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学校の裏山から80億円の財宝が!『宝星』/藤子Fの宝探し①

ロバート・ルイス・スティーヴンソン著「宝島」。1883年に発表され、瞬く間に世界中に翻訳されて、多くの子供たちが楽しんだ児童文学の傑作である。主人公の少年が海賊の持っていた宝の地図を手に入れて、冒険へと旅立つ。今思えばシンプルなお話だが、それゆえに普遍的な名作の香りが漂う。

日本では戦前から子供たち読者に親しまれており、今でも多数の出版社から様々な訳で出版されている。僕も子供の頃に図書室で借りて読んでいるが、何を読んだかは忘れてしまった。

藤子先生も当然読んでいたはずで、「宝島」に触発されたような宝探しをテーマとする作品を数多く残している。そこで、「藤子Fの宝探し」と題して、数回に渡り少年たちの宝探しの物語をご紹介していきたい。


「宝島」は不朽の名作であるため、幾度も映画化されたり、派生した物語が描かれたりする。ディズニーアニメで「トレジャー・プラネット」という作品があったが、これは「宝島」の舞台である海洋を、宇宙に置き換えたお話であった。

藤子作品では同様のアイディアをとっくに採用していて、例えば「すすめピロン」という宇宙人ヒーロー・ピロンの活躍する作品で『宝の星の地図』(1961年11月)というお話が描かれている。

今回は我らが「ドラえもん」における「トレジャー・プラネット」を取り上げてみたい。


「ドラえもん」『宝星』
「小学五年生」1980年6月号/大全集9巻

「宝島」の読みどころは、宝を巡って海賊と追いつ追われつの争いをする部分なのだが、あらかじめ言ってしまうと本作ではそういった海賊的なライバルは登場しない。宝のありかを教えてくれる探査機に従って、宝を探しに行くだけのお話である。

そんなことでお話になるのか・・と思われるかもしれないが、そこは藤子流のストリーテリングを信用いただきたい。


本作はとんでもないニュースから幕を開ける。何とのび太の憩いの場である学校の裏山から、大判小判合わせて80億円もの宝が出土したというのである。

発見者はいかにも貧しい農民といった風情の花坂さんで、ゴミ捨て場になっていた土地を安く買ったところ、そこでお宝を掘り当てたのだ。

俄かに信じがたいニュースを聞いて、のび太が「また一つチャンスが消えた~」と、畳を叩いて号泣する。のび太とお宝とは何の関係もなさそうだが、その点をドラえもんが突っ込むと、

「聞いてくれ。埋まっている宝を掘り出すのは僕の一生の夢なんだ。世界中に埋められている財宝には、限りがあるはずだ。それなのにこうどんどん発見されたら、僕も分がなくなっちゃうよ」

のび太は、他人任せ、風任せ、偶然任せの夢を語る。ドラえもんはこれを聞いて、「貧しい夢だなあ」と冷たく一言。

のび太は「もう僕の人生には何の夢も残されていない」と大げさに嘆き悲しみ、再び畳をバシバシ叩きながら泣くのであった。


どうしようもないのび太の願望など放っておけば良いのに、優しいドラえもんは「ささやかな夢を」ということで、「宝星探査ロケット」を取り出す。広い宇宙には人間の住む星がゴマンとあって、その中には宝を埋めた宝星があるはず。このロケットは宇宙中を飛んで宝星を見つけてくれるのだという。

ただし、ロケットの通り道に宝星がないと駄目で、実際に宝を探し当てる確率は、宝くじに当たるより低いらしい。それでも夢が持てるならと、3本のロケットを打ち上げる。

あとは気長に待つだけだが、もちろんこの後、のび太は早く見つからないかとソワソワしていくことになる・・・。


この後、裏山で小判の堀り残しがないか粘っているスネ夫とジャイアンに「話が小さい」とバカにしてみたり、しずちゃんに「プールとテニスコート付きの家を建てようと思う」と切り出して、逆に立て替えてもらっていた電話代10円を返せと言われたりする。

のび太はそろそろ見つかったかドラえもんに尋ねると、「宝くじより当てにならないと言っただろ」と釘を刺される。未来の世界では宝探しに夢中になってロケットを何千本と打ち上げて破産した人もいるという。古今東西、財宝に目がくらむとろくなことにならんのだ。


ドラえもんが「お金のことでガツガツするとみっともない」などと言っていると、一号ロケットが宝を見つけて、ブザーを鳴らす。その途端ドラえもんは「すぐ掘りに行こう」と慌て出し、勢いよく二階の窓から庭へ落ちてしまう。なんてことはない、内心でガツガツしていたのはドラえもんだったのだ。

ドラえもんは仕切り直すように、宇宙船を取り出す。海に浮かびそうな帆船(はんせん)のような形をしていて、ロケットには見えないのだが、宇宙空間には空気がないので、ロケットはどんな形でも良いのだという。

反重力エンジンで出航。干してあった野比家の洗濯物をまき散らし上昇し、一気に地球からも遠ざかる。藤子作品のロケットは大気圏の脱出が早いのが特徴である。


方角はアンドロメダ星雲の右隣り。ワープを経てあっと言う間に目的地に近づき、光子エンジンに切り替える。これは光の速度で飛べるエンジンという意味であろう。

そして「内用宇宙服」を食べて、皮膚を宇宙服みたいに変えて、宝星への接近に控える。到着した星は小さめで一面の雲に包まれている。重力が小さいので、そのまま星へと飛び込むのだが、厚い雲の下はそのまま海となっている。


海に落ちたものの、そこは非常に浅い海。よく周囲を見渡してみると、超小型の飛行機が飛び、ゴミのような船が浮かんでいる。ここは小人の星であったのだ。

小人の星と言えば、宇宙救命ボートを使って小人の星へ向かった『めいわくガリバー』を思い出す。こちらは本作の3年後の作品で、本作で使ったアイディアを流用したものと思われる。

とある無人島にロケットが突き刺さっている。宝島を発見したのび太たちはすぐさま島を掘ってくるのだが、小人の星なので、あっと言う間に島は無くなってしまう。

掘っている間、キラキラ光る埃のようなものが飛び散っていたが、どうやらこの星のお宝とは、極小の金のようなものだったようである。これでは地球では何の価値もない。かくして残念ながら、一本目のロケットによる宝探しは無駄骨であった。


地球に戻り、しずちゃんにプールとテニスコートの約束が守れなかったと詫びると、「当てにしてないわ、のび太さんの言うことだもの」とにこやかにのび太を傷つけるしずちゃん。

家に戻ってロケットからの電波を待っていると、ドラえもんが「こんなくだらない物は忘れて勉強しなさい」と叱ってくる。今回もこれは前振りで、次の瞬間ブザーが鳴り出し、のび太がしずちゃんに「約束守るよ」などと電話を始めたので、ドラえもんは「早く行こう」とのび太をせっつくのであった。


二つ目の星は、さらに小さな丸い星。空気もなく表面もツルツルしている。ここが宝星とは到底思えないが、周囲を歩いていると一カ所に割れ目が入っている。のび太は割れ目に落ちてしまうが、中にはのび太たちよりも大きい円盤型の金が大量に詰まっている。

これで億万長者だと大喜びした二人は、一枚の金の円盤を取り出そうとするのだが、そこへ「こらあ、泥棒」と巨大な手が現れる。何とのび太たちが星だと思っていたのは、巨人の貯金箱だったのだ。

さっきが小さい宇宙人で、今度は大きい宇宙人という訳である。「ガリバー旅行記」でも小人の世界の後に巨人の世界が出てくるので、藤子先生の念頭には「宝島」というよりは「ガリバー旅行記」があったのかも知れない。


しずちゃんから「プールはできたか」と電話が掛かってくる。何やかんや、しずちゃんはのび太の言うことを信じているようである。

落ち込んでいるのび太たちに、三本目のロケットからお宝の信号が送られてくる。「一応行ってみるか」と半信半疑で3つ目の宝星に向かうと、そこは地球と同じような大きさの星。今度はもしかして、期待できるかも・・。


地上に降り立つとそこは地球ソックリの環境。ロケットが突き刺さっているところをガシガシ掘っていくと、カチンとシャベルに手応えが伝わってくる。金貨か宝石か、さらに掘り進めると、出てきたのは巨大なドーナツ型の石が多数。

この星の住民と思われる人々が集まってくるが、皆、石器時代の格好をしている。どうやら、地球と比べてまだ発展途上にある原始時代の星であったのだ。

のび太たちが掘り当てた石を見て大騒ぎをする住民たち。「ほんやくコンニャク」で確認すると、見つけた石はこの星では100億円ほどの宝であったのだ。しかしながら、地球では全く無価値の石なので、三度目の無駄骨であったようである。


地球戻ると、ジャイアン・スネ夫が「嘘つきのび太、ホラ吹きのび太」とからかってくる。のび太は悔しさの中から、妙案を思いつく。石器時代の星のお金を使おうというのである。

どこでもドアで石器時代の星へ行き、見つけたお金を元手に、星の住民たちに「住み心地が良く、眺めのいい洞穴を掘って欲しい」と依頼する。大喜びで働きだす地元民たち。

家だけでなく、大きなプールも作らせて、しずちゃんたちを呼びに行く。約束通りに「プール付きの家を建てた」という訳だ。

そしてのび太は続けてテニスコートも星の住民に発注する。プールで淡々と遊ぶしずちゃんやジャイアン、スネ夫。そしてドラえもんは洞穴の前で優雅にどら焼きを食べるのであった。


お宝と言っても、宇宙レベルでは、その価値は人それぞれ。本作は、小人の星、巨人の星、石器時代の星と3カ所を巡ったが、今の地球での価値観が合致するお宝は入手できなかった。

本作は藤子先生お得意の、宇宙を舞台とした価値観逆転ジャンルの作品と言えるのかもしれない。


「ドラえもん」考察しています。


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