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『蓮・十二時』の裏話 その③ 東京スカイツリーと時間

文学金魚で公開された連作小説『蓮・十二時』を読んでくださったみなさま、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか?

なんとなく少し歪んだ未来の世界に迷い込んだ人物が無事にもとの時代に戻れてよかった、と思われる方がいるかもしれません。しかし『不思議の国のアリス』のように色々な出来事が重なって、何が何だか分からなくなったと思われる方もいるかもしれません。

はい、その通りだと、この物語を書いた自分も思います。最後まで書いてから突然気づいたのは、この物語をここで終わらせることができないということです。

終わらせられない最大の理由は、この物語の主人公が私から離れないからです。次々と色々な物語に出て、色々な冒険に挑みたがっているのです。

それで現在『蓮・一時』という小説を書いていますが、物語が次々と生まれるスピードにキーボードを打つ手がなかなか追いつかないのです。(笑)

裏話としてはあと一つだけここで共有したいと思います。

『蓮・十二時』第4回では、アンナという人物は自分の迷い込んだ世界の特質を知らされる場面があります。この世界では、人は自分たちの生きたい時間の速度が選べるのです。ゆっくりとした時間を選ぶ人もいれば、刺激に満ちた速い時間を選ぶ人もいます。生活の速度が違うため、一部の人は地上で生きており、そして一部の人は主に地下で活動しています。時間の速さを調整できる技術があり、そのあたりの管理を行う機関もあります。

この設定のインスピレーションになったのは、2018年に東京スカイツリーで行われた実験です。超精密時計が1台ずつスカイツリーの展望台と地上に設置され、それで時間の経過が計測された結果、展望台のほうでは時間が1日に4ナノ秒速く進んでいることが分かりました。

地上のほうは重力がより大きいため時間がゆっくりと進んでいるが、地上から離れれば離れるほど重力の影響が減少し、時間が速くなるという、一般相対性理論を実証している結果になっています。

1日単位で考えると大した差ではないと思われるかもしれませんが、一週間単位または一ヶ月単位で考えると無視できないような数値になります。実際、世界中のデジタル時計にデータを付与する人工衛星も、重力の差が生み出す時間の流れの差を計算に入れているのです。

このような研究をもとに、人類が重力を操る技術を持っていれば時間の速度をコントロールできるようになるという展開を想像するには、ちょっとしたSF的イマジネーションあれば簡単。このような技術が社会に及ぼす影響まで視野に入れると、小説の題材はもう揃いました。(笑)

冗談はさておき、初めてこの研究の結果を知った時、感銘を受けました。東京スカイツリー自体が自分にとって少し特別な意味を持つようになりました。大宇宙の法則を体現している身近な存在になったとさえ言えます。

『蓮・十二時』をめぐる裏話は以上となります。
この物語の続きとなる『蓮・一時』が完成するまで、このシリーズとは別の小説を用意しています。文学金魚で近日公開になります。楽しみにしていただければ嬉しいです。

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