時計史小説(3) 1864 AT&Co. model 57 /ウォルサム・機械が機械をつくるとき
蒸気機関で何を動かすのか 産業革命の華は、何といっても蒸気機関の実用化だろう。イギリス人、ジェームズ=ワット(1736-1819)の功績だ。産業革命以前も、人類は動力として、人力・畜力のほかに水力や風力を用いてきた。しかし、これらは使用できる条件が限定的だ。風は気まぐれの代名詞だし、水の流れはどこでも得られるものではない。対して蒸気機関に使う石炭は、火にくべればいつでもどこでもエネルギーを取り出すことができた。取り出されたエネルギーは水を水蒸気に変え、水蒸気はシリンダーの中で