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不安だらけの恋(フランス恋物語㊲)

2日分の約束

アランとの初デートで付き合うようになった日、彼は「土曜と来週月曜に会おう」と言ってくれた。

事実、土曜は会いに来てくれて、サン・マルタン運河を一緒に散歩した。

でも、私はあまりにもトントン拍子で付き合えたことと、彼の友人ジョゼフとナンパで出会ったこと、しかもアランに「ジョゼフとのキスを見られている」という負い目もあり、まだアランの愛を信じられずにいた。


そして、2回目の約束の日の月曜。

アランから「今日は仕事が忙しいから会えなくなった。代わりに明日会いに行くよ。」というメールが来た。

それだけで私は落ち込み、「明日もまたダメって言われたらどうしよう。」とすごく不安になった。

両想いのはずの恋愛で、こんなに不安になるのは久しぶりだ。

自分がどんどん重い女になってゆくのではないか・・・そう思うとゾッとした。

3回目のデート

翌日、代替日の火曜日の夜。

私はソワソワしながら、アランからのメールを待った。

すると、19時半頃に「今仕事が終わったから、君の家まで迎えに行くよ。」と短いメールが届いた。

「家まで迎えに来てくれるっていうから、もしかしたら外で食事した後、流れでうちに来るかも・・・」

私は念のため、急いで部屋の掃除をした。

前回のデートからの数日の間に、「一応3回目のデートだし、もし彼が望むのなら部屋に上げてもいいかな・・・」ぐらいの心積もりをしていたのだ。

しかし、実際会ってみると近くのカフェに行っただけで、「最近あんまり寝てなくてすごく疲れてるから、家帰ってご飯食べて寝ないと。」と言って、1時間ほどで帰って行った。

わずかな空き時間を見付けて会いに来て、付き合ったばかりの彼女の体を求めて来ないのは、喜んでいいものなのか、どうなのか・・・!?

私はますますわからなくなった。


アランから「今週金曜日までは仕事が忙しいから会えない。でも、週末土曜日に友達とフェスに行くからレイコも一緒に行かない?」とメールが来て、次に会うのは土曜日に決まった。

フェスって夜遅くに終わりそうだし、今度こそお泊りになるのかな・・・!?

それが正しいのか正しくないのか、私はわからずにいた。

エリカ

SNSで5月に知り合ったパリ在住の日本人の女友達の中に、エリカちゃんという子がいた。

たまたまなのだが、その名の通り”沢尻エリカ”に似た超絶美女だ。

彼女は27歳のパティシエで、遠距離恋愛中だったフランス人の彼氏を追ってワーホリビザで渡仏したという。

フランス語も英語もペラペラで、とても頼りにある憧れの存在だ。

彼女とは近所だったこともあり、よく会っては恋愛相談に乗ってもらっていた。

Parc de Bagatelle

アランと会った2日後の木曜日。

私とエリカちゃんは、パリ16区のブローニュの森内にあるバガテル公園に来ていた。

今日は天気もよく暑いくらいで、寒がりの私にはちょうどいいくらいの気候だ。

このバガテル公園はバラ園が有名で、5・6月頃が見頃と聞いていたので、私たちはそれが目当てでやって来たのだった。

私は日本にいた時もバラ園に通っていたぐらい好きだったので、渡仏後初のバラ鑑賞をすごく楽しみにしてた。

【バガテル公園のバラ園】
このバラ園は、1世紀以上続く歴史と伝統を誇るバガテル新品種国際バラコンクールの会場としても世界的に知られている場所。
バラ園のあるバガテル公園(Parc de Bagatelle)は、元々ルイ16世の弟アルトワ伯爵によって作られた18世紀に典型的なアングロ=シノワ様式の庭園で、フランス革命などの紆余曲折を経て、現在はパリ市が管理運営している。

バガテル公園内に足を踏み入れると、3羽の孔雀が放し飼いになっているのにまず驚いた。

「え、ここ動物もいるの!? しかも放し飼いってすごいね!!」


予想外の素敵なお出迎えに、私たちはいきなりテンションが上がる。

バラ園は満開とまではいかなかったが、色んな種類のバラが咲いていて、私たちは思い思いに写真を撮った。 

私は、バラを背景にエリカちゃんの写真も撮ってあげた。

パティシエの仕事も彼氏との仲も順調満帆なエリカちゃんは、元々美しいのにさらに輝いて見える。

「どうしたら私もエリカちゃんみたいになれるんだろう!?」

彼女は私にとって、”理想のパリ生活を送る日本人女性”の代表だった。

Girls talk

あやめ園コーナーもあったのでこちらも一通り回った後、喉が渇いた私たちは公園内にあるカフェで休憩することにした。

私は最近マイブームのペリエを飲みながら、ここぞとばかりにエリカちゃんに恋愛相談してみた。

「最近付き合い始めたアランの話なんだけど、聞いてくれる? 私を大事にしてくれてるのはわかるんだけど、どうしても不安な気持ちが拭えないの。どうしたらいい?」

お互いに開けっぴろげなトークをする仲なので、エリカちゃんには、「ジョゼフにナンパで出会ったこと、シャンティイ・ドライブ事件、その後私がジョゼフの友人であるアランと付き合い始めた」という経緯まで詳細に話してある。


今日、私が特に聞きたかったことが、フランス人の愛の言葉だ。

『フランス人男性って、”Je t’aime bien”(=I like you)は普通に言うけど、”Je t’aime”(=I love you)は付き合い始めはなかなか言わない』って言うじゃない?

それはわかってるんだけど、アランから愛情を表す言葉が全然なくてすごく不安なの。

エリカちゃんは、いつくらいから彼氏に”Je t’aime”って言ってもらえるようになった?」

エリカちゃんは空を見つめて、昔を思い出すように言った。

「う~ん、もう彼とは付き合って2年だから昔のことは忘れちゃったけど、あんまり言われなかった気がするな。

フランス人でもよく言うタイプと、あまり言わないタイプがあるみたいだから、一概には何とも言えないけど・・・。

でも、”Je t'aime”ってお互いのことをもっとよく知ってから言う言葉だと、私は思うよ。

すぐに言われるより、少し時間が経ってから言われた時の方が嬉しさも倍増するし、今はたくさんアランと会って色々観察してみたらどうかな?

エリカちゃんの言葉を聞いて、私は少し安心した。

「そっか・・・。わかった。ありがとう。

あと、私たちはまだ体の関係はないから、本当に付き合ってるかどうかすら怪しく思う時もあるんだけど、これは進めた方がいいのかどうか・・・。」

「そうだね・・・。何て言うか、フランス人って”一緒にいる=彼女”みたいなところがあるからでもアランの友人が遊び人・ジョゼフだから、やっぱり警戒しちゃうよね。良い人ならいいんだけど。」

「実は今週末の土曜日、アランとその友人たちと、フェスに行く約束をしているの。夜遅くまで一緒にいそうなんだけど、お泊りはアリかナシか・・・どっちがいいと思う?」

そう尋ねると、エリカちゃんは私の目をまっすぐ見つめてこう言った。

不安な気持ちのままなら、やめておいた方がいいと思うよ。私はレイコちゃんが泣くところを見たくない。」

その表情は真剣そのもので、すごく説得力のあるものだった。

私は、エリカ様の意見を取り入れることにした。

・・・果たして、私の不安な気持ちが払拭される日はくるのだろうか。

理想の風景

ガールズトークも一段落したところで、私たちはバラ園を出てバカテル公園内の敷地内をのんびり散策した

 公園内を見渡せば、「初夏の午後を自然の中で満喫するパリジャンたち」の姿がそこかしこに見える。

芝生に寝転んで本を読んでる”いかにも欧米人の公園の過ごし方”スタイル」の人々。

年を重ねてもバッチリファッション&メイクなマダムと、その妻に寄りそう夫。

放し飼いにされている孔雀に恐る恐る近付こうとする子どもと、それを微笑ましく近くで見ている両親・・・。


今、ここで仲のいい友人とのんびり公園散策している私だって十分幸せなはずだ。

最近は、ずっと気になっていた人とお付き合いを始めることもできた。

それなのに、このなんとも言えない寂しさ、虚無感は一体何なのだろう!?

私は、今週末の土曜日が「楽しみ半分・怖さ半分」に思えてきた。


・・・そして、そのイヤな予感は見事に的中してしまうのである。


ーフランス恋物語㊳に続くー

 

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