ペンギン軍曹

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ペンギン軍曹

都内在住。芸人さん応援してます。 たまに小説を書きます。 連絡先:sgtpenpenguin@gmail.com

最近の記事

火星探査

お題 火星 社会貢献 カルパッチョ 私はかつて、下層に生きる者でした。 私の生きる国で、ひょっとすると世界の中でも相当に低い位置を這いずり回っていると思います。 いえ、這いずり回るという表現すら当てはまらぬほど、何もしていませんでした。 経済的には恵まれていました。とは言っても、公務員である父の扶養を受けているだけでした。 「お前はいつまで家にこもりきりなんだ。高い学費を払って大学まで行かせたのに。」 父は理性的な人間でしたから、直接私にその言葉をぶつけたことはありません

    • 天秤

      男が目覚めてから、既に四十分は経過していた。 いつものパジャマをきてベッドに座っているが、そのベッドも、彼がいる部屋も見慣れぬものだった。 一体ここはどこなのかという大きな疑問は拭えないままに、彼の頭は他のことでかかりきりであった。 彼の目の前には天秤が置かれていた。 ギリシャ神話に出てくるような古めかしい形をしており、ところどころ黒ずんではいるが金色の光沢を帯びている。 寝覚めの彼にも畏れを覚えさせたそれらは、彼の座るベッドと並行に置かれていた。 夜具を除いて、それがこの

      • 短編小説 耳

        「ねえねえ、綿棒どこ?」 湯上がりの熱気を纏ったまま、首にバスタオルをかけた由美子がドアを開けしなに言う。 「ごめん、うち綿棒ないんだよね。」 健二はなんとなしに眺めていたテレビから目を背け、由美子の目を見て答える。 やや棒読みの返事は台詞めいて聞こえた。 「えっ、切らしてるとかじゃなくて置いてないの?」 「そうなんだよ。テレビで耳かきしすぎると傷がついて良くないって聞いてから、耳かきしなくなったんだよね。」 自分の口から出たぎこちない声音に健二は少しうろたえた。 「ふーん。

        • 短編小説 Heartland

          太陽では力不足だ。 薄い雲を透かした日光が地表までの長旅を終える前に力尽きる。 そこへ吹く木枯らし。 我が物顔で吹き荒れようものなら、思わず舌打ちの一つでも出てしまうところだ。 だが今日はそよ風のように遠慮がちだった。 日本古来の奥ゆかしさと言うか三歩下がった態度と言うか、遠路はるばるやって来た太陽へ遠慮をしているかのようであった。 風土という言葉もあるくらいだから、土壌なんかと同じように風にも特色が出るのかもしれない。 そう考えると風ひとつにも可愛げが出てくるものだ。 慎二

          短編小説 擬音の疑問

          「最近、日本語の乱れが気になるようになってさ。」 置かれたばかりのコーヒーを勢い良くすすりながら、長谷川はつぶやく。 田畑はそれを見ながらコーヒーに息を吹きかけていたが、長谷川の一言を聞いてそれをやめた。 それは別に長谷川の一言に息を呑むような驚きを覚えたわけではなく、 そうしないと返事ができないからに過ぎなかった。 「なんだよ、お前もおっさんの仲間入りか?」 長谷川は笑う。 「いや、別にあいつらみたいに他人に注意しようとは思わないよ。俺も結構あやふやな使い方してる言葉あるし

          短編小説 擬音の疑問

          短編小説 10月30日

          ある晩、男は空を見ていた。 屋根の上から見下ろす街並みは、既に夜の闇に溶けていた。 大きな一つの影となった風景が、たくさん並んだ電灯の形に所々くり抜かれていた。 目を挙げればその不格好な切り絵も視界から外れ、空に浮かんだ大きな月の他には何も目に入らなかった。 吐息のように柔らかな、しかし吐息よりも冷たい風が男の頬をなでる。 コートを隔てて外界と遮断された体は、まったく温もりを奪われていないように思える。 同じ風が何度吹き過ぎようと、彼はここに座っていられる気がした。 しかし

          短編小説 10月30日

          短編小説 椅子(完結)

          車が通れない道に差し掛かり、途中からは歩くことになった。 勾配のゆるやかな山であるため、二人にとっては散歩道とさほど変わりはなかった。 自分でここに来ることを選んでおきながら、ボブは椅子の山がまだ写真の中の出来事に思えてならなかった。 まもなくたどり着くはずであるそれに対して、息を切らして駆け寄っていく気持ちを持ち合わせていなかった。 突然、硬い物同士がぶつかる激しい音がして、ボブは足元から目を上げた。 「椅子の山が崩れる音に違いない。」 二人は坂を駆け上った。 頭の中に焼

          短編小説 椅子(完結)

          短編小説 椅子(3)

          あれから一ヶ月が経った。 ボブがこなす毎朝の習慣に異変は見られなかった。 強いて言うならば、体重計に乗る際につきものであった憂鬱な気分が、自分の成果物を勘定するような、うきうきとした気分に変わっていた。 朝目覚めてから眠るまで、ボブの座る時間はかなり短くなっていた。 相変わらず椅子は帰ってこない。 ベッドに腰掛けることもできなくはないが、座っていたいがために寝室で一日を過ごしてしまったある土曜日をひどく悔いた彼は、 用もないのに寝室に立ち入らないことを自分に課していた。 不

          短編小説 椅子(3)

          短編小説 椅子(2)

          ボブの家は街の外れにあった。市街地をやっと見渡せる程度の小さな山を所有しており、その麓に家を建てさせたのだ。 職場やら馴染みの店やらは市街地に密集していたが、歩いて30分足らずで行くことができたため、彼は住み良さに重きを置いたのだった。 日頃から散歩を趣味としている彼には、目的地までの時間も楽しみの一つであった。 昨日よりもいっそう緑の色を深めた木々を眺めながら、市街地までの下り坂を降りて行った。 道端の草から白い蝶が飛び立ちボブの周囲をひらひらと彷徨うと、道の反対側へ渡って

          短編小説 椅子(2)

          短編小説 椅子(1)

          なんの変哲もない朝だった。 ボブは目覚めて、パジャマを脱ぎ、毎朝の習慣をこなしていた。 すなわち、体重計に乗って昨晩ピザを一切れ余分に食べたことを反省し、髭を剃り、四十一度のシャワーを浴び、髪を撫でつけたあと乾かし、トースターにパンを二枚置き、コーヒーを入れていたのだった。 そこまできてようやく、彼はあることに気がついた。 椅子がない。食卓に据え付けてある、普段男が使っている赤いクッションに生木を剥いだような薄いベージュの椅子が見当たらない。 寝ぼけているのだと思い、窓辺に

          短編小説 椅子(1)

          短編小説 「集積所の精」 その2

          ようやく目覚め始めた脳細胞一つ一つの中を、違和感が満たし始めていた。 おじさんが視界から消えない。 ここまでラフな格好をしているからには、集積所の真前に位置する家か、せめて隣の家に住んでいるものと思っていた。 しかし既に三軒ほど隣の家まで来ているのに、おじさんはまっすぐ進み続けている。 「おかしい……こんなに遠くまでゴミを捨てに来るのか?集積所は他にもあるだろう。」 六軒目を超えたあたりから、おじさんに対する畏怖に混じって、尊敬の念すら沸き起こってきた。 そして隆史は気づい

          短編小説 「集積所の精」 その2

          短編小説 「集積所の精」 その1

          バサッ、と気の抜けた音がした。 同じく気の抜けた隆史の眼は、音がした方へ吸い寄せられた。 何を見るでもなく、ただまっすぐ最寄り駅への道を歩いていた途中だった。 いつもと同じ時間に、いつもと同じ会社へ向かうためだった。 この音を聞くと、隆史は少し心が踊る。 別にこの音自体に特別な心地よさがある訳ではないのだが。 通勤中に気の抜けた音を耳にするのは一度目や二度目ではない。 隆史が暮らすこの住宅街には各所にゴミの集積所があり、 毎週決まった曜日には、駅までの道中に一度はゴミを捨て

          短編小説 「集積所の精」 その1

          自己紹介:ペンギン軍曹と申します。

          はじめまして。ペンギン軍曹と申します。先週からnoteへの投稿を始めたのですが、得体の知れないやつが小説をポコポコあげ続けるのも何だかな、と思ったので自己紹介をします。 【名前】 ペンギン軍曹 ペンギンが大好きです。名古屋の水族館にペンギンまみれのブースがあり、気づいたら一時間ほどペンギンを眺め続けていました。両手をパタパタするのがたまらない。 「軍曹」はこれまた大好きなバンドの「The Beatles」のアルバムから取りました。 【noteを始めた理由】 自己表現

          自己紹介:ペンギン軍曹と申します。

          短編小説 「オムライスと夏の指」

           空調が効いているというのに、汗ひとつかいていないというのに、健二は眠れずにいた。 空想の世界から夢に落ちていこうとして、明日行く予定の新しい喫茶店の外観を目に浮かべ、名物のオムライスを思っていた。 二つのイメージが頭の中で溶け合い、一人でに動き出す感覚を味わう。オムライスの黄色は海辺の太陽に変わり、彼は砂浜を歩いていた。 とりとめのないイメージを追いかけるうちに右手の先にまわりはじめた甘い痺れが全身に広がり、頭に達するのを待ち構えていた。 健二はふいに目を開き、夢の世界に

          短編小説 「オムライスと夏の指」

          短編小説 「異聞木譚」

          「誰か正しい道を教えてくれ。」 こう言うものがあると、男は鼻で笑っていた。    その男は冒険家だった。これまで幾つもの大陸や孤島へ出向いてきた。 そこで誰も見たことのない虫や鳥などを発見し、それら全てに自分の名前をつけることで、自らの名声を高めてきた。  また男はいつも一人で冒険にでかけた。誰も見たことのない生き物たちを初めて目にするのは、常に自分でなくてはならないと考えていたからだ。 もし助手などを連れて行けば、自分よりも先に新発見をしてしまうかもしれない。 手柄を横取

          短編小説 「異聞木譚」

          短編小説 逃げ水

           一  また、ぐっしょりと汗をかいてしまった。背中にへばりついたシャツを引き連れたまま、正明は浴室へ向かった。体を覆っている汗と、寝起きの気だるさをぬるま湯で洗い流した。  少し湿ったままの頭でベランダへ出ると、外は明るくなり始めていた。空に映る水色や紫やピンクと、大きな黒い一かたまりとなったままの街との対照は、刷りかけの色版画だった。  消え残った星々を吸い込むようにして、太陽は徐々に輝きを強めていった。正明が朝食を終え、仕度を済ませる頃には、夜空の輝きは一箇所に詰め込まれ

          短編小説 逃げ水