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【ショートショート】国民総秘密警察化計画(または「秘密警察を宣伝してみる」)

 軍事独裁国家の首相が、秘密警察長官を呼び出した。
「まずは、君に感謝の言葉を贈ろう。君の素晴らしい働きのお陰で、政権内の裏切り者や不穏分子はほぼ処断されたと言っていいだろう」
「ありがとうございます、閣下。わずかでも反国家的思想を持っていると思える者は全て報告しましたのでね。歴史上にも類を見ない、大粛清だったと言っていいでしょう」
 首相は深い猜疑のシワが刻まれた顔を少し伏せた。
「……だが、まだ十分とは言えんのだ。君の優秀な秘密警察をもってしてもあぶり出せない反逆者が、まだ国内に多くあるとわしは思っている」
「それで、昨日の新聞に広告を打ったのですか」
「そうだ!わしは全国民を秘密警察署員に任命した。全ての国民に秘密警察として働くことを義務付けたのだ。それを新聞で大々的に宣伝し、特に、成果報酬である点を強調した。全ての国民がお互いを監視し、少しでも反国家的な者は即刻通報される。これは図に当たったよ」
「と、言いますと?」
「私が思いもしなかった人物が、反逆者として浮かび上がったのだ。誰だと思う?」
 首相は執務卓の引き出しから拳銃を取り出し、長官に突きつけた。
「君だよ。秘密警察のトップがわしの失脚を狙っていたとはな…」
 銃口を前にしても、長官は冷静さを崩すことがなかった。
「私を処断なさるおつもりで? そんなことをなさればあなた自身が破滅しますよ?」
「それはどうかな? 裏切り者は大抵そう言うものだ」
「では、おやりなさい。あなたは、本当に哀れな人だ……」
 長官の言葉に顔をゆがめ、首相は引き金を引いた。

 逆に長官の顔には笑みが浮かんでいた。

 轟いた銃声に、首相官邸の職員たちは執務室へ駆けつけた。
 首相は執務卓についたまま、すでにこときれていた。
 手にした拳銃による自殺であることに疑いはなかった。
「心労に耐えかねて……でしょうか」
 秘書官の一人が呟き、首相の主治医が答えた。
「確かに、最近の閣下には精神分裂の兆候が見られました。誰もいないはずの部屋で、閣下が誰かと話しているところが聞かれています。どうも、閣下にしか見えない部下がいたようで……」


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「秘密警察を宣伝してみる」。
今年の頭から毎週欠かさず投稿してきましたが、ちょっとお休みしようかなと思います。
そろそろ、お題抜きのオリジナル小説も書いておきたいと思いまして。
とは言いつつ、お題次第ではまた参加するかもなので、その節はよろしく〜。
😊

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