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記憶(2018.11.11)
「最後に、抱きしめてもいいですか?」
骨壷を抱く彼の母親に、そう訊ねる。
憔悴した喪主の手は、ほんの少しの力で折れてしまいそうなほど頼りなく、それでも確と壺を抱きしめている。
ほんのひと時の別れさえ不安気に、その手は彼を離した。
壺がずっしりと手に重い。
荼毘に付された彼は、生前の溌剌とした面影とあまりにかけ離れていて、それが彼の体の残したものだとはとても信じることができない。
陶器は皮肉のよう
LONG SEASON 2023
『18:02「ごめん、今日行けなくなった」』
まさに今会社を出ようというところで、携帯が鳴った。
全身の力が抜ける。
初めての場所に行くのはなかなか気力がいるもので、それを一人で、仕事終わりに、なんて考えるだけで気が滅入る。
でも大好きなバンドを初めて生で聴けるまたとない機会だ。行かない訳にはいけない。
そう自分に言い聞かせ、駅へ向かう。
足が重い。
家路へ家路へと向かいたがる体を引き摺って、ス