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ああ、またミステリーにやられてしまった 麻倉玲一は信頼できない語り手

ミステリー。
読んでいる最中は勿論だが、本を閉じた後も「あれはこういうことなのでは」「実はあれは嘘なのではないか」と、ぐるぐる考える。

読み進めればいずれ真実が紐解かれる(紐解かれないものもあるが)。
大抵は後半にどんでん返しや「そういうことだったのか!」と驚かされる。

今回読んだ本は、2回ほど「!!」となった。
「!!」がどのような種類の驚きなのかは、是非読んでご自身で体感してもらいたい。

麻倉玲一は信頼できない語り手 太田忠司

書かれていることを、本当に信用して良いのか?

死刑が廃止された日本。主人公、ライターである熊沢克也は、死刑囚の告白本を執筆するため、ある離島へと向かう。
日本最後の死刑囚・麻倉玲一は、「人の命をジャッジする」と嘯く。彼から語られる卑劣な殺人事件の数々に、主人公は嫌悪感を抱いていく。そして、ある事件が起こりーー…


ミステリーはあまり読まない、と過去に書いている通り、自分では進んで選ぶジャンルではなかった…
のだが、最近ちょっとはまってきてしまったかもしれない。

この本を読んで、ミステリーの楽しみ方が分かったような気がする。
書かれていることをそのまま信じて良いのだろうか、と、書かれていることすら疑う楽しさ。これはミステリーならではの面白さだろう。

この本は、タイトルから「疑え」と言っているようなものだ。語り手である麻倉は連続殺人犯である、確かに信頼できない。
だが、どこからどこまでが真実なのだろう?
なぜ、麻倉玲一は面識のないライター(主人公)を名指ししたのだろう?

最後の最後まで読んで、話の途中に真実が散りばめられていたことに気付く。謎を解くヒントは確かに存在していた。
だが、読んでいる最中はその真実の断片に気付くことができなかった。
私自身も主人公と同じ目線に立ってしまっていたからだろう。麻倉玲一に抱く嫌悪感によって、主人公と同一化してしまったのかもしれない。

真実はちゃんと明かされるのだが、最後の最後でゾッとしてしまった。
そう。
麻倉玲一は「信頼できない」語り手なのだ。


何が真実で何が嘘か、考えて疑っているうちに、書き手の罠に嵌ってしまう。しかし読んでいる最中は罠にかかっていることすら気付けない。
最後の最後まで私は主人公と共に、麻倉玲一に振り回されてしまった。

最後の真実を一緒に考えてみて欲しい。
私は主人公同様、その真実を読み解くことができていないから。


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