ハルカ星人のセリフを完全解読!『未知とのそうぐう機』/藤子Fの未知との遭遇①
ワタクシがまだ4歳で幼稚園の年中さんだった頃。世の中は一大SFブームであった(という)。
そのブームの中核となるコンテンツがスティーブン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」と、ジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」である。
二作とも1978年に日本公開した映画だが、アメリカ(全世界)ではその前年に公開が始まっていた。
今と違って、日米同時公開がまだ珍しかった時代でもある。
とんでもないSF映画があるぞと、当時の国内のSFファンは、漏れ伝わってくる海外からの情報を目にして、日本での公開を待ち遠しくしていたのだという。
我らが藤子F先生もまた、この二本のSF大作を待ち望んでいた一人だったようである。(「スター・ウォーズ」は社員旅行で行ったハワイで見たという話をどこかで読んで気もするが、忘れてしまった)
特に「スター・ウォーズ」については、もろに影響を受けた作品やパロディを多数執筆している。
ドラえもんにおいては、『天井うらの宇宙戦争』(78年9月号)で「スター・ウォーズ」という目いっぱい壮大なスペースオペラを、目いっぱいお茶の間のレベルに矮小化させている。
この作品は後に大長編「のび太の宇宙小戦争」へ連なることになる。
この他にもSF短編の『ある日…』や『裏町裏通り名画館』などでも「スター・ウォーズ」がフューチャーされている。ドラえもんでは『ドラやき・映画・予約ずみ』(1978年2月号)なども「スター・ウォーズ」関連作と言える。
さてもう一本の「未知との遭遇」はどうだろうか。これについても、やはりいくつか影響を受けたと思しき作品が心当たる。
「未知との遭遇」の日本公開は1978年2月25日(全米は1977年11月16日)だが、この近辺から未知なる宇宙人(UFO)と遭遇するお話が目立って描かれるようになるのである。
もちろん、この映画が出てくる前から、藤子作品において宇宙人は身近な存在である。友好的な宇宙人との交流などというテーマは、とっくに描き済みなのだ。
そこで、ここから数回に渡って「藤子Fの未知との遭遇」と題して、人間と宇宙人のエンカウンターを描いた藤子作品をまとめて見ていくことにしたい。
友好的な宇宙人もいれば、好戦的な宇宙人もいる。何を考えているかわからない宇宙人もいる。そんなバリエーション豊富な、未知なる人々との遭遇のお話を堪能してもらいたい。
「藤子Fの未知との遭遇」の第一回目は、「そのままやんけ!」と思わず突っ込みたくなる「ドラえもん」の超有名エピソードを取り上げる。そのタイトルは、ずばり『未知とのそうぐう機』である。
本作は1978年4月号の作品なので、発売は3月である。となると執筆は早くても同年の2月だったと考えらえる。映画の「未知との遭遇」が公開となったのは1978年の2月25日なので、おそらく映画を見る前に本作を書き上げていたものと思われる。
映画と本作とではまるで内容もテーマも異なるので、単に「未知との遭遇」というタイトルを借用した作品なのではないと想像できる。
本作の中身を語る前に、あらかじめ見どころ(豆知識)を二つほど先に提示しておきたい。
本作では、ハルカ星から来たハルバルという宇宙人が登場するが、その外見は「モジャ公」に登場したオットセイ型宇宙人のオットーと酷似している。本作ではママにアザラシと勘違いされていたので、アザラシ型宇宙人ということでデザインされたと思うが、僕には同一種に見える。果たしてどうのなのだろうか。
そしてもう一つは有名な話で、ハルカ星人は作中、全く読めない言語でのび太たちに話しかけてくるのだが、実はこの言語は和文モールス信号が元になっている。
意味のない波線で描かれているかと思いきや、波をモールス信号に置き換えれば、読み取ることが可能なのである。このアイディアを思いついて実行してしまうF先生の天才ぶりも驚愕だが、これに最初に気が付いた人も凄すぎる。
この事実は知っていたものの、実際に読み取る作業を怠ってきたので、今回記事を執筆するにあたり、ハルカ星人のしゃべっている言葉を全て自分なりに解読を試みてみた。
すると、少々意外なこともわかったのだが、これについては、本稿の最後でご披露することにしたい。
本作では、危うく宇宙戦争の危機に見舞われるが、その下地を作ったのは、「大事なものほど出しっ放しにする」悪いクセのあるドラえもんである。
冒頭のび太が部屋に入ると、ポツンと中央に、2本のアンテナと3つのボタン、そして大き目のスイッチが付いた小型の機械が置いてある。当然いじりたくなるのび太だが、今回は珍しく「人のものをいじっちゃまずい」と自制する。
ところがドラえもんが部屋に駆け込んできて「勝手にいじるな」と一方的に𠮟りつけたもんだから話がこじれる。のび太にとって完全な濡れ衣だが、「いい加減にしてくれ」とか「絶対にいじるなよ!」などと念を押されたため、激怒して機械をデタラメにいじり倒してしまう。
ところが何も起こらないので、「く~だらない」と言って機械を蹴飛ばすと、何と窓の外にUFOの姿が見える。UFOはしばらく漂っていたが、やがてどこかへと去っていく。
のび太はこの機械を使うと、UFOを呼ぶことができると気が付く。そこで機械を手にして空き地へと向かい、いつものようにだべっているジャイアン・スネ夫・しずちゃんに、「UFOを呼んでみせる」と宣言する。
当然でたらめ呼ばわりされたのび太は、さっそく機械を適当に操作すると、UFOが空き地の上空に現れる。「本当に来た!」と3人は文字通り飛び上がり、声にならない衝撃を受ける。
UFOはしばらくして遠ざかっていくが、のび太は「これからもUFO呼びたければ僕に言いな」と得意満面。そして「今にテレビからも出てくれって言われるぞ」などとエヘラエヘラするのであった。
ちなみに「エスパー魔美」において、UFOを念力で呼ぶという触れ込みでテレビに出演した級友のお話『未確認飛行物体?』(1977年5月・本作の1年前)があるが、UFOを呼ぶというのは、この時代の少年たちのステイタスだったのだろうか?
部屋に戻って寝転がったのび太は、引き続き適当に機械をいじっては、UFOを呼び出し、UFOが消えるとまた呼び出すを繰り返す。
すると、UFOが小さくなって消えるのではなく、ぐんぐんと大きくなってくる。ゴゴゴゴとのび太の部屋に迫り、ついにはドガ~ンと窓を大破してUFOが突っ込んでくる。
そして、ウインウインとUFOの先端部分が開いて、中からジャーンと宇宙人が姿を見せる。これぞザ・未知との遭遇である。
宇宙人は一つ目でオットセイの様な体形、手足の指はなく頭に毛が一本だけ生えている。気のせいか、目つきが不機嫌さを浮かべている。
訳わからない言葉で話しかけてくるが、のび太は「オー、ハローハロー、サンキュー、グッバイ」と適当にあしらおうとする。
そこへドラえもんが「あ~っ、やってくれちゃって!」と言いながら飛び込んでくる。そしてここでこの機械についてようやく説明をする。
説明を聞いたのび太は「すごいじゃない」と感心し、宇宙人が何かをしゃべっているが「アハハなんか言ってる」と小バカにする。
ドラえもんはそんな軽い調子ののび太に、「態度に気を付けた方がいい」と忠告する。何百光年という遠い星からはるばる来るので、用もないのに気やすく呼ぶと、相手の逆鱗に触れて、宇宙戦争にもなりかけた事例もあるという。
嫌な予感がしてくる二人。ドラえもんが「ほんやくコンニャク」を取り出し、まずは宇宙人の話を正確に聞き取ることに。
ちなみに「ほんやくコンニャク」は、本作で二度目の登場となるが、実際には作中でコンニャクが描かれてはいない(名前だけの登場)。
初登場は『ゆうれい城へ引っこし』(76年6月)という話で、この時はコンニャクの大きさがとても小さめだったのだが印象的。現在私たちが知っている大きめサイズになったのは、三度目の登場となった『天井うらの宇宙戦争』(78年9月)からである。
ここからドラえもんが宇宙人の言葉を翻訳してくれるコマが4つ続く。内容はざっくり「用もないのに呼び出したのではあるまいな」という苦情に似たセリフである。ここでの「モールス信号」は後ほどまとめて解読してみたい。
宇宙人はハルカ星から来たハルバルという名前であるという。どんだけ遠いところからやってきたのだろうか。
ハルバルは、ハルカ星の連合艦隊はこれまで宇宙戦争で負けたことがないという。のび太たちに特段の用事が無さそうなので、イライラをどんどんと募らせていく。
そこでのび太とドラえもんは、無理やりにご機嫌取り作戦を開始。「ご飯でも食べながらゆっくりと」ということで、居間のテーブルに座らせて、どこからか酒の肴各種を調達して並べて、ビールなんかを注ぎ込む。
ハルバルは、一本しかない眉をひそめて、片手をテーブルについたりして、まだまだ不満そう。ところが思いの外地球の食べ物が口に合ったらしく、機嫌が直って嬉しそうな表情となる。一つ目だが、喜怒哀楽がすぐわかるのが素晴らしい。
もっと食べ物を出そうと考えたのび太が冷蔵庫から牛乳やハムなどを取り出していると、運の悪いことにママに見つかってしまう。
このシチュエーションにおいて、ママのペット撲滅レーダーが発動。「またイヌかネコを拾ってきたのね」と激怒りモードとなる。ママはよく怒る性格だが、こと動物を家に持ち込むことに関しては、異常なほどに激高するのである。
のび太は「これは地球の平和を守るため」と正直な言い訳をするが、当然真に受けてくれはしない。客間のハルカ星人を見て、「まあっ、アザラシなんか連れ込んで」と驚き、ホウキでバシンと殴りつけてしまう。
もし本当にアザラシだとしても暴力的な反応であり、ママの動物への嫌悪感は何か幼少期にトラウマを背負っているとしか思えないレベルなのである。
怒り狂ったアザラシ、いやハルカ星人は、半べそをかきながらUFOへと走り出す。ドラえもん曰く「宇宙艦隊で地球へ攻めよせる」と口走っているようである。
「地球は滅びるんだ、君のせいだぞ」とドラえもん。元々は危険な道具を不用意に出しておくドラえもんのせいではあるが・・・。
のび太たちを振り切ってUFOへと乗り込もうとしたハルカ星人だったが、のび太の部屋に転がっているビー玉に目を奪われる。手にして、何やら突然大興奮している様子。
ドラえもんが通訳すると、ハルカ星にはガラスができないので、地球のダイヤより値打ちがあるのだという。地球のダイヤの価値を知っているとは思えないので、ドラえもんの意訳かもしれない。
そこで機転を利かせたのび太たち。すかさずビー玉を大量に用意して、「地球とハルカ星の友情のしるしとしてビー玉を送りたいと思って呼んだのです」と言って、ハルバルに献上する。
一つ目で目を見張り、ハートをまき散らしてのび太へと抱きついて感謝の意を示すハルカ星人。本当に喜怒哀楽の激しい生き物である。
ハルカ星人のUFOが去り、のび太とドラえもんは「ついに地球は滅亡から救われたのであった」と言って抱き合う。そんな二人を見て「テレビの見過ぎです」と口を尖らせるママ。地球滅亡の危機を招いた張本人であることも露知らず。
ある種不幸な形でハルカ星人との「未知との遭遇」が果たされた訳だが、彼がどんな言葉を発していたのかを、一文字ずつ和文モールス信号に置き換えてみたい。
マンガをお手元にして見てほしいが、ハルカ星人の言葉はギザギザした線で表現されている。ギザギザの山の高さが異なっており、ひと固まりに山が3つか4つある。
ギザギザの低い山の部分をモールス信号における「・」、高い山を「ー」とみなし、ひと固まりを一語と考えて、和文モールス信号の表と照らし合わせて変換していく。
すると・・・
以上が、ハルカ星人のハルカ語完全解析でした。
・・・解読には思ったよりも骨が折れたが、このアイディアを思いついて実行する藤子先生の恐ろしさ・・・。アシスタントの方が調べて書いたのだろうか?
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