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描写⑦逆転満塁本塁打

注意:色々血迷った結果、超駄作ですw

 ときわ中学校は最寄りまで徒歩1時間の僻地にある、三学年総人口50人の極小規模な中学校だ。二年生はとりわけ不作に終わった。生徒数10人だ。二年生の国語の授業ではディベートが行われている。お題は“情熱的な色”だ。生徒一人一人に紙が配られ、それぞれが情熱を想起する色を記入し、担任が集計をとる。結果は赤色9人茶色1人だ。普通であれば、ディベートが成立しないので新たな議題を考えるべきだ。しかし、乱杭歯、中年、デブの三重苦の担任にはそんな気遣いは毛頭期待できなかった。担任の毛頭にも望みはなさそうだ。四十九の四重苦だった。というわけで、9体1のディベートが始まった。

 人数以前に情熱を想起する色として、不動の四番、絶対的エースである“赤”に対して万年補欠の“茶”の勝利は見込めなかった。赤陣営は長年の歴史から集積された作戦「情熱の炎→炎は赤→赤こそが情熱」という見事な三連投手リレーを展開した。鼻たれ小僧こと垂蔵(たれぞう)に勝ち目はなかった。しかし、垂蔵の目は死んでいなかった。不敵な笑みさえ浮かべていた。鼻水を垂らしながら。

「情熱の色と言えば茶色だ。異論は認めない。情熱を表す色として赤を挙げる奴は論外だ」

開口一番垂蔵の舌は潤っていた。

「短絡的に過ぎるし、現実的じゃない。あるいは何かの道を究めているときに、例えば勉強をしているときに大量に出血しているわけではないのなら。仮に紙で指を切りまくっているのだとしたら勉強をする前にハンドクリームを塗ることを勧めたい。いずれにせよ、短絡的な問題につまずいている時点でそいつの情熱はたかが知れている。赤から情熱を想起する奴は大した努力をしたことの無い夢想家の安楽椅子探偵気取りのアホだ」

教室がどよめいた。

 「茶色は土の色だ。地を這ってでも何か具体的成果を得ようとする姿勢が殊勝だ。白いシャツに汗が滲んだら何色になるのだろう。答えは茶色だ。赤色では決してない。図書館について考えてみよう。図書館は小学校から大学、町中のいたるところに設置されている、息の長い文化施設である。図書館は人々が情熱をかけて物事を探求する場所だ。では図書館の机は果たして何色だろうか。」

 圧巻の弁論だった。溢れんばかりの聴衆がいたのなら割れんばかりの拍手が巻き起こっただろう。しかし生憎ここは生徒数10人の二年生の教室。恵沢な圧巻の拍手の代わりにヤジが飛んだ。

 「茶色はうんこの色だ!!」

 垂蔵は動じなかった。

 「『茶色は情熱というよりはうんこの色だ』月並みな一般論だ。確かにうんこは茶色だ。何かを得るにはそれなりの代償を払う必要がある。運動をするにも、脳を働かせるにも人は大量のエネルギーを消費する。したがって、うんこの量はその人が蓄えて消費したエネルギーの量に比例する。茶色を情熱の色として認めない人は総じて少ない力で大きな対価を得ようとしている。そんなのは情熱じゃない。傲慢だ。」

 垂蔵は奇跡的にディベートに勝った。

 

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