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『蓮・十二時』の裏話 その①「携帯式日時計」とは

先日、連作小説『蓮・十二時』(第1回)文学金魚で公開になりました。読んでくださった方、ありがとうございます!

この小説を少しでもより楽しく読んでいただけるために、noteにて毎回ちょっとした裏話を書いていこうと思います。

初回となる今回のテーマは、「日時計」にしたいと思います。

古代の日時計
日時計(湯島天満宮の庭園)

日時計といえば、公園などで見かけたことがあるのではないでしょうか? 太陽の光でできる影の位置を使って時刻を知るための装置です。紀元前2000年頃から使われているそうです。

『蓮・十二時』に登場する日時計は、輪のような形をした携帯用の日時計、いわゆる「環状携帯式日時計」です。16世紀あたりから18世紀までヨーロッパで広く使われていたものです。

小説のビジュアルで見ていただいた日時計はとてもシンプルなものですが、今後も色々な場面で登場していくので、ここで簡単に使い方を説明したいと思います。

環の内側

環の内側には、1から12までの時刻が刻まれています。

環の外側

環の外側には、12ヶ月のラテン語の名称の頭文字が刻まれています。I → Ianuarius (1月)、F → Februarius (2月)、M → Martius (3月)、A → Aprilis (4月)などです。ヨーロッパではラテン語は19世紀あたりまで学問の世界における共通言語でした。そのため、ラテン語の月名はドイツでもフランスでもスペインでなどでも通じました。

日差しが入る穴は I (Iulius, 7月)と A (Augustus, 8月)の境目に設置されています。

この日時計を使うために、外側にある環を回し、日差しが入る小さな穴を現在の月のところに設置します。季節によって太陽の時角が異なるので、その推移を補正するために毎回穴の位置が現在の月のところにあるかどうかを確認する必要があります。

日差しは10時と11時の間を指しています。
ここでは、日差しは5時半を指しています。

日当たりの良い場所で日時計を手に提げて持つと、一筋の光が環の穴を通して内側の時刻を指していきます。これでおおよその時間が分かります。(上の2枚の写真は、それぞれ午前中と午後、別々で撮影されたものです。)

日時計を使う場合、太陽の光がないと時刻を知ることができません。空が曇っている時や夜の間は使えないのです。暗くなると「時間の外」に放り出されているとも言えますね。

そのため、機械式時計がある程度正確になり、使えるようになった頃から日時計は使われなくなりました。

しかし日時計が使われていた頃の人間は太陽をはじめとする天体をより強く意識していたのではないでしょうか? 人類がいる地球はほかの天体と並んで「宇宙」という大きな物語の一部であること、その当時はより強く認識されていたのかもしれません。
先日公開された『蓮・十二時』(第1回)では、このような歴史背景にも少し触れています。

物語の続きとなる第2回は、8月11日に公開になります! 
楽しみにしていただければ嬉しいです。


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