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ドラえもん+エコ=国民的アニメ?『さらばキー坊』/グリーン・ドラえもん①

1984年の劇場版ドラえもん「のび太の魔界大冒険」は、コロコロコミックの連載時から大興奮した個人的に最も大好きなドラえもんの作品である。いずれの日か、詳細な考察ができる日を夢見ている。

この「魔界大冒険」は、ドラ映画史上初めて「入場者プレゼント」が実施された作品である。配布されたのはドラえもんのイメージカラーであるブルーをグリーンに仕立てた「グリーンドラ」缶バッジであった。しばらく大事にしていたが、いつの間にか無くしてしまったようである。

当時は全く知らなかったが、Wikiによれば、映画5周年と自然保護憲章制定10周年を組み合わせて「僕たち地球人」というエコキャンペーンを張ったのだと言う。缶バッチの配布ははそのキャンペーンの一環だったのである。

このキャンペーンは今でもしっかり脳裏に焼き付いていて、これをきっかけに「ドラえもん」=地球にやさしいというイメージが流布されていった。国民的アニメへと発展していく大きなきっかけであったように思う。

「僕たち地球人」運動については藤子先生も賛同していたようで、この1984年の春から夏にかけて2本のエコロジーをテーマとしたドラえもん作品を描いている。それらは、7年後の大長編「のび太と雲の王国」にも強く関わっていく作品で、ドラ史上でも非常に大事な作品となっている。

そこで「グリーン・ドラえもん」と題して、その2作品を2本の記事にて丁寧に紹介していきたい。


「ドラえもん」『さらばキー坊』
「小学四年生」1984年4月号/大全集14巻

まず一本目は『さらばキー坊』である。単行本収録時にかなり加筆してあり、今読めるものでは25ページの大ボリュームとなっている。本作は3月に雑誌で発表となり、翌4月にはすぐにアニメ化された。このスケジュール感をみるに、本作はグリーンドラのキャンペーンの中核作品として、TVアニメと原作が同時に開発されたお話のようである。

ちなみに次稿で紹介する『ドンジャラ村のホイ』も同様のTV同時展開の作品である。

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冒頭はまるで大長編のような始まり方である。
宇宙人と思われる何者かが、地球の緑が急速に失われていることを懸念している。詳しく動向を知るために調査隊を送り、その結果次第ではしかるべき手を打つと、不穏な相談をしている。

続けて宅地開発が進む学校の裏山にドラえもんとのび太がいる。失われていく自然を目の前にして残念がるのび太。『森は生きている』などでご存じの通り、のび太は裏山の自然が大好きなのだ。

歩いていると、育ち始めたばかりの若い木を見つける。優しいのび太は、

「育てば大木になって何百年も生きられるのに・・・。もうすぐ掘り返されちゃうんだね」

と言って涙を零す。

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そこでこの木を救うべく自分たちの手で掘り返して野比家の庭に植えようとするが、ママからこれ以上狭い庭に木を植えないよう注意を受ける。

植えなきゃいんだろう、ということでドラえもんが出したのは「植物自動化液」という液体。これをドボドボと若木にかけると、足の生えた木の赤ちゃんに姿を変える。この木のキャラ造形の可愛いこと、この上ない。

名前をキー坊と名付ける。キー坊のエサは、肥料を混ぜた水。洗面器に水を張っておけば、飲みたいときに勝手に飲んでくれるのだ。そしてこの肥料には植物に考える力を付けさせる効用も入っている。

キー坊は、すぐにのび太の漫画を一緒に読むようになり、のび太の宿題にも興味を持つ。キー坊はTVにも釘付けで、日中は教養番組ばかり見るようになる。

キー坊はまるで仲の良い弟のようにのび太に慣れ親しむ。「のび太の恐竜」のピースケや、台風のフー子などを思い起こさせる。外で雨が降っていると庭へ出て、大喜びで雨を浴びる。こういう姿もとにかく可愛いのである。

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UFOが雨の中、地球の様子を観察している。このUFOが地球の緑の減少を調べに来た調査機である。そして、ここで地球の緑に興味を示していた宇宙人の正体が明らかになる。まるで人間のように歩行し会話をする植物型宇宙人であった。

調査の結果、地球の植物は進化から取り残された種族であるが、地球の支配者である人間の手によって植物は倒され、空気や水や土地も汚されていることが判明する。このままでは地球植物は全滅の恐れがある。手遅れになる前に、地球上の全植物を移住させようと、話が盛り上がっていく。

しかし一人(一本?)の老木が懸念を示す。「人間や動物は植物の吐き出す酸素を呼吸して生きている、植物を移住させれば死に絶えてしまう」と。しかし「絶滅に向かっている以上植物を救うしかない」という強硬派の声に、老木の主張は声を失ってしまう。

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地球では家に籠って勉強ばかりするキー坊にお日様の光を浴びさせようと、生まれた裏山へと連れて行く。案の定、草木の中で大はしゃぎのキー坊

ところが「この一帯も団地になってしまう」というのび太とドラえもんの会話を聞いたキー坊は大きくショックを受けて、「キ・キーッ!」と山の奥へと走り去ってしまう。初めて声を上げたが、キー坊ゆえに「キー」という鳴き声であった。

キー坊の行方を捜すのび太たち。あたりは暗くなっていく。すると、突然近くの木々が自然に掘り起こされ、次々と空中へと浮き上がっていく。のび太たちも宙に浮いたかと思うと、空中の巨大な円盤へと吸い込まれていってしまう。

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円盤の中。のび太とドラえもんの前に植物型宇宙人たちが姿を現す。のび太たちは宇宙人から「地球から植物全てを運び出す計画だ」と聞かされる。勝手な真似はさせないといきり立つドラたちだったが、種の弾丸を受けて倒されてしまう。

捕らえられてしまうのび太たち。「植物が無くなれば地球は死の星となってしまう」と計画返上を懇願するが、「放っておいても人間自らの手で植物を全滅させるだろう」と聞く耳を持ってもらえない。この辺り、これまでの「ドラえもん」やその他の作品でも見られなかった直接的な人類批判が展開されている。

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絶体絶命のピンチ。すると「それは違います」と声がして、奥からキー坊が歩いてくる。勉強好きだったキー坊はいつの間にか言葉が話せるまで進化を遂げていたのである。

キー坊は「ドラえもんとのび太は植物の味方であり、自分が話せるようになったのも二人のお陰」だと肩を持つ。そして、地球から植物を奪わないようお願いをする。そしてここからは、キー坊のオンステージである。感動的かつ、子供の読者にも自然の尊さがスッと入ってくるセリフなので、ほぼ全文を抜粋しておきたい。

地球と植物は助け合って生きている。動物は植物を食べる。でも動物が死ぬと土に帰って植物を育てる。木の実を突っつく鳥は種を運んでくれるし、みつを吸う虫は花粉を媒介してくれる。
植物を愛し大事に育ててくれる人間も大勢いる。そして何より植物は動物の吐き出す炭酸ガスを呼吸して生きている。
今のところ、確かに行き過ぎはある。あまりにも文明が栄えすぎて、人間たちは地球を自分だけのもののように思いこみ・・。でもそれを反省する声も高まっている。このままじゃいけないと、人間たちも気づいたのです。

教養番組を見たり難しい本を読んで見識を高めたキー坊の言葉は、説得力が抜群である。そしてさらに、

もう少し時間を下さい。人間たちはきっと、美しい自然を取り戻すでしょう。

と、宇宙人と地球人である読者にも向けた感動的なセリフで締めるキー坊なのであった。

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この演説を聞いて植物型宇宙人たちは、計画中止を決める。ただし百年後、地球がこれ以上荒れていたら戻ってくると、のび太たち(=読者)に警告を与えるのも忘れない。

ひとまず地球は救われた。そしてキー坊は進化した植物文明を見るために、宇宙人たちの星へと向かうことを決意する。さらば、キー坊。タイトル通りのエンディングである。

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「グリーンドラえもん」のキャンペーン作品ということもあり、かなり直接的な文明批判が盛り込まれている。『モアとドードーよ、永遠に』などエコロジーをテーマに含んだ作品は数多いが、本作のような表現方法を取るのは相当珍しいことのように思う。

本作が描かれてからまもなく40年が経つ。つまり60年後に地球が荒らされていたら、植物型宇宙人が再び姿を現すことになる。今の地球は温暖化がいよいよ急激に進み、環境破壊は続いている。しかし、NASAの調査ではこの20年で5%の緑化が回復したいう観測結果も出されている。

地球環境の保全について、一進一退を繰り広げているのが今の人類なのだ。この瀬戸際において、今こそ本作の意義が役立つかもしれない。グリーンドラえもんの再キャンペーンを強く望みたい。


「ドラえもん」の考察、かなりやっていますので覗いてみて下さい!


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