.新型ワクチン『宇宙戦艦のび太を襲う』/藤子Fの未知との遭遇⑦
平凡な男の子だった野比のび太。いや、平凡を大きく下回る不出来な男の子であったのび太だが、ドラえもんが未来からやってきてからは、日常的に不思議なことが巻き起こる、世界で最も稀有な体験を積んでいる人物となった。
そうなると、非日常的な出来事に対しての免疫力がつき、ちょっとやそっとのことでは驚いたりはしない。
例えば宇宙人がやってきても、それはさも当然のこととして受け止められる。もちろん、逆に宇宙に出向いて、異星人と交流することもある。
これまでに書いてきた「宇宙人」登場エピソードを紹介した記事をまとめてみると・・・
かなりある!
他にも記事化できていない作品でも、『あべこべ惑星』や『風船がとどけた手紙』、事実上の最終回『ガラパ星からきた男』などもある。大長編でも「鉄人兵団」や「アニマル惑星」など枚挙に暇がない。
ともかく、のび太たちは「未知との遭遇」があまりに日常茶飯事なのである。
本稿では、そんな「ドラえもん」の数ある宇宙人ものの中でも、少々知名度の低い忘れがちな一本を取り上げる。
1990年の連載後期の作品だが、これまで藤子先生が描いてこなかったタイプの宇宙人を登場させている。本当にアイディアの尽きない先生であったのだ。
本作は宇宙人ものと言いつつ、予知夢や未知なるウィルスといったSF(すこし・ふしぎ)エピソードのオンパレード。意外と壮大なお話なのである!
冒頭、しずちゃんが不思議な話をみんなに披露する。今回は珍しく出木杉も聞き手のメンバーに加わっている。
しずちゃんのおばさんが、旅客機が墜落する夢を3日間続けてみたので、気になって予定していた海外旅行をキャンセルしたところ、おばさんが乗るはずだった飛行機が大事故を起こしたのだという。
夢のおかげで命拾いしたという話で、いつもならのび太が真っ先に信じそうなものなのに、今日に限っては「そんなの偶然だよ」と笑う。すると、いつもだったら「偶然だよ」と言いそうな出木杉がこの話に乗ってくる。
出木杉曰く、しずちゃんのおばさんが見たのは「予知夢」と言う将来を見通す夢で、世の中にも実例の多い超能力であるという。
出木杉は、別の作品では予言など偶然かこじつけだと断定していたりもするのだが、今回は正反対の反応である。信じるに値する超常現象の基準が彼の中に存在しているのだろう。
「出木杉さんって物知りなのね」としずちゃんが尊敬し始めたので、気分を損ねてのび太は一人その場を離れる。
部屋に戻りドラえもんに予知夢は嘘かどうか尋ねると、「本当だよ」と一蹴。そしてポケットから「予知夢アメ」というアメを取り出す。このアメを嘗めてから寝ると、危険が迫っている時に夢の中で知らせてくれるのだという。
さっそく昼寝で試してみるとのび太。ドラえもんはのび太にとっての危険は先生やママに叱られるか、ジャイアンに追いかけられる程度だと笑う。のび太はその場で転がると、すぐに眠りに落ちて夢を見始める。昼寝の天才ぶりは健在であった。
夢の舞台は、意外にも宇宙空間。ゴゴゴと宇宙戦艦が航行している。悪魔のような風貌の宇宙人(と言っても可愛らしさがある)が乗り込んでおり、彼らは宇宙征服を目指して百万光年の旅に出ているらしい。
住みやすそうな星を求めていると、空気と水もあり、生物が住んでいそうな星を見つける。そう、それは地球。宇宙人たちは地球を征服するというのである。
そこでガバと目覚めるのび太。ドラえもんに説明すると、あまりに非現実的な夢であったが、「予知夢アメ」は決して嘘をつかないという。
もう一度寝て続きを確かめてみると、宇宙戦艦は大気圏に突入し、日本列島を標的に捉える。そして「食料にする宇宙人を探すのだ」と宇宙人が人類捕食宣言をする。ベロなんかを出しながら・・・。
宇宙人が攻めてくるのはもう確実。大慌てで防衛庁長官に電話するも、「つまらないいたずらはやめろ」と叱られてしまう。のび太と違って、一般人の宇宙人耐性は免疫ゼロなのである。
ママにしゃべっても時間の無駄。ジャイアンとスネ夫に話しても大笑いされるだけ。そこで先ほど「予知夢」を熱心に語っていた出木杉を頼ることに。
するとこれまでの出木杉とは若干キャラ変した感じで、宇宙人襲来の話をすぐに信じて「急いで対策を立てなくちゃ」とのび太たちの仲間入り。そしてこんな時のために密かに宇宙ミサイルを研究していたので、今夜までに完成させると意気込む。
宇宙ミサイルの研究? 俄かに信じがたいが、天才・出木杉ならそんな準備をしていてもおかしくはない。
このやりとりを聞いていたジャイアンとスネ夫は、先ほど笑ったことを詫びて、俺たちも地球防衛隊に入れてくれと志願する。まるで「大長編」のような一致団結ぶりなのである。
空き地で宇宙戦艦との戦いに備えて作戦会議を行うが、意見がまとまるはずもなく日が暮れる。そろそろ晩御飯だとスネ夫が愚痴り、ジャイアンが「飯と地球とどっちが大事だ!」と叱る。
こうなると頼みの綱は出木杉のミサイルしかない。スネ夫とジャイアンが出木杉に様子を聞きにいくと・・・、出木杉は「君たち本気にしてたの?」と、宇宙艦隊の話などまるでどこ吹く風。
何とこの日は4月1日=エイプリルフールで、出木杉としてはのび太の出来の悪い嘘に騙されたフリをしてあげていたのである。
思えば出木杉はのび太たちと違って「大長編」での非科学的な冒険に一切同行したことがないので、この手の話には乗ってこないであった。
「よくも騙したな」と、ジャイアンたちは怒ってのび太をボコボコにする。今回ののび太は嘘つきではないし、仮に嘘だったとしても四月バカということで怒るのはルール違反だろうに・・・。
倒れるのび太に、声を掛けるドラえもん。この二人の様子を遠方から伺っている一味がいる。例の宇宙戦艦に乗った宇宙人たちである。「不味そうだが一応食べてみるか」と言って、戦艦が猛スピードで突入してくる。
・・・とこれはのび太が見ている予知夢である。「予知夢アメ」の効果はまだ続いていたのである。のび太はギャッと飛び起きて、タケコプターを使ってその場を離れようとする。
すると、そのタイミングでのび太の口の中に何かが飛び込む。ドラえもんは虫だろうと聞き入れず、それよりも宇宙戦艦はどこへ行ったのか訝しがる。
しばらく屋根の上での周囲を伺っていると、のび太の体に異変が起きる。ゾクゾクと悪寒が走り、高熱が出て、苦しみ出す。ドラえもんがすぐに家に連れて帰り、「お医者さんカバン」で調べてみると・・・。
のび太の胃の中に変な物体が見える。拡大してみると、見たこともないバイ菌がウヨウヨしている。いや、このばい菌、何か見覚えがあるような・・。
そこでドラえもんは「ウルトラスーパーオールマイティワクチン」を巨大な注射を使って胃の中に注入する。するとばい菌たちは「イテテイテテ、全員脱出!!」と慌て出す。
のび太がゲボと咳をすると、口の中から何かが飛び出していく。のび太が予知夢で見ていた宇宙戦艦は、超小型のばい菌サイズであったのだ。彼らが食料にすると言っていたのは、菌として感染して体を蝕むつもりだったのである。
拍子抜けするのび太に対して、ドラえもんは
と、夜空を眺めながら誇らしげにのび太に語るのであった。もちろん、このお話はコロナ禍のおきる遥か昔のお話である・・。
日付が変わって、今度はしずちゃんがゴホゴホと咳込んでいる。風邪でも引いたのだろうが、のび太は「地球征服に来たインフルエンザかもしれない」と「お医者さんカバン」を持ってしずちゃんに声を掛ける。
そんなのび太をスネ夫とジャイアンが見て、「まだやってる。四月一日は過ぎたのに」と呆れるのであった。
実際問題として、宇宙人の襲来なんてことはないだろうが、伝染病の流行は定期的に出現する。私たちに必要なものは、宇宙ミサイルではなく「ウルトラスーパーオールマイティワクチン」の方であろう。
もしくは、手洗いとうがいかな?
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