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のび太の力が強い世界/「宇宙救命ボート」は誤発射を繰り返す①

あなたは知っているだろうか? 
「宇宙救命ボート」という欠陥商品を。

地球が爆発したりだとか、住めない環境になった時に、地球から逃げ出すための乗り物、それが「宇宙救命ボート」である。中はガランとしていて、操縦席などは取りついていない。出発すると、全自動で人の住める星を見つけて連れて行ってくれるという便利なロケットである。

話だけ聞くと、有事の際には大活躍してくれるものと思ってしまうが、しかしこの道具には、いくつかの看過できない構造的欠陥があるのだ。

まず、ボート内にはボタンが一つだけ付いていて、これが発射装置となっているのだが、押してくれと言わんばかりに、目立ちすぎているのである。実際のび太は、深く考えずにこのボタンを押してしまい、何の準備もなく見知らぬ星へと出発してしまう。

のび太でなくても子供がボートに入って、一つしかボタンが無ければそのボタンを押してしまうこともあるだろうし、何か荷物を運びこんでいる間に触ってしまうこともあるだろう。緊急時に慌てて押すために、ある程度目立ったところにボタンは必要だろうが、せめてボタンカバーが欲しいところ。

また、キャンセル機能が付いていないのも大変な問題である。もし間違って押したとしても、一度出発すると、よくわからない目的地に着くまで戻れない。

この点をもう少し踏み込んで考えると、このボートは緊急時に使う想定だが、例えば核戦争が起きそうだという時に、いつ出発したら良いだろうか。実際に核ミサイルが爆発してからでは間に合わないので、どこかで覚悟を決めて出発する必要があるが、地球を離れた後に戦争が回避されたとしても、もう戻ってこれないのである。

もう1点重大な欠陥としては、脱出した先の星の着陸に際しての安全面がなっていないのである。この後紹介する『行け!ノビタマン』では、着陸時に星の重力に引っ張られて地面に激突、ボートは壊れるわ、乗っている人も大けがするわと、散々なのである。

この時の星は引力が軽い星だったので助かったのかも知れないが、もし重力の重い星だったら確実に死んでいる。せっかく難を逃れて地球を出ても、その先で墜落死したらやりきれない。


さて、そんな「宇宙救命ボート」であるが、この道具は「ドラえもん」の中で、大長編含めて6回も登場している。初回の危険な道具であったが、登場のたびに、着陸体制の整備、行き先の条件をあらかじめ組み込めるなどの改良が施され、最終的には便利な宇宙船という扱いになっている。

今回は初登場となった『行け!ノビタマン』を取り上げ、その欠陥ぶりと、飛んだ先でののび太の活躍を見ていきたいと思う。

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『行け!ノビタマン』
「てれびくん」1979年9月号/大全集19巻

庭でドラえもんが大きな機械を掃除している。これが「宇宙救命ボート」で、いつ何が起きてもいいように手入れをしていたのである。

中に入ってみると、宇宙に飛び出すはずなのに操縦席がないが、全自動で新しい星に連れて行ってくれるものと説明される。のび太は室内に一つだけボタンがあるのを見つけ、確認もせずに押してしまい、いきなりボートが宇宙に向けて発射される。

そうなると、もう戻れない。ワープをして、すぐさま別の星に着くのだが、思いっきり重力に引き寄せられて、「ドッカーン!」と地面へ激突。着陸というよりは、墜落といった感じで、乗っていたのび太とドラえもんもボロボロとなる。

①一度出発すると戻れない
②着陸ではなく墜落する
③墜落して壊れてしまうので、簡単には再出発できなくなる。

この3点において、相当な欠陥商品っぷりを発揮しているのである。

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突然他の星へ、ほぼ片道キップで送られてしまったのび太たちであったが、今の地球と同じような人類が、同じような文明の日常を送っていたのが、せめてもの救いであった。

最初に声を掛けてくれた女の子の家に招かれ、「ボートが直るまでうちで暮らさないか」と優しく声を掛けられる。ラッキーである。


ドラえもんは、「宇宙救命ボート」をデタラメにいじってみるが、どうにも直りそうにない。なんでこうなったのか、ドラえもんとのび太が口論を始めるのだが、そこに何と銃声が聞こえてくる。

家の前に飛び出すと、撃たれて男が倒れている。かすり傷だと起き上がった男性は、この家の父親であった。

父親は正義感溢れる新聞記者であった。彼の説明によると、この町ではギャングどもが悪事を重ねているのだが、警察も及び腰。なので新聞記者として、市民にギャング追放を呼び掛けているのだという。だから目障りで狙われたのである。

妻である母親は危ないと心配するが、そのファイティングポーズに、娘は拍手を送る。のび太たちは、早くボートを直して逃げなくては、と思うのだった。

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ところが翌朝、学校に登校中の女の子がシンジゲートの一味に誘拐されてしまう。娘を人質にして、記者の活動を止めさせようという狙いなのである。この話を聞いたのび太は怒り爆発。「許せない」と飛び上がると・・なんとそのまま屋根を突き破ってしまう。

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そしてそのままフワフワと舞い降りてくるのび太。一体どうなっているのか?

ドラえもんはそこで気が付く。この星の引力は地球よりもずっと弱く、体が軽く感じるし、コンクリートなどの強度も低いのである。つまりこの星では、のび太はスーパーマンなのである。

重力が低い星でスーパーマンになる、というモチーフは、この後ご存じの大長編「のび太の宇宙開拓史」に引き継がれていく。

ちなみにのび太は全く努力もしないでスーパーパワーを身につけたのだが、次回の記事で取り上げる『のび太も天才になれる?』では、努力もしないで頭脳が天才となる。宇宙救命ボートで向かった先は、ある種のパラレルワールドとなっているのである。(この辺は次回考察)


ということで、ノビタマンとなったのび太は、いつの間にかスーパーマンのスーツを着込んで、女の子の救出に向かう。空は飛べないが、高くジャンプを繰り返してシンジゲートの本部ビルへと突っ込んでいく。当然、コンクリートの壁面をぶっ壊して、である。

いかにもギャングな黒服たちに囲まれ、銃撃されるが、弾が当たってもなんともない。慌てふためくギャングどもを、次々と打ちのめし、地下室に閉じ込められていた女の子を救出する。

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ついでに、ということでシンジゲートのビルを根こそぎ倒壊させ、のび太たちは一夜にして英雄になるのだった。

マスコミの取材依頼も多数、映画化も決定。そこでのび太たちは思う。

「どうしてもボートが直らなければ、ここで暮らしてもいいんじゃないか」

これも運命のいたずら。うっかりボタンを押したばっかりに・・。そう言ってのび太が「宇宙救命ボート」のボタンを押すと、何とボートが上空へと飛び上がっていく。ドラえもんが適当にいじっている間に、直っていたのである。

地球。のび太は、またノロマな人間に逆戻り。ボートを直したドラえもんが悪い、ボタンを押したのび太が悪いと、またも二人は口論となってしまうのだった。


「宇宙救命ボート」は欠陥商品としての初登場から、徐々に普通の機能が装備され、便利な宇宙ロケットの役割を担うようになる。これを使って何度か宇宙に行くのだが、その世界は地球とは少し異なっているケースがほとんどである。

これは考えようによっては、「宇宙救命ボート」は「もしもボックス」と同じ働きをしているとも言えなくもない。藤子先生は、「宇宙救命ボート」を使って、もう一つの地球、すなわちパラレルワールドを描いていたのである。


ドラえもん考察、かなりやってます。是非他の記事も読んでみて下さい。


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