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短編小説

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【短編小説】マダム

【短編小説】マダム

時給千円、九時から十八時まで、
パチンコ台を組み立てるアルバイト。

正しくゆっくり動く、とても長いベルトコンベアに流される透明色の大きな機械のような物を、正しくゆっくりと作り上げていく仕事。
一人ひとり役割は違って、アース線をフックに引っ掛ける人、穴にネジを入れる人、天井から吊るされた機械でネジを締める人、カゴから部品を一つ取り出して機械にはめ込む人、等がいた。多分四十人ほど。
各々のそれに徹す

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【短編小説】Cats and Dogs

【短編小説】Cats and Dogs

猫と犬が降る、というホストマザーの発した意味不明な言葉に思わず「猫と犬が降る…」とおうむ返しをした。2年前、ホームステイをしていたアメリカでのことだった。あの日見た大雨を今でも時々思い出す。日本語で言うところの、バケツをひっくり返したような大雨を意味するらしい。───寧ろバスタブをひっくり返しても足りないと思ったが。
とにかく、あの日はそんな大雨だった。

夜、ホストマザーはスーパーマーケットまで

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【短編小説】お姫様の鏡

【短編小説】お姫様の鏡

ガラスの器に移したヨーグルトに、砂糖をスプーン山盛り二杯分も加えてしまってから手を止めた。

「ヨーグルトにこのくらいたっぷり砂糖を加えるだろ」

「で、溶けるまでひたすら混ぜる」

久しく聞いていない声が蘇る。

目の前にマーマレードの瓶を置いたにも関わらず、あたしが器に入れたのは大量の砂糖である。
いつも、晴人のヨーグルトを作ってから自分の方にマーマレードを加えていた。

だからだ。もう一人分

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