見出し画像

【ショートショート】メガネ朝帰り And she was編

 全ての間違いは、メガネをコンタクトにしたことにあった。
 極度の近視だった俺は、買ったばかりのコンタクトレンズを会社の廊下でくしゃみしたはずみで落としてしまい、途方に暮れた。
「何探してるんですか?」
 声をかけてくれたのは、ひそかに憧れていた秘書課の布都島ふつしまさん。
 顔はぼやけているが声でわかる。
「いやあ、コンタクト落としちゃって…」
「まあ、大変。探しましょう」
 布都島さんは俺と一緒に懸命に探してくれたが、ついにレンズは見つからずじまいだった。
「ありがとう。もう諦めます…ところで、お礼に夕食を奢らせてください」
 これはチャンスだった。
 二つ返事で承諾してくれた布都島さんと、俺はディナーを共にし、思いのほか意気投合して飲み屋をハシゴして…
 そのままホテルに入って深い仲になった。
 これ以上はない夜を過ごしてフロントで会計を済ませようとした俺は、カバンに念のためメガネを入れておいたことに気づいた。
「すっかり忘れてた。しばらくこれで…げっ!!」
 メガネをかけて傍の布都島さんを見た俺は絶句した。
 そこにいたのは布都島さんではなく、俺と同じ総務の刀自村とじむら涼子だったのだ。
「え?私が布都島さんだと思ってた?声が似てて間違えた?ひどい!」
 俺は泣き出した刀自村をなんとかなだめて…
 しばらくの間、彼女と付き合うことにした。

 それからだいぶ経って、彼女は俺にプレゼントだと言って小さなケースをくれた。
 中に入っていたのは、薄汚れたコンタクトレンズ。
「実はね、あの時ちゃんと見つけてあったの。でもあなたが布都島さんのこと好きなの知ってたし、声で私のこと勘違いしてたのもわかったから、そのままいっちゃったわけ」
「えー?そうだったのか。ひどいな」
 俺は笑いながらケースを閉じた。
 あの朝帰りの日にこれを出されたら怒ったかもしれない。

 だが、金婚式のプレゼントにもらったらただの思い出の品だ。



たはらかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
朝帰りの前にメガネをかけたら、And she was 別人だったということで、トーキングヘッズの同名曲にかけてみました。
歌詞の意味は無関係ですが、なんとく雰囲気はお話に近いかなということで、↓よかったらお聞きください。
いい曲です。
☺️

今回はSFから離れちゃいましたが、例によってSF小説の宣伝です。
noteさんで開催中の「創作大賞2023」に、長編SF小説「銀河皇帝のいない八月」で応募中です。
だんだん読者様が増えてきてるようで嬉しいです。
ちょっとだけでも読んでみてください。
よろしくお願いしますー。
🙏

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?