ラモーナ

いくつかの文化の間に立って言葉を紡ぐ者。 MATCHAで編集:https://matc…

ラモーナ

いくつかの文化の間に立って言葉を紡ぐ者。 MATCHAで編集:https://matcha-jp.com/en/writer/ramona_taranu 文学金魚では創作:https://tinyurl.com/y4bylp6y

最近の記事

『忘れないように』の裏話② 天使について

人生で初めて限りなく死に近づいたのは、16か17歳の時、学校の旅行で初めてローマを訪れた時です。 (※当時は300ユーロくらいでヨーロッパの大都市をめぐる一週間旅行ができていたのです。移動は大型バスで、宿泊は各都市のホステルでした。バスは夜中も走っていたので走行中に睡眠を取る場合もありました。今もこのような旅行ができるかどうか分かりません。) すでに帰る途中だったのですが、朝フランスのリヨンを出発して、昼間にどこかでまた数時間過ごしてからローマに到着したのは夜中でした。ホス

    • 『忘れないように』の裏話① 物語の世界の法則

      短編小説『忘れないように』の前編が先日文学金魚で公開になりました。 読んでくださったみなさま、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか? キリスト教の影響を感じた方もいれば、映画『Ghost in the Shell / 攻殻機動隊』の影響を感じた方もいると思います。自分が書いた物語なので、両方あるはずです。 すべての人間に守護天使がいるという考え方は、キリスト教にもイスラム教にもユダヤ教にもあります。 ここでいきなり余談ですが、大天使のミカエル、ガブリエルとラファ

      • 『蓮・十二時』の裏話 その③ 東京スカイツリーと時間

        文学金魚で公開された連作小説『蓮・十二時』を読んでくださったみなさま、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか? なんとなく少し歪んだ未来の世界に迷い込んだ人物が無事にもとの時代に戻れてよかった、と思われる方がいるかもしれません。しかし『不思議の国のアリス』のように色々な出来事が重なって、何が何だか分からなくなったと思われる方もいるかもしれません。 はい、その通りだと、この物語を書いた自分も思います。最後まで書いてから突然気づいたのは、この物語をここで終わらせることが

        • 『蓮・十二時』の裏話 その② 物語はどのようにして生まれるのか?

          何気なく思い浮かんだシーン、たまたま耳にした会話、一言ではうまく定義できない気持ちなど、これらはすべて物語の種になり得ます。 小説家として活動されている方のお話を聞くと、着想のプロセスは人それぞれです。最初から最後まで内容と流れがはっきり見えているのなら執筆に取りかかる作家もいれば、思いついた物語の種を信じて書きはじめるが、着地点が途中で見えてくるという作家もいます。 想定している小説の長さにもよります。長編の場合は、出来事の流れをある程度把握した上で構造的に進まないと難

        『忘れないように』の裏話② 天使について

          『蓮・十二時』の裏話 その①「携帯式日時計」とは

          先日、連作小説『蓮・十二時』(第1回)が文学金魚で公開になりました。読んでくださった方、ありがとうございます! この小説を少しでもより楽しく読んでいただけるために、noteにて毎回ちょっとした裏話を書いていこうと思います。 初回となる今回のテーマは、「日時計」にしたいと思います。 日時計といえば、公園などで見かけたことがあるのではないでしょうか? 太陽の光でできる影の位置を使って時刻を知るための装置です。紀元前2000年頃から使われているそうです。 『蓮・十二時』に登

          『蓮・十二時』の裏話 その①「携帯式日時計」とは

          ミロと、海のような日本

          2月11日、お茶のお稽古の後に少し時間があって「ミロ展―日本を夢みて」を初日で観に行きました。 この展覧会を楽しみにしていました。ミロの作品が好きだというより、自分の中ではずっと謎でした。中高生の頃は美術部に通っていて、ミロの作品を初めて観たのはあの頃でした。クレーやカンディンスキーのような画家と同じアルバムに収録されていて、何回見てもどっちがどっちかが分からなくなるような感覚だったのを覚えています。(笑)それでも、子どもの頃に観ていて今は懐かしく感じるからか、あるいは大人

          ミロと、海のような日本

          絵本の日に

          毎年11月30日は「絵本の日」だそうです。初めて知りました。大好きな作品を振り返る機会を与えてくれる、とても嬉しい記念日です。 自分の小さな絵本コレクションは、恩人がプレゼントしてくれた2冊の本から始まりました。その2冊は、勤務先が決まって、社会人として生活を始めようとしていた時期に届きました。ページをめくった瞬間、自分が子どもの時、絵本作家になりたいと思っていた頃があったのを思い出しました。 内容自体もある意味で衝撃的で、物語の奥行きといい、絵の芸術性といい、その時点ま

          絵本の日に

          本当の意味で生きるとは何か?

          日々の生活に追われて本当の意味では生きていないのではないかと、この間友人との何気ないやり取りの中で考えさせられました。 身体が生きて動き回っているのに心が死にかけている状態は、よく考えるとあり得なくもないような気がします。 生き方は人それぞれなので、どこで間違えてそのような状態になってしまったかは、個人によって話が違うはずです。ただ、身体が生きている間に心も生きた状態に保つのは、人間として自分自身に対する義務なのではないかとさえ思います。 それで「生きている」感覚の基準

          本当の意味で生きるとは何か?

          「外の世界」は鏡像

          「外の世界」は「内なる世界」の鏡像だという考え方があります。 これは決して自分のオリジナルの考え方ではありません。この考え方が身に付いてしまったのは、ヨーロッパの文学と哲学を読んで育ったからかもしれません。この考え方は理性やロジック、または「正しいものの見方」とは関係なく、完全に無意識的に身に付いていてしまっています。そのルーツをたどると、キリスト教や古典主義以外の世界観や神話に憧れていたロマン主義という文芸運動までさかのぼるかと思います。(詳しい背景は、調べれば出てくるは

          「外の世界」は鏡像

          映画や絵本で泣くこと

          この話を以前どこかでしたことがあるかもしれないが、映画を観ながら涙を流してしまうことが多いです。自宅にいると問題ないのですが、映画館にいると困る時もあります。まあ、エンドロールが終わって周りが明るくなるまで気持ちを落ち着かせるようにしています。 ずっとそうだったわけではありません。ここ数年のことです。 子供の頃、母親が映画で涙を流しているのを見かけると、「どうして泣くの? ただの映画だよ、お母さん」と笑いながら言っていたのを覚えています。それで母は「そうだね」と言って涙を拭

          映画や絵本で泣くこと

          雁が音

          いい人でいる必要はない。 砂漠で懺悔しながら 跪いたまま百マイル歩く必要もない。 ただあなたの体内にある柔らかい生き物に 愛しているものを愛させてあげればいい。 絶望については語ってほしい、あなたの。私のも語ってあげよう。 その間に世界は回り続ける。 その間に太陽や雨の透明な粒が 草原や深い木々、山や川の上を渡って 景色を横切っていく。 その間に雁が音が、澄み切った青空高く、 また家路をたどっている。 あなたがだれであっても、どんなに孤独でも、 世界はあなたの想像力次第、 雁

          美しさとその反対

           「美」の概念は、「善」や「真実」などと言った価値に比べて簡単には定義できないことで知られています。一つの対象が「美しい」ように感じられるのには、いくつかの主観的な条件と客観的な条件が満たさなければなりません。  完全に主観的な美しさは一人の個人の体験で、「その対象がどうして美しいか」を周りの人に説明しないと、共感が得られません。共感する人がいるなら、その主観がある程度共有されているわけで、「完全に主観」ではなく、「ある程度客観」だということになります。また、完全に客観的な

          美しさとその反対

          そこら中に転がっている矛盾

          「矛盾」という言葉の由来は、「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」についての話が出てくる故事ですが、 「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」が実在しているわけではありません。実在しない上に、理論上でも「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」というものが存在していれば、その理論は意味をなさないから「矛盾」です。  矛盾は英語ではcontradictionまたはparadoxと言います。Contradictionの由来は「contra(相反する)」+「di

          そこら中に転がっている矛盾

          SF作家の悪夢

          火星探査機パーサヴィアランスはあと数時間後に火星に着陸するそうです。日本時間の午前4:15に。着陸の様子がオンライン配信で観られます。 昨年7月30日に打ち上げられたので、火星までの旅は7ヶ月間かかりました。そこそこの距離だと考えると、けっこう速い!ような気がします。 火星研究という分野ではとても大事な出来事で、人類にとっても大事な実績になります。2030年までには人間の探検ミッションを火星に派遣するという目標があるらしいですが、パンデミックにも関わらず進捗は予定通りのよう

          SF作家の悪夢

          生きた言葉を求めて

          世界は言葉であふれています。言葉の海で溺れるのではないかと思うくらい、日々言語を通して多くの情報が私たちに届いています。 その中から、読んでためになった情報がどのくらいあるのか? 「新しいことを知って学びになった」というところまで行かなくても、「知って嬉しかったこと」「おかげで気分が明るくなったこと」「周りの人とのつながりを実感させてくれたこと」などが、言葉を通してどれくらい届いているか? このようなことについて真面目に考え出したら、絶望してSNSなどを止めたくなる方も出る

          生きた言葉を求めて

          雅号

          生け花をしばらく習い続けて、ある段階から花展への参加やお免状の話が出て、それで雅号を付けられることになりました。その時までは、「雅号」というものについてほとんど何も知らずにいました。「芸名」だと思っていたので、どう見ても素人の自分がどうして雅号を持つ必要があるかはよく理解できず、花展などで使う「ニックネーム」として捉えようとしました。しかし雅号を与えられて初めて分かったのですが、これは芸名でもニックネームでもなく、名前なのです。 伝統芸術の分野で独立して活動されている方の中