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猪瀬直樹『さようならと言ってなかった 我が愛 我が罪』感想

猪瀬さんの本を読もうと思ったきっかけ

猪瀬直樹氏といえば元東京都知事として有名だが、作家として活躍されていることをご存じの方も多いだろう。

猪瀬直樹(いのせ なおき)プロフィール
1946年長野県生まれ。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞。2002年6月末、小泉純一郎首相より道路公団民営化委員に任命される。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授などを歴任。2007年6月、東京都副知事に任命される。2012年に東京都知事に就任、2013年12月、辞任。
主著:『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』『道路の権力』『道路の決着』(文春文庫)、『昭和16年夏の敗戦』『天皇の影法師』(中公文庫)、『猪瀬直樹著作集 日本の近代』(全12巻、小学館)。

私は都知事としての実績を評価してたし、飾らないキャラクターも好きだったので、猪瀬さんの本を読んでみたいなと前から思っていた。

そんなある日、猪瀬さんもnote活動をしていることを知った。

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note内の記事で自らの著書を紹介していて、近現代史や天皇制などの著書が多数あることを知り、興味のある分野だったので読んでみることにした。

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図書館で猪瀬さんの本を4冊借りてきたが、今回はその中でも猪瀬さんの人となりが伝わってくる『さようならと言ってなかった 我が愛 我が罪』を紹介したいと思う。

『さようならと言ってなかった 我が愛 我が罪』はどんな本?

”さようならと言ってなかった”相手は、47年間連れ添い、2013年に亡くなったった妻・ゆり子さんのこと。

この作品のテーマは、ゆり子さんへの愛、自身の都知事時代の秘話・・・辞任の原因となった徳州会事件についても言及している。

ーあらすじー
都知事就任、五輪招致に邁進する中、妻は突然の病に倒れ、帰らぬ人となった。
五輪招致成功の秘話、5000万円の真実、妻と過ごした40余年の日々。

猪瀬さんとゆり子さんは大学時代に惹かれ合い、卒業後に駆け落ち同然に結婚。以来、ゆり子さんはずっと夫を支え続けた。

夫婦が二人三脚で過ごしてきた時間と、ゆり子さんの病気が発覚し死を迎える2013年が交錯し、ドラマティックなストーリーにどんどん惹き込まれてゆく。

本の紹介はそのくらいにして、次に「夫婦愛」「五輪招致秘話」「猪瀬直樹の人物像」と3つのテーマに分けて感想を書いていきたいと思う。

夫婦愛

猪瀬さん夫妻は私の親と同世代だが、駆け落ち同然の恋愛結婚というのがまずロマンチックでいいなと思った。(私の両親は見合い結婚なので、あの世代で恋愛結婚というのに憧れる)

ゆり子さんはモデル体型の美人(若い時だけでなく晩年もお美しい方)で、本書を読むと外見だけでなく内面も美しい完璧な女性という印象を受けた。

教師の免許を持っていたことから小学校の教員になり、二人の子どもを育てながら、作家として大成する前の夫を物心両面で支えていたようだ。


「少し、のんびりしたいわ。」と言って55歳で教員の仕事を辞めてからは、作家以外の仕事でも多忙を極める夫のサポートに回った。(2001年、小泉内閣の元、道路公団改革の仕事を頼まれていた頃)

猪瀬さんが都知事に当選した後は、五輪招致活動では夫婦そろって表舞台に出ることもあり、ゆり子夫人の美貌と社交性は東京のイメージアップに大いに貢献したであろう。

そんな妻を猪瀬さんは誇りに思い、深い愛情と感謝の念を持ち続けてきたことが、その文面からじわじわと伝わってくる。


しかし、ゆり子さんを襲った病魔が二人の幸せな時間を止めてしまう。

ここから先については、本書を読んで確認していただきたいと思う。

東京五輪招致秘話

彼の都知事時代のもっとも大きな業績は、やはり東京五輪の招致に成功したことではないだろうか。

実はこの招致活動中の2013年7月、猪瀬さんは妻を亡くしている

最も悲しい出来事を胸のうちに隠し、都知事の任務を遂行したのは本当に大変だっただろう。

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東京五輪が決定したのは、2ケ月後の9月。

本当はこの瞬間を、奥さんに一番に見せたかっただろうなぁ。

その笑顔の裏に、知られざる苦悩が隠されていたとは・・・。

猪瀬さんがそこまで頑張って招致成功に導いた”TOKYO2020”。

新型コロナウィルスのせいで延期になり、今後の予定もグダグダな東京五輪について、彼は今どう思っているのだろうか。

猪瀬直樹の人物像

作家として多数の著書を出している猪瀬さんだが、私小説的なものはこれが初めてだという。

生前の奥様に「わたしのこと、一度も書いてくれたことないじゃない。いつか書いてね。」と言われたらしいが、自分の流儀として私小説は書きたくないと語っていた。

しかし奥様が亡くなった後、編集者から勧められ、妻への供養にもなると思い、夫婦のヒストリーを書こうと決めたそうだ。

そういったエピソードを聞くと、あの時代の男性特有の照れ屋な面はありつつも、ちゃんと素直に愛情を表現できる旦那様なんだなと、猪瀬さんにさらなる好感を持った。


本書では都知事就任から退任までについても赤裸々に語っているが、「アマチュア政治家」と自称している通り、猪瀬さんは野心のない人だ。

都知事に出馬することになったのも、前任の石原慎太郎氏が辞任を表明し「後継は猪瀬さんで充分だと思っている」と担ぎ出されたからだし、辞任の原因になった徳州会事件についても、悪意はなく多忙による注意力の欠陥によるものだったのだというのがわかる。

私は都知事としての猪瀬さんを応援していたし、彼が手腕を発揮するところをもっと見たかった。

しかし、本人が作家業に専念できて幸せだというのならそれもいいだろう。

そんなわけで、私は猪瀬直樹の著書を少しづつ読み進めている・・・。

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