見出し画像

屋根裏のリトルなスターウォーズ/のび太、ミクロの決死圏②

『天井うらの宇宙戦争』(初掲「スペース・ウォーズゲームセット」)
「小学四年生」1978年9月号/大全集8巻

「ドラえもん」の数ある「ミクロ」なエピソードの中でも、本作は随一傑作と断言できる。言わずと知れたジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」一作目に、強くオマージュを捧げた作品であると同時に、それをミクロなスケールに置き換えた完全なるパロディとなっている点に、大いなる魅力を感じさせる。

また、本作から発想を広げて、大長編ドラえもんの第6弾となる「のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ)」に連なっていく、藤子Fマンガ史上における重要作品でもある。

本記事では、『天井うらの宇宙戦争』の魅力を余すことなく引き出していくたいと思う。


本家「スター・ウォーズ」の作品説明はカットとするが、一点だけ、この作品はアメリカでの公開が1977年の5月、そして日本での公開が1978年の6月で、なんと一年以上も本邦公開が遅れたという事実を指摘したい。

アメリカ公開当初は「宇宙戦争」という直訳で日本に伝わってきており、トンデモないスペースオペラが登場したと、SFファンを中心に大変に話題となっていたという。当然インターネットがない時代なので、ファンは「スクリーン」とか「ロードショー」といった雑誌からの情報や、劇場での予告編、数点のスチールから内容を想像して、公開までの一年を食い繋いでいたのだった。


当然藤子F先生も、「スター・ウォーズ」の公開が待ち遠しかった一人に違いない。『天井うらの宇宙戦争』は日本の公開から3か月後という超スピードで発表されており、おそらく「スター・ウォーズ」を公開直後から何度も見た上で、水準の高いパロディ作品に仕立てているように思う。


また、少々余談ではあるが、『天井うらの宇宙戦争』が発表される前、「スター・ウォーズ」がまだ日本公開されていない段階で、「スター・ウォーズ」を取り入れた作品を描いているという点は注目しておきたい。

例えば、『ドラやき・映画・予約ずみ』(「小学四年生」1978年2月号/大全集7巻)では、のび太が「スタージョーズ」という作品を「スクリーン」のような雑誌の特集記事を見て、「この映画面白そう」と興奮し、パパに映画館に連れて行ってもらおうとする。

さらに、『のび太の部屋でロードショー』(「小学三年生」1978年6月号/大全集9巻)では、しずちゃんがやはり「スタージョーズ」を見たがっている。

ちなみに前者ではルーク・スカイウォーカーのような男が描かれているが、後者はジョーズっぽい宇宙人と戦う話、のような看板が描かれている。とても同じ映画とは思えないので、同名タイトルの別作品と考えた方が良いのだろうか?

さらにちなみに、「スターウォーズ」の公開から一年以上経った1979年11月には「ドラえもん」で、『超大作特撮映画「宇宙大魔神」』なる作品も描かれているが、こちらからは「スターウォーズ」の興奮冷めやらぬものを感じ取ることができる。


さて余談はそろそろ終わりにして、作品を見て行こう。24ページの中編となっているので、必要な部分のみ解説していく。

冒頭、のび太は新しいゲームをドラえもんに頼むと、とっておきだと言って「スペースウォーズ・ゲームセット」なる体験型の高性能ゲームを出してくる。かなりの高額商品であるらしく、後で壊されたと思い込み、「月賦が終わってない、弁償しろ」と泣き叫ぶシーンが出てくる。

白いロケットに乗って灰色のロケットを撃ち落とすゲームだが、このロケットの造形は明らかに「スター・ウォーズ」の影響を受けている。ロケットに乗り込もうとすると、自動的に体が小さくなり、出ようとすると元に戻るという便利な仕組みである。

画像1

のび太はゲームに慣れたところで、見慣れない四角い形の宇宙船が現れて、撃たれてしまう。そしてロケットを脱出しても自分を攻撃していくるので、たまらずにバットで叩き落とす。これを見たドラえもんは、自分のゲームが壊されたと思い込んで、発狂した、というわけである。

すると、この宇宙船から豆粒のようなロボットが落ちて、ホログラム映像を映し出す。「スター・ウォーズ」のレイア姫の衣装を着たしずちゃん顔の女性で、助けを求める内容であった。

私はリリパット星のアーレ・オッカナ王女です。悪者のアカンベーダーに捕まっています。助けて下さい。

画像2

ツッコミどころ満載の発言なので、全部拾っていく。

まずアーレ・オッカナ王女は、SWのレイア・オーガナ姫のもじり。アカンベーダーは、当然ダース・ベーダーからの拝借である。リリパット星の姫と名乗っているが、リリパットは「ガリバー旅行記」のガリバーが最初に訪ねた小人の国の名前から取っている。

また、この映像を見ているシーンを考慮すると、のび太がルーク・スカイウォーカーの役割を担っていることもわかる。のび太は「映画の宣伝かしら」と感想を述べるが、当然念頭には「スターウォーズ」があるのは間違いない。

映像は短く切れたが、ロボットはキーキー言っているので「ほんやくコンニャク」でロボットの言葉を理解しようとする。すると、

「ワタシ、R3-D3、アーレ姫ノ家来。アカンベーダーガリリパット星ヘセメテキタノデ宇宙ヘ逃ゲタ・・・」

このロボットはR3-D3だと名乗っているが、これはSWのR2-D2とC-3POの合わせ技だと考えられる。ロボットの外見はほぼC-3POであるが、やたらと饒舌で、R2-D2の特徴も持ち合わせている。なるべく少ないキャラクターで済ますというのは売れっ子漫画家の使命であるから、R2-D2とC-3POのコンビを一つにまとめてしまったのだろう。

画像3

R3-D3は、地球に逃げてきたが、砂漠に着陸し、大怪獣(ネコ)などの攻撃に遭いながらも、仲間を捜し歩いていたが、とうとうアカンベーダーの部下に見つかって、のび太が壊した宇宙船に捕らえられていたのだという。

のび太はこの話を聞いて、

「スターウォーズそっくりだ。すぐ助けにいこうよ」

と、少々メタ的な発言をして興奮するのだが、ドラえもんからは夏休みの宿題もあるとたしなめる。「悪いけど他を探して」と断るのび太だったが、アカンベーダーは地球に秘密基地を作って、地球征服を狙っているのだと聞かされる。

逆に「宿題どころじゃない!」と決意を固めるのび太。その興奮のまま、ジャイアンたちの野球の誘いにも、「そんなくだらないことやってる場合か!」と断ってしまう。当然怒るジャイアン。

のび太たちは、まずR3-D3のボートを探しに砂漠へと「どこでもドア」で向かう。と、その先は公園の砂場。スケールの小さい砂漠である。そしてボートを探すと、近くの子供たちがボールと勘違いして蹴りっこをしている。それを追ってボートを取り戻しているところを、先ほど野球を断ったジャイアンたちに目撃され、キャッチボールと勘違いされて追い掛け回される。

画像4

何とか逃れて、ガリバートンネルで体を小さくして、R3-D3のボートに乗り込むのび太とドラえもん。さあ、アカンベーダーの秘密基地へと出発である。のび太は基地のありかを尋ねる。

「基地がどこにあるか知ってるの? アマゾンの原始林?バミューダトライアングル?」

R3-D3の答えは、「タバコ屋の角を曲がって三軒目」と、意外にもご近所さんであった。この時、原始林かバミューダトライアングルかと聞いているが、こちらは「のび太の大魔境」や「のび太の海底奇岩城」などに通じるセリフである。

で、R3-D3の指示通りに進むと、そこはジャイアンの家! 入るのを嫌がるのび太だったが、ジャイアンは野球で留守だということで納得し、ジャイアン宅の屋根裏へと進む。すると、天井裏が改造されて、敵基地となっているのだった。

見張りがウヨウヨしているが、この見張りたち、ストームトルーパーと酷似している。こわごわと潜入するのび太たち。R3-D3が「見つかったら二度と生きて帰れない」と脅して、ビビったのび太が転んで音を立て、見張りにみつかりそうになる。

画像5

すると、そこにウ~ッツとサイレン音。ストームトルーパーたちはロケットに乗り込んで、どこかへ飛び立っていく。行方はわからないが、基地内は空っぽとなり、チャンスとばかりにアーレ姫を探し出す。

一室に幽閉されているアーレ姫を見つけることに成功。姫はすかさず、「勇敢な若者よ勲章を授けます」といきなり勲章授与が始まりそうになるところを、「後で」と制止する。

先ほど宇宙人たちが飛び立った先は、ジャイアン宅の昼ご飯であった。食べ尽くされた食卓を見て、「また!」と怒るジャイアンの母ちゃん。ここでアカンベーダーが初めて姿を見せる。ほとんどダースベーダーの外形であるが、一点、ベロが長くマスクから伸びていて、「アカンベー」の形となっている。

画像6

アーレ姫を連れてボートで逃げるのび太たちに、アカンベーダーの軍勢が襲い掛かる。のび太は、「スペースウォーズ・ゲームセット」で練習したテクニックを駆使して、アカンベーダー軍のロケットを次々と撃ち落としていく。

すると、巨大な母船が姿を現わす。この母船に迫られるカット割りは、SWの冒頭のシーンを参考にした構図となっている。相手が大きすぎてボートの火器では全く歯が立たない。

画像7

と、その時。飛んできた野球のボールが、母船を貫き、大爆発を起こす。地球のミサイルは素晴らしいと姫は喜ぶが、これはジャイアンのホームランボールであった。様子を見に来たジャイアンとスネ夫は、高そうなラジコンを壊してしまったと思い込み、すかさず現場から逃げて行く。

アーレ姫は、そんなジャイアンたちに対して、

「おかげで宇宙の平和は守られました。あなた方の手柄に対して勲章を・・・」

と後を追うが、小さいので全く見向きもされない。「いやにスケールの小さい宇宙戦争だったね」と、半ば呆れるドラえもんたちであった。

ちなみにアーレ姫がすぐに勲章を授けようとするのは、SWのラストシーンのパロディであろう。

画像8

パロディ満載の本作だが、小さくなった世界で戦うというネタは、F先生の中で使えるネタだと蓄積されたに違いない。小さくなって戻れなくなってしまうという設定を加えることで、パロディだった宇宙戦争ネタが、しっかりとしたスリルあるアドベンチャーに昇華され、6年後の「のび太の宇宙小戦争」が生み出されるのである。

この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?