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オンラインライブを観た⑱(9.20京都音楽博覧会/9.23 tricot)


9.20 京都音楽博覧会2020(アーカイブ9.27迄)

くるり主催の音楽イベント、今年はオンライン開催。京都のライブハウス捨得にて収録されたライブ映像が放映された。提灯の揺れる様が実に可愛い。

1組目は岸田繁楽団。“岸田繁楽団”は楽団⻑の岸田繁を筆頭に、さまざまなメンバーで構成される「誰でも入れる楽団」「どこでも演奏する楽団」「なんでも演奏する楽団」とのことで、構想自体はずっとあったようだがこのコロナ禍を機に実現に移されたもの。今後も様々な場所での演奏映像収録を中心に活動していくとのことで確かにこのタイミングならではの試みだろう。

全編に渡って管弦編曲によって生まれ変わった楽曲たちが狭いハコの中でひしめき合う楽団員によって演奏。岸田はTHE BOOM「島唄」やナポリ民謡の「サンタルチア」など土着的な匂いを持つ楽曲から、最新型童謡「ドンじゅらりん」など幅広く披露。自作/多作を並列に置きtつつ、楽団の色で染めて自由に、気持ちよさそうに歌う。意義の定まらない楽しさ(とはいえ制作風景は実にストイック)がそこにはあった。音源にもコーラスで参加しているUCARY&THE VALENTINEと歌われた「琥珀色の街、上海蟹の朝」はHip Hopのビートの上を美しいストリングスが彩る未体験な幸福感を放っていた。

ゲストボーカルとしてUCARYのほか、畳野彩加(Homecomings)、小山田壮平が出演。畳野はその柔らかくどこか陰のある歌声で荒井由実「ひこうき雲」を披露。良いメロディと言葉に良い声と良い編曲が加われば超良い、という当たり前を実感させてくれる。平賀さち枝とホームカミングス「白い光の朝に」セルフカバーも原曲の魅力を際立たせる健やかな演奏でニコニコせざるを得なかった。小山田壮平はくるり「ブレーメン」(少しテンポを上げたアレンジが彼の歌唱にしっくりくる)であどけなく伸びやかな歌声で披露。この人、ギター持ってなくてもヒョコヒョコ動いて歌うんだな、とほっこりしつつandymori「1984」にはしっかり泣いてしまう。やはり規格外の名曲だ。


2番手でありトリのくるり。『魂のゆくえ』期の楽曲を多く披露した。軽やかな曲調が多い作品だが、岸田繁の精神状態が不安定だった時期の制作であり、どこか虚無と暗さが渦巻くアルバム。先の見えないと言われてきたコロナ禍、徐々に変革の兆しが訪れたこの折にしっくりくる心象。破壊衝動と感傷、その間をうねる演奏が往来してゆく。披露された2曲の新曲もどこかそのムードを漂わせていた。ていうか新曲作ってたのかよ!という驚き。次の作品は意外と早く届けられるかもなぁ。

中盤、岸田、佐藤、BOBOという10年前の編成で披露された「東京」「トレインロックフェスティバル」はずっしりと来た。岸田繁楽団の大所帯なアンサンブルから3ピースのロックバンドを流動的に操ってゆく、その時々で異なる気分に合わせるかのような自然体な再構築にはいつだって驚きと喜びが伴う。最後は岸田、佐藤、ファンファンのくるりメンバーのみで3曲。ギター、ベース、トランペットなんていう突拍子もない編成なのに、今はこれがくるりの源泉だな、と確信できる。「宿はなし」がじんわりと情感を広げてエンド。いつか京都の夕焼けとともに聴いてみたい。

https://youtu.be/DTonZedb5cw

<setlist>
岸田繁楽団
1. Main Theme (岸田繁楽団)
2. 島唄 (THE BOOM)
3. ひこうき雲(荒井由実) with 畳野彩加 from Homecomings
4. 白い光の朝に(平賀さち枝とホームカミングス)&nbsp;with 畳野彩加 from Homecomings
5. ドンじゅらりん(岸田繁)&nbsp;with UCARY&THE VALENTINE
6. 琥珀色の街、上海蟹の朝(くるり) with UCARY&THE VALENTINE、佐藤征史
7. ブレーメン(くるり) with 小山田壮平、ファンファン
8. 1984(andymori) with&nbsp; 小山田壮平、ファンファン
9. Santa Lucia(ナポリ民謡)
10. Ending Theme (岸田繁楽団)

くるり
1. 愉快なピーナッツ
2. さよならリグレット
3. 京都の大学生
4. Liberty & Gravity
5. 益荒男さん(新曲)
6. 潮風のアリア(新曲)
7. 虹
8. 鍋の中のつみれ
9. 太陽のブルース
10. トレイン・ロック・フェスティバル
11. 東京
12. ロックンロール
13. 怒りのぶるうす
14. Tokyo OP
15. ブレーメン
16. キャメル
17. 宿はなし


9.23 tricot “Laststep”(アーカイブ9.27迄)

tricot、全席指定で観客は食事もできるスタイルでの公演。通常営業的なあの揉みくちゃでアグレッシブなライブではなく、この状況下ならではの挑戦であろう。とはいえ、年始のアルバム『真っ黒』はどっしりとしたリズムが印象的で単に攻撃的なだけではなく、じっくり聴き入りたい曲も多かった。そういう意味では、ここで"じっと聴いて楽しむtricot"を見せたのも頷ける。

アルバムの中で数曲はメロウなアプローチをしてきたため、その蓄積によって持ち弾は数多い。序盤から一貫して続くファンク~ジャズなグルーヴの中で、たおやかで、時に切り裂くようなギタープレイ/リズムワークと持ち前のメロディセンスをしなやかに展開する楽曲の数々。統一された質感はありつつ「なか」のように艶やかな歌唱、「タラッタラッタ」のような深く感傷を残す楽曲など、幅広いラインナップを揃えていた。

中嶋イッキュウがアコギを持ち歌う新曲「炒飯」はまた新機軸な軽やかさを持つ素朴な1曲で来月のアルバムへの期待も高まる。この日突出していたのはロックバラードへと変貌を遂げた「Nichijo_Seikatsu」。コーラスの美しさを引き継ぎつつ、バンド演奏の枠を付与したこの曲は実に強い。アンコールで演奏された「Laststep」もアコースティック版しか聴いたことがなかったので原曲はこんなにもスイートでメロウなのか!と驚いたり。まだまだどんな方向にも伸びていける。それを証明する10周年の特別公演だったと思う。


<setlist>
1.エコー
2.秘蜜
3.低速道路
4.神戸ナンバー
5.なか
6.タラッタラッタ
7.BUTTER
8.炒飯(新曲)
9.potage
10.ワンシーズン
11.Nichijo_Seikatsu
-encore-
12.Laststep

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