【怪談】停電区間

前回に引き続き、都会に来たKさん一家の話。


夕刻になって、Kさん一家は帰路に着いた。

嫌なこともあったが、都会を散策するのは楽しかった。

食事もして、見慣れぬ海外雑貨などを見て堪能した。


帰る時も一家は電車に乗る。

横長の座席に、Kさん、娘、奥様の並びで座った。

電車はあるトンネルに入ると、一度照明を落とす。

そこは海底を進むトンネルで、電源供給元を切り替えるため一時停電をするのだった。


トンネルに差し掛かると、明るい車内は突然暗くなった。

電車は進み続けるが、周りは暗く、何も見えない。

「怖いよ」娘が怯える。

「大丈夫だよ」Kさんが励ます。


暗い中、電車のガタゴトと進む音だけが響く。

突然、暗闇から子供のはしゃぎ声が聞こえた。

座席の上をどすんどすんと跳ねる音もする。

奥さんの方からだった。


「ちょっと!」奥さんが慌てる声で叫ぶ。「座席で跳ねたらダメよ!」

Kさんの横にいる娘は、ちょこんと大人しく座っている。

どこかの子どもがはしゃぎ始めたのだろう。


「すいませ〜ん……」

また間延びしたようなヌルっとした声で、謝罪の言葉が聞こえた。

はしゃぐ子どもの親だろうか。


直後、一斉に車内の電灯が点いて明るくなった。電源が切り替わったのだろう。


Kさんは奥様に迷惑をかけた客と子どもの顔を見てやろうとした。

「あれ?」奥様がつぶやく。


Kさんも呆気にとられた。

奥様の横は誰もいなかった。

まして、周囲にもそれらしき親子連れは全くいなかった。


「ちょっと……これ……」奥様が震える声で呟いた。

奥様は紺色のロングコートを着ていた。

座席の上には余剰分の裾が少し乗っていた。

その裾の上には、子供の素足の、埃っぽい足跡が多数ついていた。



Kさんは語る。

「なんか聞いた話では、あの停電区間では『出る』らしいんですよ。老婆が出たっていう人もいれば、おじさんっていう人もいる。私らは、子供でしたね」


私はKさんに都会は凝りたろうと言った。

ごった返す人、迫りくる怪異。

田舎に引きこもっていた方が良かったろうと。


Kさんは豪放に笑い飛ばした。

妙な体験をして楽しかったそうだ。

また近い内に都会に遊びに行くとのことだった。


【おわり】

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