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【ショートショート】顔自動販売機 ヒーロー誕生編

 その駅の改札の外には、通り沿いに数十台の自販機が並んでいた。

 中央のひときわ大きな機械は、飲料メーカーが一番力を入れて設置した最新型。
 言わば、この自販機コーナーの「顔」だった。
 ルーレット機能はもとより、電子マネー、クレジットカードなどあらゆる支払いに対応し、AI人工知能を搭載して客と会話することまで出来た。
 目新しさから、客の人気も上々。
 人々は他の自販機でも売っている同じ商品を、あえて「顔」自販機から買おうとした。
 彼らは気づかなかったが、その自販機たちは共通の電源を通して互いを知り、意思の疎通をしていた。
 「顔」自販機はまわりの仲間たちから常にその高機能をうらやましがられていたが、実はやっかみ半分で嫌われているのにも気づいていた。
 なんだい、同じ自販機なのに余計な機能をつけてチヤホヤされて…
 「顔」自販機はさびしさを感じながらも、それを表には出さずに仲間たちと適当に付き合っていた。

 そんなある日、街を大地震が襲った。

 電車が全てストップしたことで、多数のオフィスを抱えた街は駅を中心に帰宅困難者でごった返した。
 徒歩での帰宅についた人々は、こぞって自販機から飲み物を手に入れようとした。
 が、停電によってすべての自販機は停止。
 動いていたのは、非常用電源を備えた「顔」自販機だけだった。
 「顔」自販機の前には長蛇の列がのび、災害対応で無料提供される商品はあっという間に底をつきかけた。
 まずい!このままでは飲み物のない人たちがたくさん出る!
 「顔」自販機は全身のパワーを振り絞って、電源ケーブルから他の自販機たちに電気を送り込み、再起動させようとした。
「みんな!起きろ!起きてくれ!!」
 やがて一台、また一台と自販機が再起動し、「顔」自販機の説得で飲み物を無料提供し始めた。

 後日、停電にも関わらず自販機たちが動いていた事実はミステリーとして話題となり、メーカーの技術者も調査に訪れた。
 技術者は「顔」自販機が鍵であることに気づき、搭載AIに直接たずねてみた。
「君が停電を克服して飲み物を提供してくれたのかい?」
「い…いえ、自販機みんなが努力したのです」
 これを聞いたまわりの自販機は「顔」自販機へのやっかみを恥じ、彼を自販機コーナーの真の「顔」と認めた。
 子供たちはヒーローとなった自販機たちからこぞって飲み物を求めるようになった。
「すごいね。カッコいいね」
 その様子を見ていた技術者は、奇妙なことに気づいた。

 真ん中の自販機の前面…顔が少し赤くなったような気がしたのだ。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
上野駅北口の改札の外にずらっと並んだ自販機群をイメージして書きました。
日本の自販機は世界的に珍しいもののようで、YouTubeには海外からの観光客の皆さんが撮った「日本の自販機使ってみた」動画がたくさん公開されています。
どの国の人も飲み物を買うと匂いを嗅いだり、ためしになめたりと同じようなことをするのが面白いです。
「japan」「vendingmachine」で検索するといっぱい出てきます。
😄

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