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毎週ショートショートnote 2023

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たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品の2023年分まとめです。 3月第2週から、投稿皆勤でした。 🤗 毎週、ほとんと不条理と言えるお題と格闘しながら…
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#短編小説

【ショートショート】ルールを知らないオーナメント

【ショートショート】ルールを知らないオーナメント

 計画は完璧だった……
 ……はずだった。

 始まりは、私が国会議員として今日まで稼いだ裏金に税務署が気づいたという税理士からの報せだった。
 あまりの巨額に、ガサ入れが行われることが決まり、その日取りは間近に迫っていた。
 だが私は抜け目なく、問題のある資産を全て宝石に換えることに成功した。
 問題は、ガサ入れの日にはこれを隠さなければならないことだ。

 そんな時、私は地元でクリスマスツリー

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【ショートショート】麻子のスマホ または白骨化スマホ

【ショートショート】麻子のスマホ または白骨化スマホ

 麻子はスマホ中毒だった。

 クラスメートたちとのLINE……ゲーム……推しの出演動画……
 通学中も画面から目を離すことなく、ひたすらオンラインの世界に没頭する。

 その夜も駅のホームを歩きながら、彼氏とメッセージのやり取りに夢中になっていた。
 しかも、ちょっとした言葉の行き違いで、ケンカが生じそうな雰囲気に陥った。
 何よそれ……
 納得出来ない向こうの言い分に、脊髄反射的な言葉を連発し

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【ショートショート】助手席の異世界転生

【ショートショート】助手席の異世界転生

 人間関係は転生だ。

 付き合いが長いほど、その人にとって相手が何者かは転生のように変わっていく。
 彼女にとって私は最初、弟だった。

 まだ運転免許を取れない私を、二つ年上の彼女は自慢の愛車であちこち連れて行ってくれた。
 僕のこと、どう思ってる?
 そんな質問に彼女は笑って答えた。
「君は弟だよ」

 その後、学校を卒業した僕は彼女の部下に転生。
 彼女の運転する営業車の助手席で、彼女につ

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【ショートショート】ごはん杖の音

【ショートショート】ごはん杖の音

 コツ…コツ…
 二階から響いてくる音。
 義母が杖で床を突き、夕飯を求めているのだ。

 今日も響くごはん杖の音。
 私は、支度を急いで階段を昇る。
 義母が口をつけるまで、私は母の部屋を出られない。
「鮭の塩加減が甘いようね…」
 料理への寸評をもらってから、その場を辞する。

 義母は意地悪ではないが厳しい人だった。
 ごはん杖の音は、私にはなんとも言えないプレッシャーだ。
 我慢できないほ

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【青春ショートショート】数学ダージリン または隣の席のインド人

【青春ショートショート】数学ダージリン または隣の席のインド人

「また赤点とったのかよ……」
 隣の席でリンが顔をしかめた。
 彼女の名前はリン・カンバータ。
 黒髪に褐色の肌。
 額には赤い星のようなビンディ。
 メガネの奥で光る瞳は少し青みがかっている。
 うちの高校では数学の成績No.1の秀才だ。
 そして俺は剣道部の部活にかまけて、数学では赤点以外取ったことのない凡才だ……
「うるせーな、ダージリンはよ……」
「ダージリンて呼ぶな!」
 小さな拳がコツ

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【ショートショート】思い出の秋の空時計

【ショートショート】思い出の秋の空時計

 君には本当に振り回されたね。
 まるで秋の空のようにコロコロ変わる気分に付き合って、僕も相当に苦労したよ。

 誕生日には君は必ず、時計を欲しがった。
 でも、一年経つとデザインが気に入らなくなったと言って、また新しい時計をプレゼントさせられた。
 たまには違うものをあげたかったが、何年も続けたプレゼントはどんどん溜まっていった。
 君の真意に気づいたのはずいぶん後のことだった。
 君は、僕と過

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【ショートショート】呪いの臭み または素人呪術師の蹉跌

【ショートショート】呪いの臭み または素人呪術師の蹉跌

 あたしはがっかりした。
 せっかく呼び出した呪霊が、どこにでもいるようなおっさんだったからだ。

 神社で神主をやってるおじいちゃんに、陰陽師だったという先祖から伝わる祈祷書を送ってもらい、やっとの思いで成功した召喚だったのに…
 小太りで頭はバーコード。
 ヨレヨレのスーツにメガネをかけた、どう見てもサラリーマン風のおっさん。
 おまけに、加齢臭なのか変な臭いもする…

「もっと真人みたいなイ

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【SFショートショート】黒い月 (またはイライラする挨拶代わりファーストコンタクト編)

【SFショートショート】黒い月 (またはイライラする挨拶代わりファーストコンタクト編)

 正体不明の物体が地球に接近してきた。
 世界中の天文台がその存在を確認した。

 それは巨大で真っ黒な球体だった。
 一時は衝突が危ぶまれたが、球体は地球の静止軌道に達するとそのまま第二の月のように地球の周りをめぐり始めた。
 ほどなく、球体の中を発信源とする強力な電波が世界中で受信された。
 驚くべきことに、それは地球で使われている55種類の言語による通信だった。
 通信内容は、異星文明からの

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【ショートショート】未来の断捨離 やさしい悪魔編

【ショートショート】未来の断捨離 やさしい悪魔編

 もう嫌だ。
 失恋はたくさん。

 この悲しさと苦しみから解放されるなら、人生なんて捨ててもいい。
 クソみたいな未来を丸ごと悪魔にくれてやる。

 私がそう願うと、本当に悪魔が現れた。

「呼びましたね? お望み通りあなたの未来の断捨離をお手伝いしますよ。将来におけるあらゆる可能性をひとつ残してすべていただきます。そのかわり永遠に苦しみから解放してあげますから」
 つまり死ぬのか……
 私は契

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【ショートショート】国民総秘密警察化計画(または「秘密警察を宣伝してみる」)

【ショートショート】国民総秘密警察化計画(または「秘密警察を宣伝してみる」)

 軍事独裁国家の首相が、秘密警察長官を呼び出した。
「まずは、君に感謝の言葉を贈ろう。君の素晴らしい働きのお陰で、政権内の裏切り者や不穏分子はほぼ処断されたと言っていいだろう」
「ありがとうございます、閣下。わずかでも反国家的思想を持っていると思える者は全て報告しましたのでね。歴史上にも類を見ない、大粛清だったと言っていいでしょう」
 首相は深い猜疑のシワが刻まれた顔を少し伏せた。
「……だが、ま

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【ショートショート】塩人(しおんちゅ) 命名編

【ショートショート】塩人(しおんちゅ) 命名編

 四人組男性アイドルグループ「She wants you(S.W.Y.)」は、一部に熱狂的なファンを持っていたが、いまいちブレイクに縁がなかった。
 レパートリーであるしょっぱい青春ソングは持ち味として評価も高い。
 それがかえって、事務所の社長には彼らがいまいち伸び悩んでいる原因に思えた。
「方針を変える!おまえたちは明日から演歌で売っていくんだ!」
 社長の鶴の一声で、S.W.Y.は演歌シンガ

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【ショートショート】顔自動販売機 ヒーロー誕生編

【ショートショート】顔自動販売機 ヒーロー誕生編

 その駅の改札の外には、通り沿いに数十台の自販機が並んでいた。

 中央のひときわ大きな機械は、飲料メーカーが一番力を入れて設置した最新型。
 言わば、この自販機コーナーの「顔」だった。
 ルーレット機能はもとより、電子マネー、クレジットカードなどあらゆる支払いに対応し、AIを搭載して客と会話することまで出来た。
 目新しさから、客の人気も上々。
 人々は他の自販機でも売っている同じ商品を、あえて

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【ショートショート】メガネ朝帰り And she was編

【ショートショート】メガネ朝帰り And she was編

 全ての間違いは、メガネをコンタクトにしたことにあった。
 極度の近視だった俺は、買ったばかりのコンタクトレンズを会社の廊下でくしゃみしたはずみで落としてしまい、途方に暮れた。
「何探してるんですか?」
 声をかけてくれたのは、ひそかに憧れていた秘書課の布都島さん。
 顔はぼやけているが声でわかる。
「いやあ、コンタクト落としちゃって…」
「まあ、大変。探しましょう」
 布都島さんは俺と一緒に懸命

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【ショートショート】心お弁当 覚醒編

【ショートショート】心お弁当 覚醒編

 チャイムが鳴り、女子高に昼休みが訪れた。
 佳音は憂鬱な予感を抱えながら弁当箱を開ける。
「うわ、その弁当すごくね?」
 隣の席の鈴香が笑った。
 佳音はため息をついて、乱雑におかずが盛り付けられた自分の弁当に箸をつけた。
「ひどい盛り付けだよね…味は悪くないんだけど…」
「佳音のお母さん、不器用なの?」
「てゆーかねー。自分の手で盛り付けないからこうなるんよ」
「自分の手…って、じゃあどうやっ

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