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【怖い話】さしかけ怪談

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怪談。 「すぐそばにある怪異」をお楽しみ下さい。 私が聞いた怪談や創作怪談をご紹介します。
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記事一覧

【怪談】浴室の点検口

A子はアパートで一人暮らしをしていた。
浴室の天井には、蓋が閉まった四角い点検口がついていた。

風が強い日のことである。
A子が入浴している時、ふと見上げると点検口の蓋がずれて開いていた。
蓋に触った記憶のないA子は、何者かが家に侵入したと思った。
風呂から飛び出すと彼氏に連絡した。
すぐに彼氏が駆けつけると、蓋を元の位置に戻し、「見てて」と言った。
彼氏は玄関ドアを勢いよく開けた。すると強い風

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【怪談】娘ができたら

A子は幼い頃から霊感があった。
誰もいない場所で人の声が聞こえたり、暗がりの廊下でぼんやりとした人影が現れたりとその手の体験には事欠かなかった。

A子にとって、霊感が強いのは恐怖でしかなかった。A子は夜になると目と耳を塞ぎ、自室に籠もるようになった。
そうでもしないと、怪異は突然A子の前に現れる。

そんなA子の力になったのは母だった。

母も子供の頃は霊感が鋭く、常に怪異の影に怯えて暮らしてい

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【怪談】中年男とランニング(後編)

Oさんは不安になってきた。
林道とはいえ、単なる散歩道だ。
通常なら迷うことはない。

Oさんはあたりを見回す。
どことなく、見覚えのない雰囲気を感じる。

「はぁ、はぁ……どうしました?元気出して!」
女性が振り向いて、元気づけて来た。
Oさんはその一言で不安が消し飛んだ。
「はい!あなたから離れないように頑張ります!」
Oさんは絶妙に身の毛がよだつような言葉を返し、さらに女性についていく。

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【怪談】中年男とランニング  (前編)

40代会社員Oさんの話。

Oさんは会社の健康診断に引っかかり、高血圧と肥満、メタボリックシンドロームだと診断された。
早急に生活改善に取り組まないと、病気になったり卒中を起こす日も遠くないと医師に告げられた。
糖尿病になってもおかしくないとも言われた。

Oさんは巨漢で、若い頃はラグビーをやっていた。
社会人になってからはラグビーから引退したが、体育会系仕込みの暴飲暴食は引退できなかった。

O

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【怪談】事故歴

20代パパEさんの話

Eさんは念願だったファミリーカーを手に入れた。

二人目の子どもが生まれ、今までEさんが持っていた車では手狭になったのだった。

Eさんはオフロードカーが好きで、軽四のオフロード車に乗っていた。

タイヤを大きなものに変えたり、オリーブ色のつや消し塗装を施し、シャーシやスプリングを補強して、カンガルーバーを付けたりしていた。

とにかくお金をかけていた。

そんな大切なオフ

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【怪談】バランス釜

その昔、平成半ばまでは見かけた「バランス釜」という風呂があった。

ガスの湯沸かし器が、狭いホーローの風呂釜に隣接しているものだった。

ガチャガチャとカセットコンロのようにツマミを回し、ガスを点火する。

湯沸かし器の小窓から、青色の炎が見える。

浴槽内の水が、湯沸かし器の中を通りお湯となって浴槽に戻り、加熱されていく……そんな仕組みだった。

私が子供の頃住んでいた公営住宅にもあった。聞いた

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【怪談】停電区間

前回に引き続き、都会に来たKさん一家の話。

夕刻になって、Kさん一家は帰路に着いた。

嫌なこともあったが、都会を散策するのは楽しかった。

食事もして、見慣れぬ海外雑貨などを見て堪能した。

帰る時も一家は電車に乗る。

横長の座席に、Kさん、娘、奥様の並びで座った。

電車はあるトンネルに入ると、一度照明を落とす。

そこは海底を進むトンネルで、電源供給元を切り替えるため一時停電をするのだっ

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【怪談】引っ掻き小僧

前回登場のKさん。

実は駅での怪異遭遇では飽き足らず、駅の件から2度もおかしな出来事に巻き込まれたらしい。

そのうちの1つを紹介する。

Kさんは駅での悶着を終えて、駅ビルのレストラン街に来ていた。
土日のお昼、駅ビルのレストラン街である。

客はごった返していた。

Kさん一家はお寿司屋の前で並んだ。
Kさんは「昼間っから高いお寿司なんて…」と思った。この寿司店は安価な店ではなかった。
ざっ

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【怪談】体当たり老人

30代男性Kさんの話

Kさんは妻と子供たちを連れ、都会の駅にやってきた。

子どもたちの願いで、電車に乗って遊びに来たのだった。

Kさん一家は田舎に住んでいるものの、電車を乗り継げばさほど時間をかけずに発展した街に行ける。

一家でプラットフォームの階段を上がっていた。

妻と子は手をつないで上がり、その後ろをKが歩く。

スーツを着た老人が妻と子の前に向かってきた。

階段は「左側通行」と注

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【怪談】畑の井戸

ある農家の老人の話。

老人は畑を持っていた。

親から引き継いだ畑だった。

先祖から引き継いできたという理由だけで、老人も手放すことはできなかった。

ただ、老人自身はこの畑を手放したかった。

理由は井戸だった。

畑の真ん中には、ぽつんと井戸がある。

普段は蓋を閉じていて、近所の子供などがいたずらで落ちないようにしている。

老人が生まれる前、老人の父がまだ赤子だったころ、ある事件が起き

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【怪談】カーポートで

30代パパBさんの話。

Bさんは休日の夕方、自宅のカーポートで洗車をしていた。

妻は友人たちと食事会に出かけ、3歳の娘は自分が世話をすることになっていた。

娘は大人しく、ずっとオモチャ遊びをしたり、動画を見たりしていた。
夕方になると、うとうとして寝てしまった。

夕方に昼寝をさせると、夜の寝つきが悪くなる。
妻は嫌がるが、幸い妻もいない。
Bさんは娘をそのまま寝かせた。

Bさんはこれ幸い

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【怪談】闘う守護霊

格闘技をたしなむDさんの話。

Dさんはとあるアマチュアの格闘技大会に参加していた。

この日のために減量に取り組み、筋力トレーニングや練習を重ねて来た。

勝ち星を上げればポイントが加算され、プロ選手への道も拓かれる。

Dさんは相手と対峙していた。Dさんは赤コーナー、相手は青コーナーだ。

試合用のパンツと、ヘッドギア、グローブだけの姿である。

対戦相手もDさんと同様、胸板は盛り上がり、腹直

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【怪談】冬休みと夜更かしと

冬休みが終わり、新学期が始まったこのころ……

とある小学生が寄せてくれた怪談を紹介しよう。

小学生Yくん兄弟の話。

彼と弟は、冬休みを堪能した。

毎日夜更かしして、携帯ゲームで遊び、動画や漫画を見て過ごしたそうだ。

親は仕事納めや掃除、親戚づきあいに忙しく、兄弟を見ている暇もなかったらしい。

年末も間近の夜……

Yくん兄弟は、夜遅く子供部屋でゲームをしていた。

何時を回ったかもわか

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【怪談】前の車

会社員Tさんの話。

Tさんは子供を迎えに車を走らせていた。

公民館の学習教室が終わる時間なのだ。

寒くなってくる時期で、帰宅ラッシュの時間も近づいていた。

Tさんは前方の白い車に続き、公民館を目指していた。

なんとなくだが、前の白い車を見ていると違和感を覚える。

どうも、目がかすむような気がするのだ。

前の車は整然と走っていて、おかしな動きをしているわけではない。

だが、なんとなく

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