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三島由紀夫『中世に於けるー殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』感想

三島作品との再会

先日、映画「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」を鑑賞して以来、「三島の本を読まなければ」という思いに駆られ、図書館で三島作品を借りて読んでいる今日この頃。

過去に代表作の一つといえる『金閣寺』を読んだがあまり良さがわからず、どちらかといえば大衆向けの『美徳のよろめき』が好きだったり。

三島文学から遠ざかっていた私ですが、人生経験を重ねた今なら多少は理解できるようになっただろう・・・というのは微妙。(笑)

しかし、わからないのを逆手に取り「素人がツッコミを入れる」という手法で、三島文学を楽しんでみたいと思います。(三島ファンの皆様、ごめんなさい。)

今回は三島の短編集より、色んな意味で衝撃的だった『中世に於けるー殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』を取り上げます。

(※ネタバレあり)

『中世に於けるー殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』の感想

もうね、タイトルからして不穏当この上ない。(苦笑)

名前の通り、中世時代の殺人者の独白的手記です。

「美」「殺」「死」をテーマに、V系バンドも真っ青の美麗な文章で綴られています。

まず冒頭からキレッキレなので、ご覧ください!!

□月□日
室町幕府二十五代将軍足利義鳥を殺害。

え、いきなり将軍を殺害!?

ちなみに将軍は第十五代の足利義昭で終わりなので、この将軍は架空の人物となります。

死の直前の将軍は「煙管で阿片をふかしている。」とあったので、気持ちいいまま殺されたのでしょうか!?

「将軍は殺人者を却(かえ)って将軍ではないかと疑う。」という表現がありますが、さてそれはどうかなぁ?

それは殺人者の妄想に過ぎないと思うのですが、かなりおめでたい思考だと思われます。

この将軍殺害の項の、締めの文章が意味不明。

殺人者は知るのである。殺されることによってしか殺人者は完成されぬ、と。そしてこの将軍は殺人者の余裔ではない。

「殺される被害者がいないと、殺人者は存在しない」ってことですかね。

「余裔」を調べると「①子孫。末裔。②末流。末派。」とありました。

それならば、初めから末裔と書いてもらえるとありがたいです。(汗)

「足利義鳥将軍が殺人者の子孫や末裔のわけがなかろう」と思うけど、殺害者は将軍の先祖ということで天下を取りたかったのかな?

やっぱり意味不明でモヤモヤ。

とまぁ、こんな感じで、「□月□日 〇〇を殺害。」の後に、殺害者が罪のない人々を殺めていく様子を、美辞麗句をふんだんに織り交ぜ表現していってます。

「中世」という時代に咲いた、やんごとなき身分の女性、能若衆、遊女など美しい人物が殺害される描写では、白い肌や能衣装、舞などの言葉を用いて華麗に飾られています。

一方、殺害者は乞食や肺癆(はいろう)人と呼ばれる社会的弱者も容赦なく殺害しています。

「肺癆人」の意味
”癆”という漢字を調べると結核と出てきたので、結核患者と思われます。
私も昔の小説を読んで、結核がかつて「労咳」と呼ばれていたのは知ってたので、なんとなく肺結核のことかな?とは思いました。でも、難しい言葉使うの、本当にやめてほしい。(涙)

このような憐れな人たちも、殺害者が死を与えることで美に昇華するといった内容が書かれています。

殺人者の手によって死を迎えた瞬間、どんな人間も美ヘ転換されるとでもいいたげな・・・。

本作中で、一番理解不可能な文章はこの部分でした。

距離とは世にも玄妙なものである。梅の香はあやない闇のなかにひろがる。薫(かおり)こそは距離なのである。しずかな昼を熟れてゆく果実は距離である。なぜなら熟れるとは距離だから。

「なぜなら熟れるとは距離だから。」

・・・まったくわからん!!

わからないこそ気になるし、周りに言いたくなるんですけどね。(笑)

『中世に於けるー殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』の楽しみ方

とはいえ、この作品、私嫌いではないです。

殺人者の日記という主題については共感できませんが、その世界観が私の大好きなV系と同じなので。(笑)

例:Xの「Silent Jealousy」の「立ち去る前に殺して 」など。

「百合や牡丹をえがいた裲襠(うちかけ)」「夕顔」「落日」「緋桜の花」「桔梗の紋様」「森や泉や蝶鳥」「月雪花」「薔薇」「蒔絵」「螺鈿」

以上のような、殺人とは無縁なはずの美しい単語が次から次へと出てきて、豪華絢爛な屏風でも見ているような気分になるような、ならないような・・・。(ならんのかい)

そこには、一読しただけでは理解しきれない不思議な世界が広がっています。

現実からかけ離れた耽美な世界に行きたい方は、是非読んでみてください。

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