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「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」と原作を徹底比較!

コロ/ナ禍での一年延期を経て、ついに公開となった「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争<リトルスターウォーズ>2021」。さっそく息子と共に映画館に走り、鑑賞してきた。

結論から言えば、本作は今見るべき映画だったと断言できる。

それは、世の中で全然リトルではない戦争が始まってしまったこと、<リモート>生活を強いられている中で、何かと人を信じることが難しい時代となっていることなども要因の一つだ。

だが、もちろんそれだけではない。久しぶりのドラえもん映画として、本作の完成度が高いのである。素晴らしい映画体験としても、是非スクリーンで大勢のドラファンに見てもらいたい一作である。


本稿では、公開されたばかりのリメイク作「のび太の宇宙小戦争2021」が、原作からどのように改変されたかをなるべく詳細に追って、今回の映画が新しく描こうとしたものやメッセージをきちんと読み解いていくことにしたい。


本題に入る前に、ドラ映画のリメイクについての僕の考えを述べておきたい。

「ドラえもん」の映画は「のび太の宇宙小戦争2021」で41作目。(ただし「スタンド・バイ・ミー」シリーズと「桃太郎」を除く)

永田わさびさん他、声優を一新した2006年以降では16作目で、その内、リメイク(再映画化)は本作で7作目となる。

このリメイクというのが、一筋縄ではいかない複雑な存在である。もう一度大好きな原作を映画化して貰えるという喜びと同時に、原作を愛するがゆえの改変への不満が沸き上がるのだ。

そもそもドラえもん映画とは関係なく、リメイクは難しい。オリジナルそのままでは、労力をかけて作り直す意味がないし、リメイクならではの要素を加えてそれが蛇足になったりすることもある。


ドラ映画のリメイク作でも、新キャラクターを登場させるなど、原作に新しい要素を加えることが多く、演出的にも前作とは異なったことを志向しがちだ。その結果、新しさを僕が許容できず、原作を改悪しているように感じてしまうこと多かった。

本作もそうした不安が無かったと言えば嘘になる。

しかし本作においては、原作からの改変があれど、リメイクならではの新しいメッセージや、新機軸の方向性が見て取れて、とても良い印象を持った。


それでは、具体的に本リメイク作の原作からの改変ポイントを解説していく。映画のネタバレが存分に出てきますので、なにとぞご注意のほど。



冒頭から新キャラクター登場

原作では、アバンタイトルにおいて、パピたちの姿を見せずに戦闘シーンだけを描いている。リメイクでは最初からパピとゲンブが映り、さらに新キャラであるパピのお姉さんピイナが登場する。

この後詳細するが、原作ではパピの存在は謎めいたものにしていて、のび太との出会いまでにミステリ要素を加えたり、パピが大統領だと知って読者にも驚きを与えようという意図がある。

リメイクでは、既にパピの設定は周知されているものという認識から物語が構成されているので、パピを謎めいた存在にする演出を排除している。よって、パピやピイナなどのキャラクターを冒頭から惜しみなく登場させているのだ。


「宇宙大戦争」の撮影シーン

のび太がヘマをする「宇宙大戦争」の撮影は、リメイクでは最初から出木杉が加わっている。原作ではのび太がジャイアンたちと決別して、しずちゃんと一緒に人形を使った特撮映画作りに臨むが、その部分はカット。

リメイクでは、撮影現場をスネ夫の庭一つにしたことで、パピのロケットの発見場所が裏山からスネ夫宅に変更されたり、「ロボッター」を付けたウサギが勝手に動いていたというミステリ要素も無くなっている。

また、ロボッターのウサギを登場させなかったことで、パピとの出会い方も変更となり、のび太が拾ったロケットから直接パピが出てくるようになった。

ロボッターには動力限界があるという説明がカットされたため、「何事にも効き目が切れる時がくる」という原作に通底するテーマは薄れてしまっている。


なぜ撮影を一本化させたのか?

前半最大の改変ポイントだが、これにはいくつかの理由が存在する。

ラストでもう一回説明するが、リメイクでは、全体を通じて一本の映画(宇宙大戦争)を完成させるという構造を取り入れたことが一つ。

また、映画撮影を二つに分けないことで、のび太対スネ夫・ジャイアンの決定的な対立構図を作らないようにしている。

さらに、しずちゃんと人形を使った撮影をするシーンを丸々カットすることで上映尺を短くする効果も狙っている。


ピシア(PCIA)との初対決

撮影を一本化した余波として、ピシア(PCIA)のクジラ型宇宙船とジャインアンたちが初めて戦闘になるシーンでは、その場にのび太やパピもいるように変更されている。

ここでは小さくなってみんなでバギーに乗って撮影をするシーンや、ピンチに陥ったのび太をパピが救うなどの見所を追加している。

これらの変更により、パピを含めたのび太たちの「仲間意識」を高めるような効果を発揮している。


しずちゃん解放をめぐるパピの動き

パピは捕まったしずちゃんを取り戻すため、一人で公園に向かう。無事しずちゃんを逃すが、リメイクでは、ここでしずちゃんがパピを心配して戻ってきてしまう。さらに、ロコロコと先に出会ったのび太たちはパピの居場所を掴んで救出にきて、間に合ってしまう。

原作ではパピはドラコルルに捕まってピリカ星へと連行される。リメイクではのび太たちと一緒にピリカ星へ向かうことになる。

原作ではパピは処刑目的で連れ戻されるのだが、リメイクでは姉のピイナを人質にされ、ギルモアの戴冠式に出席してスピーチをするために戻ることになる。


パピとのび太たちの言い争い(追加)

リメイクではパピがのび太やしずちゃんに、「自分を助けてくれとは頼んでない」と言って激昂するシーンが追加されている。のび太たちとパピが衝突するシーンは原作にはほとんどないので、ここは敢えての追加と考えた方が良い。

ぶつかる場面を入れることで、同年代の頼れる仲間がいないパピが、初めてのび太たちとの友情を育むという意味合いを強めているのだ。

原作では全体的に完璧なふるまいをするパピなのだが、リメイクでは実際は10歳の未成熟な少年であるという側面を描いている。最初から完全な大統領ということではなく、パピがのび太たちに出会うことで、自身も成長していくという構成を取っているのである。


ピリカ星へ

原作と異なりピリカ星へ向かうロケットはパピが操縦をする。ここでロコロコがパピはまだ少年なのだと語るシーンが追加されている。移動中で、ピリカ星の非常食を食べるのだが、戦争中とは思えない豪華な食事だったので、ここは違和感を覚えるところ。

また、スネ夫のビビりな性格も強化している印象を受ける。原作においてスネ夫が隠れた主人公なのは間違いない。原作でも語られているスネ夫の成長をさらに際立たせるための演出と考えられるだろう。

さらに、ピリカ星の自由同盟の隠れ基地で、のび太とパピの会話シーンが追加されており、ここでパピの姉を思う気持ちだったり、両親がいないことなどが明らかになるなどの人間性を加味させている。

ちなみに小惑星の秘密基地は、もともと資源を採掘するための基地だったという説明が加えられている。藤子先生っぽい設定をよく思いついたなと感心した。


ドラコルルの策略

敵方の重要キャラ、ドラコルル。リメイクでは側近にジャイアンのような風貌の副官を置いている。学校の裏山では、エアコンの調子が悪くて汗だくの姿を見せている。コミカルな感じや自分のミスを素直に認める性格など、キャラクターの強化が図られていると思われる。(ラストに見せ場が用意される)

「自由同盟」との対決で何かと手腕を発揮するドラコルル。衛星の自由同盟の基地を見つけるのは、ピリカ星の同盟軍の一人から口を割らせたと設定を変更。原作ではのび太たちを泳がせて、敢えてピリカ星に潜入させていたが、その説明はカットされている。


ピリカ星でののび太たち

「かたづけラッカー」の効き目が切れてしまうのび太たち。原作ではそこで「チータローション」という足の速くなる塗薬を使って脱出を図るが、リメイクでは「石ころぼうし」に変更となっている。

この変更によって、「何事にも効き目は切れる」というラストの伏線となる要素が削られてしまっている。その反面、のび太だけぼうしを脱がずに一人捕まらないというシーンが追加されることになった。

そもそも「のび太の宇宙小戦争」はのび太がそれほど活躍しないお話。そこで、ラストでパピを助けに行くという見せ場を加えるために、「石ころぼうし」の設定を加えたものと想像される。

ちなみに「石ころぼうし」を使った移動作戦は、「宇宙小戦争」の一年前に執筆された「魔界大冒険」で使われている。


パピの演説

原作では捕らえられたパピが死刑判決を受ける法廷で、強くピシカを批判して「きっと国民が立ち上がるだろう」と演説する。リメイクでは法廷シーンをカットして、代わりにギルモアの戴冠式でパピにスピーチをさせるシーンを追加する。

そこでパピは、逃れた地球で経験したのび太たちとの友情、人を信じること、裏切らないことの大事さを学び、自分も成長したことを示しながら国民の蜂起を促す感動的なスピーチを行う。

映画全体が、このシーンを物語のクライマックスとするように構成されており、ここまでの改変は全てここに帰着するようになっている。

ただし、ギルモアにとって重要なセレモニーである戴冠式で、パピに自由な演説をさせてしまったことが、あまりの手落ちのように見えてしまった。


最後の戦い

ピリカ星に乗り込んだスネ夫としずちゃん。原作ではドラコルルがラジコンの弱点を突いて撃墜に成功するが、本作では電磁波によるものと変更している。

大きくなったのび太たち。街では市民が既に蜂起をしている中での最終決戦となる。ここで、街が無人なので存分に暴れられること、ピシアの機甲師団が無人戦闘機なので、どんどん壊していいことなどが語られる。むやみに人命を失わせない戦争という面を強調させている。


ドラゴルルの乗ったクジラ型宇宙船は、ジャイアンに海に落とされて、ドラゴルルが降伏する。リメイクでは、ここでドラゴルルが降伏する代わりに、部下の命を守ることを願い出る。

また原作では、ギルモアの居場所を知らないと答えているのだが、リメイクでは空港だと告げている。

このやりとりにおいて、ドラゴルルの非情性が薄まり、あくまで独裁者に付き従った誇り高き軍人であったことが明らかとなる。


ラストシーン

パピと姉のピイナの二人だけで抱き合うシーンを追加。思い合う姉弟の結束の強さを最後にきっちりと描いている。

地球に戻るのび太たち。いつの間にか撮影が終わっていた「宇宙大戦争」の試写会が行われ、参加していた出木杉が「どうやって撮ったの」と驚くシーンで終了となる。

原作では、物語前半で一生懸命作っていた映画がそのまま未完成となっているので、リメイクではこの部分を回収しつつ、締まりの良い終わり方にしている。


まとめ

改めて大きな変更点をまとめる。

①パピの姉のピイナが登場
②パピの両親の不在、同年代の仲間がいなかったこと等、人間性を深めた
③パピの演説シーンを追加
④のび太としずちゃんで映画を作るシーンをカット
⑤パピとのび太たちの言い争いシーンを追加
⑥石ころぼうしを登場させてのび太の見せ場を追加
⑦スネ夫の感情の浮き沈みを大げさにした
⑧映画「宇宙大戦争」が完成する


以上のことから、リメイクでの狙いは下記だと考えられる。

1、パピの人間味を深める
2、スネ夫の成長を強化、のび太の見せ場の追加
3、パピとの最初の出会いまでは簡略化する

原作は物語性は強いのだが、人間的な成長はそれほど描いていない。その点を強化するように、様々な改変が行われている。

それらはどれも納得できる方向性であり、リメイク作としての完成度は非常に高いのではないだろうか。


エンドクレジット後の来年の予告では、飛行船がフューチャーされていた。リメイクではなく、空を舞台にした活劇が予想される。今から来年が楽しみである。

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