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ここがヘンだよ日本人!リアル体験(フランス恋物語100)

Philippe

11月15日に咲紀ちゃんちに遊びに行った時、彼女の夫の友人・フィリップと出会った

帰国して半月の私は、久しぶりにネイティブのフランス人とフランス語で話せたことが嬉しかった。


夕食の後、彼は「良かったら、また会って”échange”しない?」と声をかけてきた。

”échange”(エシャンジュ):外国人同士がお互いに言語を教え合うこと。

フランス語会話力をキープしたい私は、喜んで承諾した。

フィリップは若かりし頃のリュックベッソン似で、私にとっては恋愛対象ではなく、ネイティブのフランス語話者の友人に過ぎなかった。

彼も私に対して、きっと同じ気持ちだと思っていたのだが・・・。

échange

12月16日、水曜日。

不動産賃貸会社で働いている私は水曜が休みなので、フィリップとのエシャンジュは毎週水曜日に設定してもらった。

彼はフリーランスでITの仕事をしているらしく、休みはいつでもいいらしい。

エシャンジュをするカフェの場所は、私が行きやすい新宿、彼が行きやすい横浜、お互いの家の中間地点である品川など、毎回平等になるように振り分けていた。

この日は新宿のカフェで、14時頃に私たちは会った。


「フィリップ、それは文法的におかしいよ。」

「え・・・じゃあ、ここはどう直したらいいの?」

私たちのエシャンジュのやり方は、「日本語1時間の後、フランス語1時間」という風に時間を区切り自由に雑談をして、ネイティブ側が何か気付くと、その都度間違いを指摘したり、アドバイスをするというものだった。

フィリップは、日本語を問題なく話せるしフランス語の教え方もすごく上手い。

まさにエシャンジュ友達として、申し分のない人物だった。

また、彼の誠実で温和な性格も好感を持てた。

ただ、真面目で堅物すぎるところと、何といっても顔がタイプではないので、何度か会ったが友達以上に感じることはなかった。

Noël

18時半頃、「そろそろ次のエシャンジュの日時を決めよう」という話になり、私は来週の予定を言った。

「来週水曜の12月23日って天皇誕生日で祝日だけど、私の働いている店は休みじゃないから、出勤なんだよね。

お客さんも多そうだから、残業になりそうだし。

だから、次のエシャンジュは12月22日の火曜日にお願いしたいんだけど、どうかな?」

すると、彼は申し訳なさそうに答えた。

「22日は一日予定があるからダメだね。

代わりに、24日の木曜はどう?

この日なら一日中空いてるから、何時でもいいよ。」

・・・24日って、クリスマスイヴじゃん。

この人フランス人なのに、何も予定がないの?

フランス人ってクリスマスは家族で過ごすイメージだけど、彼みたいに家族と遠く離れてる場合、彼女とか友達とパーティーしないんだろうか?

「12月24日ってクリスマスイヴだよ。

私はこの日、彼氏と一緒に過ごすの。

フィリップはフランス人なのに、誰かと一緒にパーティーしてクリスマスを祝ったりしないの?」

その発言に、フィリップは呆れたように苦笑した。

「僕は来日して3年になるけど、日本人のキリスト教の風習に対する捉え方はおかしいなとずっと思ってたんだ。

なんでキリスト教徒でもないのに、信仰していないキリストの誕生日を祝うのか・・・全く理解できない。

僕はフランス人だけど無宗教だから、12月24日と25日はいつも通り普通に過ごすよ。」

「!!!!!!!!!!」

Tu as raison!!

・・・私は、フィリップの正論すぎる正論に、グウの音も出なかった。

私は、トゥールでホームスティしていた時、ホストファミリーの老夫婦がクリスチャンで、毎週日曜日に足繁く教会に通っていたのを思い出した。

確かに、彼らのような熱心なクリスチャンの姿を間近に見ていると、「西洋の異国情緒に酔い、マスコミの策略に踊らされている日本人は滑稽だ」と思った。

しかし、帰国してみるとそんな違和感はすっかり忘れ、智哉くんと過ごすクリスマスを楽しみにしている”ここがヘンだよ日本人”状態の自分がいる。

・・・まぁいい。私は今、日本に住む日本人なのだから。

「うん。そうだね。フィリップの言う通りだよ。

日本人のクリスマスに対する認識は確かにおかしい。

でも、とにかく私は、12月24日は彼氏と約束しているから会えないの。」


そして全く興味はないが、ついでに聞いてみた。

「ところで、フィリップは彼女はいないの?」

フィリップは少し寂しそうに言った。

「いないよ。

半年前まで日本人の彼女がいたけど、浮気されて別れた。

『あなたは面白みがない。』だって。

仕方がないよね。本当のことだから。」

・・・その通りすぎて、何て返そうか一瞬詰まった。

「いやいや!!人間、面白ければいいってもんでもないよ。

私は、面白い人より、真面目で優しい人の方が好きだよ。」

なんとか彼をフォローする言葉を捻りだした。

「本当に?」

彼の目が輝き、私の両手を握った。

「うんうん、本当本当。

たまたまその彼女と相性が悪かっただけだよ。

きっと、フィリップの良さを解ってくれる人が、どこかにいるはずだって・・・。」

この時、自分の思いつき発言で、彼の中の何かを変えてしまったことを、私は全く気付いていなかった。

香織

フィリップとのエシャンジュの後、10月のマルタ留学で一緒だった香織さんと会う約束をしていた。

香織さんはバツイチのアラフォーで、自由にイキイキと生きている姿がカッコいい、私の憧れの人だ。

私は10月25日までマルタにいたが、彼女は11月末にマルタから日本に帰国していた。

今夜会う場所は、彼女ご指名の焼き鳥が美味しい居酒屋だった。

香織さんチョイスだけあって女性ウケもいいオシャレな内装で、入店の瞬間から気分が上がる。

「久しぶり!!」

香織さんは相変わらず笑顔が眩しくて、会っただけで私も元気をもらった。


「乾杯!!」

私たちは祝杯をあげ、二人の無事帰国と再会を喜び合った。

「あ~、やっぱり日本の焼き鳥は美味しいね。

何の我慢もせず好きな物を心置きなく食べられると、『日本に帰ってきて良かった~!!』って実感する。」

香織さんはビールを飲みながら、和食の感動をしみじみと語っている。

「その気持ち、すごくわかります!!

私パリで『おくりびと』を見たんですけど、映画の中で白子を食べるシーンがあって、無性に白子が食べたくなって困ったことあります。」

「白子って・・・玲子ちゃんまたマニアックだね!!」

私の経験談に、香織さんは爆笑していた。

Girls talk

二人は、初めはマルタ留学の思い出話や仲間の噂をしていたが、次第に話題はコイバナや結婚の話に移っていった。

「ねぇ、玲子ちゃんはまた再婚したいって思う?」

私は思ってることを素直に言った。

「それがわからないんですよね。

好きな人とは一緒にいたいけど、もしイヤになったら別れる自由も残しておきたい・・・。

あと、二度と名字は変えたくない

でも、子どもは欲しいから結婚しなきゃダメなのかな~?という感じ。」

すると、彼女はこんな教訓を教えてくれた。

「”子どもが欲しいから”って結婚するのは危険だよ。

私と元夫はどちらにも問題がなかったけど、子どもができないことが原因で離婚したの。

長年有名な病院にかかってたけど、お医者様もなんで授かれないのか不思議がってたくらい。

彼は子どもを諦めきれなくて、私と離婚後、若い20代の子と再婚したって、人づてに聞いたわ。

その後どうなったのかは知らないけど・・・。

そんな例もあるから、子どもよりはまず”その人とずっと一緒にいたいかどうか”で結婚した方がいいよ。」

・・・私は今まで周りにアラフォー女性の友達がいなかったので、彼女のアドバイスはまさに”目から鱗”だった。

「確かに・・・こればっかりは神様じゃないとわからないですもんね。

わかりました!!参考にします。」

La vie

そう言った後、私は思いきって素朴な疑問を尋ねてみた。

「香織さん、私ね・・・。

香織さんのこと、心から人生を楽しんでて素敵だなって・・・『香織さんみたいなアラフォーになりたいな』って憧れてるんです。

・・・香織さんは今、幸せですか?」

彼女は私の唐突な質問に驚いたようだが、すぐに屈託のない笑顔で笑った。

「うん。今が一番幸せよ。

好きな彼氏と一緒に暮らして、行きたい時に行きたい場所に行けて・・・。

私ね、絵の仕事してるし、離婚した時にたくさん慰謝料もらったから、自分一人の生活に困ることはないの。

来年の年明けには、絵の留学にフィレンツェに行こうと思ってるんだ。」

フィレンツェといえば、10月に旅行した美しい街を思い出す。

フィレンツェで絵の修行をする香織さんを想像して、すごく似合うなと思った。

「素敵ですね!!確かにそんな40代の生き方もいいなって思います。」

香織さんは昔を思い出すように、遠い目をして言った。

「結婚してた時はすごく悩んだけど、今は子どもがいなくて良かったと心から思ってるの。

夫はイヤになったら別れられるけど、子どもは成人するまで責任持って面倒見なきゃいけないでしょ?」

・・・その言葉は、私の胸に深く刺さった。

「その通りですね。」

彼女は達観したように、清々しい顔で言った。

「私みたいな自由人は基本一人でいて、気の合う恋人がいたら一緒に暮らす・・・それくらいがちょうどいいのよ。」

確かに、彼女のように強い女性なら、そういう生き方もアリなのかもしれない。

「香織さんなら、フィレンツェでもモテそうですよ。

あっちで好きな人できたらどうします?」

香織さんは、いたずらっぽく笑って言った。

「もう、それは玲子ちゃんでしょ?一緒にしないでよ。」

私たちは顔を見合わせて笑った。

un email de Michaël

自宅に帰り、メールチェックをしていると、ミカエルからメールが届いていた。

相変わらず日仏併記で、日本語の文は全文平仮名で小学一年生の文章のようだ。

その文からは、彼の来日と日本語習得への強い意気込みが感じられる・・・。

7月に初めて会った時から私をずっと好きでいてくれる彼は、離れた今も愛の言葉を伝え続けていた。


片や私の方はというと、元カレ・智哉くんと復縁してしまっている。

「まぁ、ミカエルが来日するのは来年以降だし、そもそもワーキングホリデービザが取れなきゃ来日すら無理だし・・・。

とりあえず、ミカエルが来るって決まってから、その先のことを考えればいいよね。」


私は、従来の可愛らしさに加え、最近頼り甲斐もプラスされた居心地のよすぎる恋人・智哉くんを手放せないでいた。

しかも彼は、「もうすぐ出張生活も終わって東京にずっといられる。」と言っている。

私はミカエルには悪いなと思いつつ、智哉くんとのラブラブな毎日を思い描き、幸せな気持ちになった。


しかし、彼との蜜月期間は思ったよりもあっけないものだったのである・・・。


ーフランス恋物語101に続くー

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