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短編小説

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#日常

【短編小説】マダム

【短編小説】マダム

時給千円、九時から十八時まで、
パチンコ台を組み立てるアルバイト。

正しくゆっくり動く、とても長いベルトコンベアに流される透明色の大きな機械のような物を、正しくゆっくりと作り上げていく仕事。
一人ひとり役割は違って、アース線をフックに引っ掛ける人、穴にネジを入れる人、天井から吊るされた機械でネジを締める人、カゴから部品を一つ取り出して機械にはめ込む人、等がいた。多分四十人ほど。
各々のそれに徹す

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【短編小説】温かいガトー

【短編小説】温かいガトー

なんか、食べたくない?

と、ミオが唐突に言うものだから、私はほぼ反射的に良いね、と答えた。隣に横たわるミオ越しに見るカーテンから、僅かに漏れる光が眩しい。良いね、と勝手に答えた起きたての脳みそで考える。

あたたかいガトー

翠(みどり)が一番に思い浮かべたのはガトーショコラでもシェル型で焼かれたマドレーヌでもなく、ダックワーズだった。 大学でフランス語を専攻していたミオとの日常会話には聞

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【短編小説】冷たい人形

【短編小説】冷たい人形

「お願い、ドアは閉めて」

彼女がこれを言うのは多分100回目だし、僕がほんの数センチだけ残して寝室のドアを閉めるのも多分100回目だ。怖がりな彼女は隙間があると落ち着かないのだと言う。理由は誰かが簡単に入って来れそう、というものだ。実際寝室のドアに鍵はついていないのだから、少しくらい開いていても 誰 か が入って来るとしても大した違いはないと僕は思う。けれどもあの数センチを埋めるだけで彼女が安心

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