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蟻を見つめていた頃

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20年前に書いたエッセイ。一部加筆修正。 ★は2017年以降、新たに書き下ろしたエッセイ。
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2017年10月の記事一覧

「想像力」を育む教育

「想像力」を育む教育

 「人が生きていく上で最も大切なことを一つ挙げなさい。」と質問されたら何と答えるだろうか。私は迷わず「想像力」を挙げる。今日の日本、いや世界を見渡してみると、想像力の欠如による悲劇があちこちで起こっている。戦争、テロ、殺人、暴力、いじめ。相手の気持ちを想像できたらとてもできることではない。国会のセンセイたちや霞ヶ関の官僚の方々。国民の気持ちを想像できたら、とてもあんなことを言ったりやったりできるは

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本当の価値

本当の価値

 先日、TBSのニュース番組で、リンゴ栽培の話題を取り上げていた。商品として出荷できるリンゴを作るためには、年間十三回もの農薬散布が必要なそうである。そうしないと、病害虫に弱いリンゴの木は、実だけでなく幹までも駄目になってしまうという。

 そんな現状の中で、青森でリンゴ農家を営んでいる須郷さんは、毎日、一本一本の木を見て回り、病気を一早く発見し治療をするなど、手間隙をかけた試行錯誤の結果、農薬散

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「大人になりなさい」

「大人になりなさい」

 「もっと大人になりなさい!」目上の人にでも、言いたいことをポンポン言ってしまう私に対し、常識的な人たちはこう忠告する。言われるたびに私は、さて「大人になる」とはどういうことだろうと考えてしまう。
 

 私が感じるに、大部分の方々は、「言いたいことがあっても我慢して周囲の人達との間に波風を立てないこと」を「大人になる」という言葉で表現しているらしい。言い換えると「『タテマエ』をうまく使えるように

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先生はエライ?

先生はエライ?

 世間には、「センセイ」と呼ばれる方がたくさんいる。医者、弁護士、議員、そして学校の教員。「センセイ」という呼び方は相手に敬意を表す言い方、つまり尊敬語である。私の身の回りにも仕事柄多くの「センセイ」がいらっしゃるが、心からの敬意を持って『先生』と呼べる人はほんの僅かである。
 

 人は「センセイ」と呼ばれると何となくエラくなったような気がするらしい。大学を出たばかりの22、3の若者が、学校に就

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ストレス社会で生きるために

ストレス社会で生きるために

 最近、本屋の新書コーナーを見ていると、「生き方」「心理学」「対人関係」に関する本が多いことに気付く。それは、「現代社会で生きていくことが、いかに困難であるか」その中で、「よりよく生きようとして、いかに多くの人々が暗中模索しているか」を物語っている。現代社会はストレス社会である。仕事で、家庭で、学校で、大人も子どももストレスの波にさらされながら生きている。心の切り替えがうまくできて、適当に発散でき

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幸せについて

幸せについて

 「あなたは今、幸せですか?」あなたは、この質問に胸を張って「ハイ」と答えられるだろうか。ちょっと昔のフォークソングにこんな歌詞があった。「幸せを数えたら片手にさえ余る。不幸せを数えたら両手でも足りない。」この文句に同感する人は多いのではないだろうか。

 では、次の質問。「あなたにとって幸せとは何ですか?」あるいは、「何に幸せを感じますか?」この質問を、飢餓に苦しむアフリカや、戦火に喘ぐボスニア

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不思議のすみか~毎日がスピリチュアル~

不思議のすみか~毎日がスピリチュアル~

 一昔前の日本人の生活の中には、様々な“不思議”が宿っていた。沼や湖には必ず“主”が棲んでいた。森や海、田や畑にもにも神様がいた。各々の家には神棚があり、人々は毎日、家内安全を祈っていた。そして節目節目には、神様が豊かな恵みを施してくれるように、平安な日々が過ごせるように、人々は祭りを行って神を称えてきた。そうして人々は、目に見えない不思議な力を信じ、生活に取り入れ大切に守ってきたのである。
 

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ドラマのような毎日を

ドラマのような毎日を

 最近のテレビ界では、どこの放送局でもトレンディードラマ花盛りである。「男女の恋愛」をテーマにしたものが圧倒的に多いが、最近では、その一方が聴覚障害者であるドラマがヒットした。女子学生の間で手話で会話をすることが流行しているそうである。きっかけは何であれ、障害者問題に若い世代の方々が興味を持つことはよいことだと思う。ただ、トレンディーというように、一時の流行で終わってしまわないことを願って止まない

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Generation gap

Generation gap

 「最近の若者は、まったく何を考えているのか分からない。」「うちの親(上司)は頭がカタすぎる。」等々、年の離れた人達との考え方の違いに悩みや憤りを覚えたことはないだろうか。「環境が人を作る。」と言われるように、人は生まれ育った環境によって考え方が違ってくるのは当然である。モノのない時代に必死に生きてきた世代の方々と、有り余るモノに囲まれて育っている現代の若者では、物事に対する価値観が違って当たり前

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自分を見つめる勇気

自分を見つめる勇気

 「あなたはどんな人ですか?」と質問されたら即座に答えが浮かぶだろうか。自分の長所と短所をきちんと説明できるだろうか。他人のこととなるとスラスラしゃべれるのに、自分のこととなるとそう簡単にはいかないものである。
 

 誰しも自分にはあまり自信がない。されどその自信のなさを他人には悟られたくないという矛盾した思いをもっている。その思いは年を取るにつれ強くなる。30、40と年を重ねるとともに、周囲の

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本音で語り合う

本音で語り合う

 人は誰しも、本音と建前をもっている。初対面、あるいは知り合ってから間がない人と話すときには主に建前を使って話す。しかし、建前で話しているうちは決して人間関係を深めることはできない。次第に本音が出せるようになるにつれて、人と人とのつながりはより深く強いものになっていく。
 

 学生を含め、最近の若者達と話していると、なかなか相手の本音が見えなくて戸惑うことがよくある。こちらが本音で相手にぶつかろ

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Aさんの話

Aさんの話

 私がAさんと会ったのは、まだ一年目の新米教師のときだった。私は産休先生として二学期から江戸川区の中学校に赴任した。そして、一年生の国語を担当することになった。彼女はすぐに目にとまった。他の女子生徒とは少し違っていた。中学生にしては、世の中をずいぶん冷めた目で見ているような気がした。世間一般の言葉で言うと「つっぱった」生徒だった。しかし、彼女は国語の授業はとても真面目に受けてくれた。自分から話しか

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A君との出会い

A君との出会い

 私がA君と会ったのは、大学一年の夏だった。彼は中学二年生だった。講義が終り日も西に傾きかけたある日の夕方、登録しておいた家庭教師センターからの紹介で、大宮駅から歩いて十分ほどの彼の家を訪問した。玄関を入って一番奥に彼の部屋があった。ドアを開けると、机に向かって一人の少年が座っていた。会話は、こちらからの問い掛けに小さな声で二言三言答える程度。消極的でおとなしい少年というのが私が受けた第一印象だっ

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★スコトーマ(心理的盲点)

★スコトーマ(心理的盲点)

 スコトーマという言葉をご存じだろうか。私は最近知ることになった。しかし、教師になった頃から「年齢に関わらず、人それぞれ、同じ物事を見ても見え方が違う」ということに気づいていた。

 苫米地英人博士によれば、スコトーマが生まれる要因は2つ。

1:知識がない(から見えない)
2:自分にとって重要ではない(から見えない)

 教師をしていて同僚と話して気になるのは、1タイプのスコトーマである。ある、

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