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キャトーズ・ジュイエの出会い(フランス恋物語㊿)

Le 14 Juillet

7月14日は、フランス共和国の成立を祝う日 (Fête nationale) である。

【Fête nationale française】(フランス国民祭・国祭)
「Le Quatorze Juillet」または「Le 14 Juillet」と表記し、あるいは冠詞を外して単に「14 Juillet」と呼ぶ。
(映画 『Quatorze Juillet 』の邦題『巴里祭』がヒットしたことから、日本ではパリ祭と呼ばれることもある)
1789年同日に発生しフランス革命の発端となったバスチーユ監獄襲撃および、この事件の一周年を記念して翌1790年におこなわれた全国連盟祭が起源となっている。

フランスの中でも大きなお祭りと聞いて、この日は親友のエリカちゃんと行く約束をしていた。

朝は軍事パレードを見て夜は見晴らしのいいところで花火観覧の予定だ。

初めての”キャトーズ・ジュイエ”を、私はとても楽しみにしていた。

Le défilé militaire

10時開始の軍事パレードを見るために、8:15にエリカちゃんとシャゼリゼ通りのGeorge Ⅴ(ジョルジュ・サンク)駅で待ち合わせした。 

早めに来たので、前から2列目を確保することに成功した。

私が軍事パレードを見るのは、5月7日のオルレアンのジャンヌ・ダルク祭り以来だ。


目の前のシャンセリセ通りでは、制服を着た兵隊たちが既に並んでスタンバイしている。

しかし、観客の前で食事をするわ、タバコを吸うわ、帽子を脱いでお喋りしてるわ、信じられないくらいリラックスモード全開だ。

「あの人たち、思いっきり休憩してるね。日本ならありえないよね。」

「まぁ、カルチャーディファレンスを観察するのも、これまた一興なんじゃない?」

私たちは、ここでしかみられない珍しい風景にツッコミを入れる。

しかも、彼らは、マスコミの車やカメラが回る時だけビシッと整列して、そのメリハリぶりが見ていてとても面白い。

ユルいフランスの国民性いいなぁ、とラテン気質の私は思った。


パレード開始までまだまだ時間があるので、私は先日あったカメラマン・ウエノさんとの顛末をエリカちゃんに話すことにした。

「エリカちゃんの知り合いのカメラマンのウエノさん、『一緒にカラオケに行く』って、私メールで報告したよね?」

「そうだよ。ビックリしたよ~。 それでどうなったの?」

私は一連の流れをいっきに話した。

「カラオケの後焼肉に行ったんだけど、そこで泥酔しちゃって、ウエノさんちに泊まったの。」

「え~!!それでそれで!?」

エリカちゃんは思わず大きな声を上げた。

「何もなかったよ。ウエノさんは『泥酔した女の子を襲う趣味はない』って。」

・・・心の中で、「寝ぼけてキスはしたけど」と付け加えておいた。

「そっか・・・。

さすがウエノさん、大人の男だね。

レイコちゃんに何もなくて良かったよ。

ウエノさんはモテそうだけど、レイコちゃんは今フランス人にしか興味がないし、ウエノさんと会っても何も問題ないと思ってたんだけど・・。」

エリカちゃんは、二人が出会うきっかけを作ったことに少し責任を感じているようだった。

「気にしなくて大丈夫だよ。

ウエノさんとのカラオケ楽しかったし、お酒を飲み過ぎた私が悪いんだから。

もうウエノさんと会うことはないから、心配しないで。」

そう・・・私はもうこれ以上、彼女に心配をかけるわけにはいかない。


10時ピッタリに凱旋門の方から大観声が聞こえ、中世の格好をした騎馬隊が颯爽と登場した。

「もしかして大統領とか出てくるのかな?」なんて言ってたら、騎馬隊に囲まれた形で軍用車に乗った本物の大統領が登場した。

「わ~、大統領とか本当に見れちゃうんだね。スゴイ!!」

思いがけないVIPの登場に、私たちは歓声を上げた。

その後様々な軍用車や消防車、頭上には軍用機も飛んで・・・という、日本ではまず見ることのないパレードが繰り広げられる。

しかし、超時間待って疲れたのと、ずっと見ていたらどの軍用車も同じに見えてきたので、最後まで見ずに、私たちは一旦それぞれの家に帰って休憩することにした。

Le feu d'artifice

再びエリカちゃんと待ち合わせしたのは、22時にモンマルトルのChateau rouge(シャトー・ルージュ)駅。

サクレクール寺院の前に小高い丘があり、そこに座っている人がたくさんいたので、私たちもそこで花火を見ることにした。

ここから眺めるパリの夜景はとても綺麗で、花火観覧にも期待が膨らむ。


周辺にいるカップルを見てふと思い出した私は、エリカちゃんに聞いてみた。

「そういえば、エリカちゃんは今日彼氏とデートしなくていいの?」

エリカちゃんは唇を尖らせて、ちょっと不服そうに言った。

「だってあの人、警察官だもん。

今日はかきいれ時だから、一緒に観に行くなんて絶対ないよ。」

「あ、そっか。忘れてた。」

そういえば、エリカちゃんは前に彼氏の職業を話してたっけ。

・・・ところで、警察官なんて、どうやって出会うんだろう。

私は、その疑問をエリカちゃんにぶつけてみた。

でも、彼女は「友達の紹介」とだけ言って、それ以上は話そうとしない。

あまり突っ込まれたくないのかな・・・と思って、私はそれ以上聞かなかった。


予定の時間を過ぎても、花火は上がりそうにない。

暇なので周りを観察していると、近くからラルクの「READY STEADY GO」を歌っている声が聞こえた。

「え、ラルク!?フランスの地でまさか・・・。」

確か、2008年にラルクのパリ公演があったが、まさかここまでパリジャンに浸透しているとは・・・。

声のする方を見ると、三人組のフランス人の男の子たちが、アコギに合わせて歌っているのが見えた。

ラルクファンの私は嬉しくて、思わずその三人組に声をかけた。

「Excuse-moi, C'est "READY STEADY GO" de L'Aec~en~Ciel, n'est-ce pas?」
(すみません。それって、ラルク・アン・シエルの『READY STEADY GO』ですよね?)

突然話しかけて彼らは驚いたようだが、すぐに上機嫌に戻りその質問に答えた。

「そうだよ。アニメ『鋼の錬金術師』のテーマ曲で知ったんだ。」

ハガレン・・・やはり、フランスへのアニメの影響はすごい。


私たちが話し込んでいると、エリカちゃんもやって来て、彼らに尋ねた。

「もう10時過ぎてるけど、毎年時間通りに始まらないの?

花火が上がるのはどの方向?」

彼らが「知らない」と答えた瞬間、花火の上がる音が聞こえた。

しかし、この場所はハズレだったようで、肝心の花火は木に隠れてよく見えなかった・・・。


花火が終わった後も、少年たちと日本の音楽の話で盛り上がった。

私が教えている日本語学校でも「宇多田ヒカルや浜崎あゆみが好き」と言っている子どもたちがいたが、J-POPは予想以上にフランスの若者に知られているようだ。

しかし、ずっと話しているわけにもいかないので、私たちは連絡先交換をして別れた。


帰り道、エリカちゃんは呆れたように言った。

「レイコちゃん、あんな若い子たちと連絡先交換しても仕方ないんじゃない? 

まだ19歳って言ってたじゃん。

20歳のラファエルと別れたこと、忘れたの?」

勘違いされたくなくて、私は反論した。

「違うよ。私はフランスの若者にJーPOPを伝えたかったの。

さすがに彼らは子どもにしか見えなかったし、恋愛対象には入らないよ。」

エリカちゃんは安心したように言った。

「だったら、いいけど。

レイコちゃんには年相応の彼氏を見付けて、そろそろ落ち着いてもらいたいよ・・・。」

色々恋愛相談に乗ってくれているエリカちゃんは、本気で私のことを心配してくれている。

その気持ちは本当に嬉しかった。

「それは私自身が一番思ってるよ・・・。」

泣きそうな声で私は言った。


そう、「そろそろ落ち着きたい」と本気で私は思っていた。

私のワーホリの期限は今年の12月31日。

クリスマスのイルミネーションを見たら、日本に帰国するつもりでいた。

未来のパートナーとなるかもしれないフランス人と”確固たる関係”を築くためには、残された時間もだんだん少なくなってきている・・・。


しかし、彼らとの出会いが”哀しい出来事を引き起こすきっかけ”になってしまうのである・・・。


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