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のび太の頭が良い世界/「宇宙救命ボート」は誤発射を繰り返す②

「ドラえもん」で6回も登場する人気ひみつ道具「宇宙救命ボート」は、初登場時は、ほぼ欠陥商品であり、のび太たちはそのおかげで突然見知らぬ星に飛ばされ、帰れなくなってしまう。(『行け!ノビタマン』

そのあたりは前回の記事で書いた。

この時は、たまたま着いた星の引力が小さかったことで、着陸時の地面へ大激突でも命を拾うことができた。これが重力が重い星だったらどうなったことか・・。

今回は「宇宙救命ボート」再登場となった『のび太も天才になれる?』を中心に、残りの登場5作品を検証したい。


『のび太も天才になれる?』
「小学四年生」1982年12月号/大全集12巻

前回『行け!ノビタマン』で「宇宙救命ボート」で向かった星は、星の重力が地球と比べて弱かったため、のび太はその世界では強靭な体を持つことができた。そのおかげでノビタマンと名乗って、超人的な働きができたのである。

今回向かった星では、のび太は頭脳の面で天才となる。もちろんのび太の能力が伸びたのではなく、その世界の人々の知能が地球人よりも劣っていたからである。

つまり、『行け!ノビタマン』と『のび太も天才になれる?』の2作は、「もしものび太が相対的に強かったなら」「もしものび太が相対的に頭が良かったなら」という、ある種のパラレルワールドを描いた物語と捉えることができる。

ちなみに宇宙救命ボート3回目の登場となった『めいわくガリバー』は、「相対的に体が大きかったら」というお話であり、これを含めて「宇宙救命ボート」3部作と位置付けても良いのかも知れない。この作品については、既に記事化しているので、もし興味あればご一読のほど。


それでは『のび太も天才になれる?』を見ていく。

冒頭のび太は、ちっとも勉強に身が入っていないということで、ママから2時間15分59秒間もお説教される。ヘトヘトになって庭に出てくると、ドラえもんが「宇宙救命ボート」の手入れをしている。どこかで見たパターンである。のび太はボートを見ると、「いつか使った事のある…」とその存在は知っているようだ。

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手入れが終わってドラえもんが戻ってしまうと、のび太は、ボートの中に入って「家出しちゃったりして」と何気にボタンを押す。すると、いきなりボートが発射して、またしても準備なくどこかの星へと出発してしまうのである。

のび太は前回、よくわからぬまま目の前のボタンを押して、別の星に飛んで行ってしまったのだが、今回はそのボタンを押せばどうなるか良く知っていたはずである。それなのにまた押してしまうのは、学習能力が低いのか、投げやりになっていたのか・・。

僕が思うには、後者である。のび太はほぼ意図的にボタンを押したのである。その証拠に、のび太はいやに冷静なのだ。前回では「宇宙なんて行きたいくない」と嘆いていたのに、今回では「どうやら目的地の星に着いたらしい」と、余裕に状況をレポートしたりしている。

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また、着陸後も冷静沈着で前向きだ。

「着いたからには覚悟を決めよう。たとえどんな星でも地球よりは暮らしやすいと思うよ」

と、もうこの星で生きていく覚悟を示しているのである。


ところで、今回星への着陸の様子が描かれていないが、特に壊れずに到着したようである。前作では着陸というよりは墜落だったので、どうやら懸案だった着陸体制の改良が行われていたようだ。いちいち使うたびに壊れなくて済むので、この改良は心強い。

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「この前の星も地球にそっくりだったけど、今度のはもっと似てるよ」

とのび太は感想を述べる。ところが町へと歩き出すと、似ているレベルではない。町の様子、のび太の家、全く同じ作りとなっている。と、そこにママが家から現われ、「こんな遅くまでどこに行ってたの」と怒られる。

別の星に着いたのではなく、ぐるっと回って地球に戻ってきただけだったのか・・・。ドラえもんに文句を言おうと押し入れを開けると、ドラえもんはいない。明日のテストの心配をしつつ、のび太はそのまま寝てしまう。


翌日、テストを憂鬱に思いながら学校へ向かう。スネ夫やジャイアンも前を歩いていて、同じくテストの心配をしているが、「のび太よりマシだと思えば気も楽」とバカにしている。

そして教室。いつもより難しいという前振りでテストが配られる。ところがその問題は、「1+2」「3+4」といった簡単な計算ばかり。間違えて小1のテストを出したのかと思って解くと・・・、先生は「満点です!」と驚愕天地の様相である。

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クラスの皆も驚き、しずちゃんには「頑張ったのね」と褒められ、スネ夫たちには「まぐれだよ」と訝(いぶ)しがられる。その後の国語でも簡単なひらがなを読んだだけで「天才」ぶりを発揮し、ついに皆の見る目が変わる。

「のび太さんて元々頭が良かったのね」
「何か深いわけがあって、わざとできないフリをしていたんだね」

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そして、100点の答案を持って帰るとママに号泣される。家の外からはのび太のことを「すっごい天才なんですって」と、大評判の声が聞こえてくる。生まれて始めて尊敬されたと、大喜びののび太。もちろん、努力はしていないが


そこへ、もう一人ののび太が姿を現わす。この世界ののび太は、たまたま地球ののび太が来た時に家出をしていたのだが、お腹が空いて戻ってきたのである。もう一人ののび太を見て、地球ののび太は、ようやく自分が別の星に来ていたことを認識する。・・・遅い。

この星ののび太に、天才だと褒められるのび太。そんなのび太は、励ますようにこの星ののび太に熱く語る。内容は、冒頭でママからお説教されたことそのままである。

「頭なんで使えば使うほどよくなるんだよ。諦めずに勉強すれば君も僕くらいにはなれるさ」

この星ののび太のやる気に火を付けて、のび太は地球へ帰還する。

その話を聞いたドラえもんは「君もその星ののび太のように勉強しよう」と声を掛けるが、「僕は天才だからいいんだよ」とのび太は寝転んでしまう。相対的に天才となったことに全く頭が及ばないのび太なのであった。

ちなみにのび太が天才の星という点では『あべこべ惑星』にも通じるお話である。

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さて「宇宙救命ボート」は、『行け!ノビタマン』(79年9月)、『のび太も天才になれる?』(82年12月)ときて、『めいわくガリバー』(83年10月)と5年間で3回登場する。2回目で着陸体制の整備が図られ、3回目では行き先の条件をあらかじめ設定できるようになる。

こうなると、ちょっとした便利な宇宙船となるので、その後そのような使い方もされる。他の登場作品も軽く見ておこう。


『気まぐれカレンダー』「小学五・六年生」1989年7月号/大全集16巻

日付を指定すると、その日になるという「気まぐれカレンダー」という道具を使って、夏を2月にしたり、クリスマスにしたり、また夏に戻したりと、のび太が遊びだす。調子に乗って正月にしてお年玉を貰い、などとしていると、急に機械が動かなくなって、なぜか気温がグングン上昇していく。

ドラえもんが慌てて現れて、のび太が日付を変えすぎたせいで、地球の地軸が揺すられて、自転と公転が止まってしまい、太陽に引き寄せられているのだという。テレビでは地球最期の日がやってきたと報道される。

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突然の破滅状況が信じられないのび太。ドラえもんはみんなで「宇宙救命ボート」で脱出しようと言い出す。ここで、初めて本来の目的で使われる時が来たのだった・・・。

オチとしては、実は「災難訓練機」による家族ぐるみのいたずらで、怒ったのび太に対して、気まぐれカレンダーで4月1日にしてエイプリルフールでした、というもの。パパやママやのび郎おじさんまでもが、喜んでこのジョークに付き合っていたのが新鮮であった。

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『ドラえもん のび太とアニマル惑星』1989年10月~1990年3月

ついに大長編にも登場。既にのび太たちの間では定番アイテム化されており、アニマル惑星に行くために「宇宙救命ボート」を使おうということになる。今回新たに探知ユニットが装備され、ここに手がかりを入れるとその星に誘導してくれるという。便利なロケットになったものである。

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しかし、戦闘機能や防御機能は備わっておらず、勢い余って敵陣へと向かって、まんまと撃ち落とされている。やはりあくまで民間用のロケットという位置づけなのである。

なお、故障してまた地球に帰れなくなる展開かと思いきや、意外と軽傷で簡単に直って帰還することができた。

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『流れ星ゆうどうがさ』「小学三年生」1990年12月号/大全集17巻

ゲーム欲しさに流れ星に願おうとするのび太だが、流れ星は見つからないし、見つかってもすぐに消えてしまう。そこでドラえもんが「流れ星ゆうどうかさ」という小さい隕石を誘導してくれる道具を出して、手元に隕石を用意してからゆっくりと願い事をしようということになる。

そこに綺麗な石が誘導されてくるのだが、これがなんと宇宙人のSOSメッセージの吹き込まれたカプセルなのであった。そこでドラえもんたちは「宇宙救命ボート」で、宇宙人の救命に向かうということに。

本作では『アニマル惑星』でも使われた探知ユニットが再利用され、新たに星間連絡も可能な電話が使われている。だいぶ本式の宇宙船になっており、欠陥商品扱いの初登場からは隔世の感がある。

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ちなみに「宇宙救命ボート」は、F先生亡き後の大長編『ドラえもん のび太の宇宙漂流記』でも登場している。オリジナルの映画で使われるほど、最終的には使い勝手が良く認知度も高い道具となったのであった。

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