観察対象:のび太【単行本未収録】『のぞきお化け』/宇宙人に観察される③
「宇宙人に観察される」と題して、宇宙人が地球人の生活を観察するお話を、これまでに二つ取り上げた。「異色SF短編」(大人向け)の『宇宙人レポート サンプルAと』と、「少年SF短編」(少年向け)の『征地球論』である。
記事については以下。
タッチもトーンも全く異なるが、「宇宙人」という第三者の視点を用いて、できる限りシニカルに人間の生活・風俗を捉え直そうという試みとなる。
即物的に人間を再定義したり、「論理」と真逆にある「感情」を理解不能なものとして大仰に語ったりと、藤子先生の底知れないアイディアに圧倒される作品となっている。
さて、シリーズの締めくくりとして、「ドラえもん」の「宇宙人観察もの」をご紹介したい。『のぞきお化け』という作品で、これはてんとう虫コミックス未収録の、初期ドラの一本である。
本作は「ドラえもん」の中でもかなり異色な出来栄え。ドラえもんのひみつ道具はいくつか出てくるがほとんど役に立たない。すなわちドラえもんが全く活躍しないお話となっている。
本作では、冒頭から終始、のび太が何者かに観察されている。途中で何者かによるのび太の観察日記が出てくるほどだ。何者かの正体はずっと判明せず、最後のオチで全貌がわかるようになっている。このようなゲストキャラ目線で終わるお話は他にあまり記憶がない。
冒頭、いつものようにのび太が昼寝をしていると、何者かの声が聞こえてくる。
のび太は自分の悪口で目を覚まし、ドラえもんかと疑うのだが、押し入れにもどこにもドラえもんの姿はない。おかしいと思っていると、天井で目と口だけの何者かが「エヘヘ」と笑っている。
「オバケ」と叫ぶのび太。「なんだなんだ」とドラえもんが姿を見せる。しかし、天井には誰もいない。「悪い夢を見たんだな」と、のび太をよしよしと宥めすかす。
のび太はドラえもんに夏休みの宿題を手伝ってもらいたいのだが、ドラえもんは「今忙しいから」とタイムマシンでどこかへと行ってしまい、話を聞いてもらえない。
ドラえもんがいなくなった後、のび太はやはり何者かの視線を強く感じる。この頃、いつも誰かに見られているような気がするのだ。
結果から言えば、これは勘違いではない。のび太をずっと壁から監視を続けている「目口」がいる。
トイレに入ったのび太は、用を足そうとすると、壁に何者かの目が映り、目が合う。驚きふためき、トイレから飛び出してママに告げるのだが、全く信じてもらえない。「眠りすぎがいけないのよ、頭がぼけちゃって」と心配される。初期ドラのママは、まだのび太に優しいのである。
のび太は夏休みの宿題をしなくてはならないが、どうにも捗らない。そこで、未来からドラえもんを呼び出して助けを求めるのだが、いかにも迷惑そうである。「すごーく忙しい」のだという。
すると、未来からセワシ君がドラえもんを呼びにやってくる。ドラえもんは、のび太ではなくセワシの夏休みの宿題を手伝っていたのである。
この話を聞いて、のび太は「ドラえもんはずっと貸すと言ったくせに」とセワシに抗議すると、5分だけ貸してくれることに。
のび太が苦労している宿題とは、「自由研究」である。何を研究しようか毎日あれこれ考えているのだが、考えるとつい寝込んでしまうという。ママに寝過ぎと心配されていたのは、こうした理由があったからである。
ドラえもんは、22世紀の小学生の間で流行っている研究を紹介する。それは「小惑星イカルスの運行が、地球の海面に及ぼす影響を調べる」というもの。当然チンプンカンプンののび太は、「今は20世紀だ」と言って怒る。
ちなみにイカルスとは、1949年に発見された小惑星で、極端な楕円軌道をもち、近日点では水星の太陽軌道の内側まで入り込む。地球にも19年に一度大接近する。太陽に近づいたギリシャ神話のイカロスが命名の由来である。
ドラえもんは結局「アサガオの成長記録」を勧めた後、セワシ君の手伝いに戻っていく。のび太は「頼れるのは自分だけだ」と奮起して机に座るが、やっぱり眠ってしまう。
すると影を潜めていた何者かが、天井に姿を見せる。目口だけではなく、両手が天井から飛び出し、鉛筆でノートにメモを取っているようだ。するとこの何者かが手を滑らせてノートを部屋にバサと落としてしまう。
突然の物音に驚いたのび太がノートを開いてみると・・
と、そんな具合に詳細なのび太の行動が記録されている。「やっぱりだ」と大ショックを受けるのび太。たまらず、未来のドラえもんを呼ぶ。
ドラえもんはこのノートを読むと、
とノートの存在ではなく、のび太の行動に驚いた様子。
そして、一体誰が何のためにのび太を観察しているのか、ドラえもんは考える。
いつものことながら、散々な言い草である。
そして、「きっとのぞきお化けだ」と結論付ける。この非科学的な態度は、初期ドラならではと言える。
ドラえもんは、オバケを見つけるべく、セコムの警備品のような道具を出す。「警報機」、「何かが動くとひとりでに映るカメラ」、「吹き付けておくと足あとが取れるガス」の3種である。
ところが、それをあざ笑うように、天井から声が聞こえてくる。「アハハハ、そんな仕掛け役に立つもんか」と挑発的だ。
そしてドラえもんの出した道具は、結局ママやドラえもんたち自身に反応してしまい、「オバケ」の姿は判らずじまい。ドラえもんは「手強い相手だ」と認めて、のび太を外へ避難させて、自らは機関銃や包丁で武装する。
のび太は一人外へ出ると、自由研究の宿題が心配になって「アサガオの研究でもやっときゃよかった」と呟く。すると、のび太を壁から見ていた何者かが、ポトと種を蒔くと、ニョキニョキとアサガオが育ち始める。
のび太は他の人の自由研究が気にかかる。しずちゃんは、裏の沼でプランクトンを集めたという。スネ夫はもっと凝っていて、ジャガイモとトマトを接ぎ木して、一本の木で一遍に育てていた。
ちなみに僕はこのお話を子供の頃に「藤子不二雄ランド」で読んだのだが、ここでトマトとジャガイモが同じ仲間(ナス科)の植物であると知った。
スネ夫たちは、のび太は何の自由研究をしているのかと聞くと、「アサガオにナスを成らせようと思ってる」と、いつものように口から出まかせを言う。様子を伺っていた壁の目口も、「無茶苦茶だ」と困った表情になる。
嘘だと見抜いたスネ夫に、見せてもらおうじゃないかと言われ、渋々のび太の家へと向かう。すると、玄関の前にアサガオの花とナスが同時に成っており、きちんと詳しい記録ノートも残されている。
驚くのび太。「あいつ、やるなあ」とスネ夫。「感心しちゃった」としずちゃん。
のび太はノートを持ってドラえもんの元へと走る。すると、威勢が良かったドラえもんはお昼寝中。自由研究のノートを見せると、
と感心する。後の科学的なドラえもんからは想像もつかないアホなセリフとなっている。
そうなると、宿題お化けは良いやつということになり、他の宿題も遠慮なく任せようということを言い出す二人。
すると、壁の何者かが、「調子に乗るな!」と言って、UFOに乗って夜空へと飛び上がっていく。ラスト二コマで、謎の目と口は、宇宙人だったことが明らかとなる。
所謂、タコ型の宇宙人で、夏休みの自由研究で地球人の生活を観察していたのである。この学生宇宙人の発表を聞いて、「地球人はそんなに怠け者か」と感想を述べる先生宇宙人。
観察対象が地球一の怠け者だったとは、つゆ知らずの宇宙人たちであった。
「ドラえもん」の考察、多数行っています。
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