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【1000本ノック】tokyo style【3冊目】

筑摩書房で「ちくま1000本ノック」企画として紹介された本を、
図書館にある本限定で読んでみる。

3冊目はこちら。

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都築響一 TOKYO STYLE

本書は1993年に分厚いハードカバーの写真集(12,000円)として、京都書院より出版された。3年後の1996年に文庫化されるが、その3年後、京都書院は倒産してしまう。
そして2003年、ちくま文庫版として再度文庫化された。

ものすごい厚み、ものすごいボリューム、ものすごい熱量

1991年〜1993年の東京の部屋ーー家、住居、寝床、居場所とも言えるーーが詰め込まれている。
隙間なく建てられた都心の建物たちそのもの、とにかく圧倒される。
写真の量だけではない、その熱量にだ。
これでも、初版のハードカバー版よりも写真・文章(写真にちょっとしたエピソードが添えられている)共に削って減らしているというから驚きだ。

写真集なので読書の合間、気軽にパラパラ見られる箸休め的なものになるかなと思って借りたのだが、とんでもない。
この写真集はドキュメンタリー映画、ノンフィクション小説、それら以上に生々しい物語が詰まっている。

この写真集は「見る」ものではない。
「読む」ものだ

人それぞれが持つ、内面のカオス

1991年〜1993年に撮影したものということで、平成の初期に当たる。
取り上げられている「部屋」の主は老若男女様々だ。ちょっと綺麗な部屋から、家庭感が感じられるもの、家庭感というよりは生活感が溢れているもの、生活感というよりは生きる全てが丸出しになっているもの。
どれにも共通して、そこで人が生きて、生活しているという熱が感じられる。そこに住人は写り込んでいないのに、住人の熱量を感じるのだ。

部屋のどの辺で飲食して、寝ているのかがなんとなく分かる。
使われていなそうなキッチンからは、住人の生活スタイルが垣間見える。
若い学生の部屋は乱雑で、まだ子供っぽさがある。
同じく乱雑でも社会人の部屋は、空間に満ちているモノも空気も学生らとは異なる。

物は少ないのに散らかって見える部屋、整頓はされているのに物が溢れていて綺麗には見えない部屋。
昔の少女漫画に出てきそうな部屋。
学生寮は、どんな学部の子たちが集まっているのかが一目でわかる。
趣味のレコードをアート作品のように壁に貼っている人、段ボールに立ててしまう人、部屋の彼方此方に散乱している人。
本は積読派の人もいるし、本棚に背の順・ジャンル別で並べている人もいるし、かつては規律を持って並べていたのに途中から仕舞い切れなくなりとにかく詰め込んだ結果棚自体が壊れそうになっている人もいる。

どんなに乱雑な部屋にも何かしらルールのような物が見え、ただ「汚い」という部屋はひとつもないから不思議だ。
そして整頓されている部屋であっても、「綺麗」「おしゃれ」という言葉では表現できない、何かが漂っている。

そこで生きている人々の熱量と、個性が凝縮された空間。どんな部屋にもカオスが感じられる。どれも異なる種類のカオス。それは人間の内面の現れないのかもしれない。

個性の熱量はどこへ消えた?

1990年代から、30年が経った。
2020年代の人々の家は、果たしてどうだろう。

インスタグラムには、白基調や色数を抑えたナチュラル配色の綺麗な部屋、掃除の行き届いた家や部屋の画像にいいねが集まる。
いいねの多い部屋の写真は、なんとなく似ているものが多い気がする。

もちろん、アート作品のように並べ置かれたレコードや、重みで撓んでしまった本棚はそこにはない。

ミニマリストなるものが登場し、かくいう私もミニマリストの端くれを名乗れるかな?という程度には、物の少ない生活を送っている。
自分自身、生活感があまり感じられないような雰囲気が好きだし、そんな部屋にしたいから本棚もCDラックも部屋には置かず、趣味の物も含め全てウォークインクローゼットの中に仕舞っている。

この部屋、ミニマリストたちの部屋に、住人の熱量を感じられるものはあるのだろうか。

そもそもそんな熱量が鬱陶しくてミニマリストになったのかもしれない。


1990年代、私は子供だった。
そういえば学校で、やたら「個性」という言葉を聞いた気がする。
個性の確立、個性を伸ばす、個性の尊重。

その人自身にしかない何か、とは何なのだろう。

別に部屋が綺麗だから個性がないだとか、そんなことを言いたい訳ではない。

ただ、この写真集を見終わった後、好きな物や憧れを詰め込んだ子供の頃の自分の部屋を思い出して、ちょっと寂しい気持ちになった。

もう今はどこにもないであろう、この写真集の中の部屋に溢れるカオスな「個性」が、懐かしいものに感じられる。


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