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【ショートショート】心お弁当 覚醒編

 チャイムが鳴り、女子高に昼休みが訪れた。
 佳音かのんは憂鬱な予感を抱えながら弁当箱を開ける。
「うわ、その弁当すごくね?」
 隣の席の鈴香が笑った。
 佳音はため息をついて、乱雑におかずが盛り付けられた自分の弁当に箸をつけた。
「ひどい盛り付けだよね…味は悪くないんだけど…」
「佳音のお母さん、不器用なの?」
「てゆーかねー。自分の手で盛り付けないからこうなるんよ」
「自分の手…って、じゃあどうやって盛り付けとるんよ」
「…念動力サイコキネシス
「サイ…はあ???」
「最近、使えるようになったらしいんだけど…弁当の盛り付けだけにしか役に立たないらしいの。いや、それも役に立ってないんだけど…」
「すげーじゃん!エスパーじゃん!」
「意味ないよー…」
 毎日の弁当に母の心がこもっているのはわかっている。
 だがその心は、こんな形で現れなくてもいいのに…
 それから数週間、佳音は乱雑な盛り付けの手作り弁当にため息をつき続け、次第にフラストレーションをためていった。
 そしてある日、いつにも増してひどい中身に苛立ちを爆発させ、机をドンと叩いた。
「!」
 すると弁当の中身は一瞬で動き、きちんとした盛り付けに収まった。
 それは佳音が常日頃こうであればいいのにと思っていた弁当のイメージ通りだった。
 次の日も、また次の日も同じことが起こった。
 もう間違いない。
 自分も念動力サイコキネシスの能力に目覚めたのだ。
 母娘二代が超能力に覚醒…
 これは、ラノベのような大冒険の始まりでは?
 悪と戦い、正義をなすためのエスパー母娘の誕生か?

 そんなことはなかった。

 佳音と母は弁当作りだけにその能力を駆使し、やがてその出来はまわりで評判となっていった。

 数年後、二人は共著で弁当作りのマニュアル本を出版するに至った。
 タイトルは「サイコお弁当」といった。


たらはかにさんの #毎週ショートショートnote 企画参加作です。
お題は「心お弁当」。
こういうシンプルで簡単そうなお題の方が難しい気がします…
😓

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