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極端とはその境界の向こう側では人生が終わる境界を意味し、極端への情熱は芸術においても、…

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極端とはその境界の向こう側では人生が終わる境界を意味し、極端への情熱は芸術においても、政治においても死への憧れが秘められている。

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別離

今日しかない。 今日しかないという確信があった。 今日しかない。 今だ。 今なら死ぬ勇気がある。 空々しい冷ややかさを孕んだ春宵の香り。死を司る彼女は、幼い頃からいつも私の側にいた。あどけなく、どこか悪魔的な微笑。挑戦的で、何もかも見透かすような強い瞳。長く渦を巻くあの美しい髪。それは無邪気な空色に透き通るようにも、漆黒に艶めかしく微笑むようにも見えた。あの妖艶さで、一体どれほどの魂を絡め取り、その蠱惑的な体の内に流し込んできたのだろうか。 死。それはいつだって私を魅了し、

    • 日記(20240813)

      茹だるような暑さだった。8月中旬の朝、駅のホームを照り付ける日差しがジリジリと首筋を焼く。張り付く汗が気持ち悪い。 こうも暑いと、音楽を聴くだけで胸焼けしてしまう。いつも肌身離さず付けているイヤホンを外して、視線を上げる。空を覆い尽くすほど大袈裟に広がる雲に身震いをした。夏の積乱雲を見ると、大きな熊に威嚇されているような感じがして私はいつも目を閉じる。逃げるより、死んだふりをした方がいい。 最近また、頭に綿がギチギチに詰まったような感覚がある。良くない兆候だと身体が覚えてい

      • 忘却

        人が生きてゆく上で 忘却は必要な機能だと言う。 忘却ができなければ とても耐えてゆくことのできぬ 悲しみの多い世界だからだと言う。 それでも私は 瘡蓋ができる度に掻きむしって 何度血を流してだって 貴方を想って泣きたい。

        • カメムシ

          仄かに夏の香りのする5月の朝、コロコロと表情を変える窓外の景色を眺めながら、私は快速電車で仕事場へと向かっていた。気怠さの残る月曜日。雲一つない青空が煤けて見える。 ふと、視界にカメムシが飛び込んできた。 若草色の体から生えた頼りない足が地を掴もうと喘ぐが、ステンレス製の窓枠は、彼のいつも過ごす自然世界と違って掴みどころがない。 哀れなるかな、カメムシはツルツルと滑って流れてゆく。 こんなところに迷い込まなければ、住み慣れた土地で悠々と暮らせていたであろうに。彼は今、見知ら

        • 固定された記事

          花の枯れるのを見ていた

          花の枯れるのを見ていた。 いつもならすぐに取り替えてしまうものを、 花瓶に水を足しながら、朽ちゆく儘に任せていた。 ふと、光を失い、頭を垂れる花弁に囲まれ、ただ一つ蕾のまま残っているものが目を惹いた。 それは今にも花開きそうに身を膨らましたまま、咲くともなく、枯れるともなく 少しずつ、少しずつ、その艶やかな色彩を失った。 天女の置き忘れた羽衣のように 尚一層燦爛と、香り立つ余韻を残して。 2024.4.9

          花の枯れるのを見ていた

          『沈黙の間』

          李禹煥の「沈黙の間」との出会いは、2022年の6月でした。 それまで私は美術館へ行くと、いつも「完成された絵」を“第三者として客観的に”観ており、自分自身の中で、作品へ抱いた感覚を醸成しておりました。つまり、あくまで自分1人の中で感覚が完結していたのです。 しかしこの作品と対峙した時、何とも言い得ぬ強い違和感に襲われました。 そこは小さな部屋で、閉館間際のその時間、ただ石と鉄板と私だけがそこに影を落としていました。 石と鉄板は、物音ひとつ聞こえぬ緊張感の中強い力を持って張り

          『沈黙の間』

          記憶(2018.11.11)

          「最後に、抱きしめてもいいですか?」 骨壷を抱く彼の母親に、そう訊ねる。 憔悴した喪主の手は、ほんの少しの力で折れてしまいそうなほど頼りなく、それでも確と壺を抱きしめている。 ほんのひと時の別れさえ不安気に、その手は彼を離した。 壺がずっしりと手に重い。 荼毘に付された彼は、生前の溌剌とした面影とあまりにかけ離れていて、それが彼の体の残したものだとはとても信じることができない。 陶器は皮肉のように美しく、艶やかで、彼と悲しい対照を成している。 肉体は焼かれた。 彼はもうどこ

          記憶(2018.11.11)

          LONG SEASON 2023

          『18:02「ごめん、今日行けなくなった」』 まさに今会社を出ようというところで、携帯が鳴った。 全身の力が抜ける。 初めての場所に行くのはなかなか気力がいるもので、それを一人で、仕事終わりに、なんて考えるだけで気が滅入る。 でも大好きなバンドを初めて生で聴けるまたとない機会だ。行かない訳にはいけない。 そう自分に言い聞かせ、駅へ向かう。 足が重い。 家路へ家路へと向かいたがる体を引き摺って、スタンディングのライブでもしっかりステージが見えるようにと履いてきた、ヒールの高い

          LONG SEASON 2023

          夜を背負って

          走りたかった。私はあの時、走りたくて、叫びたくて、でもいつだって、それをやらずに生きてきた。 今、終電を追いかけて走る私は、これまでの全てが報われるような不思議な爽快感に包まれている。 あの時、理性なんかに負けて飛び出せなかった私も、心に呑み込んでぐしゃぐしゃになった想いも、全部、全部、夜の闇に溶けていけ。 - 「なぜ生きてるんだろう」なんて普遍的な物思いも、もうずっと考えてるけど未だに答えはわからない。 「なぜ生きているんだろう」?いや。 「なぜ死ねないんだろう」 周り

          夜を背負って