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12.11サカナクション SAKANAQUARIUM【アダプト】アリーナツアー@Aichi Sky Expoの涙

サカナクション、約2年ぶりのツアー。来年3月30日にリリース予定(本当に出るのか?)の8thアルバム『アダプト』のツアーであり、先月に開催したオンラインライブ『アダプトONLINE』に続くプロジェクトの1つでもある、という特殊な位置付けながら初日・名古屋公演はサカナクションにとっても約2年ぶりの有観客ライブであり、何とも形容し難いワクワクに満ちていた。個人的には2019年のWILD BUNCH FEST.以来の鑑賞だし、ワンマンに至っては前回のアリーナツアー以来なので2年以上ぶりのサカナクションである。

会場は愛知のセントレア空港で中心部からは特急で40分以上かかるなかなかの立地。孤島にぽつんと浮かぶアリーナである。最近できた会場だけあって非常にスタイリッシュなデザインの内装だが、会場は真四角で極めて無機質。「アダプトONLINE」や「光ONLINE」の会場であった倉庫を思わせるがらんとした場所だ。アンビエントな音楽が鳴り響き、徐々に音が会場を包み込み始める。定刻10分を過ぎた頃にじんわりと客電が落ち開演。ゆっくりとステージ照明が立ち上がるとそこには「アダプトONLINE」の舞台として作られた"アダプトタワー"がほぼそのままそこにある。圧倒的な存在感だった。

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ライブの流れはほぼ「アダプトONLINE」に忠実なもの。しかし、現場で体感するとそのイメージはよりダイレクトに届く。「なんてったって春」では特盛のオイルアートが脳を揺さぶっていくし、「スローモーション」ではステージ上のみならず客席にも淡雪が降り注いでゆく。画面上で観ていた演出の中に身を置き、更なる迫力をもって届けてくる。『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』では一郎人形のダンスがない代わりに客席のダンスに託す工夫もあり、リアルな場だからこその見せ方だ。「月の椀」ではスクリーンにチープな背景演出で映しつつ、客席からはステージ上でその全景を把握できるというオンラインの種明かし要素も交えたユニークなライブと言えよう。

オンライン同様、川床明日香も舞台役者として出演。これはまさに対面だからこそ訴えかけるものがあった。「キャラバン」の時点ではセッティングとライティングの巧さもあり実際にそこにいるかは不明になるような見せ方をしていたためか、「スローモーション」でバンドが演奏するステージの上にふらりと現れた瞬間の会場のどよめきは印象深い。ライブの位相が変化する音がしたように思う。雪降る中で物憂げな表情を見せる「スローモーション」、困惑と激昂の表情を届ける「ティーンエイジ」など、楽曲の内包する感情を増幅する彼女は役割を担っており、演劇×音楽の融和を見事に果たしていた。撮影済の映像演出だけでは出せない直情的な現場感が溢れていた。

オンラインから差し替えられた「壁」では川床がスクリーンで演奏するサカナクションをブロックで隠していく。"自殺”を想起させるこの楽曲、川床が映される中で彼女が彼女自身をブロックで埋め尽くすという所作にドキっとさせられる。フラッシュの中で山口一郎(Vo/Gt)と川床の表情がスイッチングされ曲が終わり、重要曲「目が明く藍色」へ。オンラインでは自己と向き合う曲として聞こえたが、このライブでは前曲からの流れもあり、リセットからの再会の歌として響く。声の出せない僕らが<君の声を聴かせてよ>という言葉に導かれ手を伸ばすシーン。曲終わりに川床と山口がステージ上で手を握り合うその刹那。あぁ僕らはサカナクションと再び逢えたと実感した。

アダプトタワーの最上部でデスクトップをプレイする「DocumentaRy」からは怒涛のダンスタイムだ。アダプトタワーを縁取るようなレーザー、客席とステージを目まぐるしく切り替えるサイケデリックな映像も相まってトリップ感絶大。「ルーキー」では客席いっぱいに緑のレーザーが広がり、改めて"サカナクションのライブ"を強く実感する。更に新曲群も既に最高潮の盛り上がりを担う。ストレートかつブライトな高揚感を持つ「プラトー」、そして疑似ワイドショー風の映像と呼応してレポーター役でるうこが登場してステージ上を中継カメラが動き回った「ショック!」の中毒性たるや。あのダンスがもし来年の夏フェスを支配したら、、想像だけで胸がときめく。

それに今回はSpeaker+という絶好の音響。ディレイなく、嫌な反響もなく、音の塊が鮮明に届いていく様はアッパーな曲でこそ映える。そしてやはり、後半の定番曲たちでこそ、サカナクションのライブへと戻ってきた、という気分が湧くものだ。観客の声のない「アイデンティティ」を聴いたのは、もしかすると当時新曲だった2010年のフェス以来かもしれないな、、と思うし、次は絶対にめちゃくちゃ歌えることを願った。「夜の踊り子」「新宝島」とアゲ倒した後、チルアウトを誘う「忘れられないの」で多幸感たっぷりに本編はエンド。ディープな前半、そしてエンタメの後半、配分最高。そして終始、ベースの草刈さんがとても楽しそうに演奏していたのが印象的。

アンコールでは久々にステージに立った感慨をメンバー5人がそれぞれ語る。そもそも開催できるのかどうか、演者も観客も近い不安を抱える機会なんてきっともうそうそう来ないだろう、と思う。いくつかの宣伝を挟んだ後、「懐かしい曲やるよ」と告げてイントロをブラッシュアップした「三日月サンセット」へ!正真正銘のデビュー曲。やはり、ここから再開、というメッセージが伝わってくる。そしてアウトロから繋げる形でこちらも1stより「白波トップウォーター」!個人的には大興奮の選曲で思わず声が漏れた。自分が行くライブでことごとく逃してきた1曲。全身にこの体験を沁み込ませるようにして聴いた。あのささやなシンセ音がアリーナを満たす様、美しい。

コロナ禍で活動を行うことの苦しみ、そしてこれからも戦いながら時代を表現していくことを誓う言葉の後、歌い始めたのは「ナイトフィッシングイズグッド」。しかし歌い出しサビの終わりで声は裏返り、その後のAメロで山口は号泣。歌えなくなってしまった。バンドの演奏のみが流れる中、ぽつぽつと拍手で山口を讃え出す観客。それはゆっくりと手拍子に変わり、歌のないこの曲を彩っていく。声を出せない環境下だからこそ生まれた新しくかけがえのない交感の時間だった。その後、徐々に声を持ち直して至上のクライマックスに向かう様は圧巻だった。メンバー全員、噛み締めるように歌う姿は完璧な構築美で見せた本編の姿と異なる、音楽が好きで好きでたたまらない5人の人間味溢れるありのままだった。

この日のライブはきっと忘れられない。時代の行き詰まりを誰もが感じたコロナ禍において、その状況下をもヒントにして新たな創造性を発揮してきたサカナクション。その姿は頼もしく、また実にクールでスマートに見えたものだ。が、彼がこぼした「本当に苦しかった」という言葉とその先にあった涙が物語るのはこちらの想像を遥かに超える、壮絶な日々だ。抜群に仕上げられた2時間半、そこに生まれたこの涙という綻びこそがサカナクションというバンドをどこまでも泥臭く、堅実で、逞しい存在だと認識させてくれるのだ。エンドロールとあわせて流れた「フレンドリー」の晴れやかさと、全てが終わった後でメンバー全員がステージ隅々を歩き挨拶して回る姿に涙が出た。先鋭的であり、ずっと実直。サカナクションのあり方ほど頼もしいものはない。

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<setlist>
1.multiple exposure 
2.キャラバン
3.なんてったって春
4.スローモーション
5.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
6.月の椀
7.ティーンエイジ
8.壁
9.目が明く藍色
10.DocumentaRy
11.ルーキー
12.プラトー
13.アルクアラウンド
14.アイデンティティ
15.ショック!
16.モス
17.夜の踊り子
18.新宝島
19.忘れられないの
-encore-
20.三日月サンセット
21.白波トップウォーター
22.ナイトフィッシングイズグッド
23.フレンドリー

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