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とことこショート

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2022年8月の記事一覧

小さな恋のメロディー【幼馴染み】

小さな恋のメロディー【幼馴染み】

三軒隣に同い年の妹みたいな存在の子がいる。
近所の子だから、当たり前のように小さい頃から遊んでいて、親同士も仲が良かった。
その子の名前は、凛。先天性の緑内障を患っている。

凛は目が見えないから僕がいつもそばにいて、いろいろなことを教えてあげた。
仕方なくやっているという気はない。
もう、それが僕の中で当たり前になっていて、僕の一部のような気がする。
保育所も小学校も中学校もずっと一緒だった。障

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野菜の料理人〜ラタトゥイユ編〜

野菜の料理人〜ラタトゥイユ編〜

「おー! たくさん取れたなぁー!」
「よく実をつけてくれたよね」
「こんなに取れたから、日本版ラタトゥイユでも作るか」

僕と父さんは、今年の春先から庭で野菜を育てていた。
10畳ほどの小さな畑で、ナス、ジャガイモ、ズッキーニ、トマトを毎日学校から帰ってきては、水やりや雑草取りをして育ててきた。
夏休みに入ってからも自由研究の課題として、これらの野菜の成長記録をとりながら、毎日欠かさず世話をした。

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命の選択

命の選択

私の友達で10歳違いの喜代美さんは40代で妊娠した。
その一ヵ月後、私も妊娠。
どちらとも初めての妊娠で、
お互い情報交換しながら近況を伝え合い、
情緒不安定になれば励ましあい、
日に日に大きくなるお腹を、大事に大事にして暮らしていた。

喜代美さんは、高齢出産ということもあって、ダウン症の子供が生まれるのではないか、と心配になった。旦那さんとよく話し合い、羊水検査を受けることにしたそうだ。
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毎日来る郵便屋さん

毎日来る郵便屋さん

まだかな…まだかな…と首を長くして郵便屋さんを待っている子供がいる。
「あっ、きた!」
一軒ずつ家のポストへ郵便物を入れ、待っている子供の家にだんだんと近づいてくる。
「つぎは、ぼくの家だ」
その子がワクワクしながら待っていた郵便物とは、子供向け知育教材。
「コレを待っていたの? はい、お届け物です」
「わーい、お母さん、きたよ! ゆうびんやさん、ありがとう」

私の仕事は、郵便配達をしている。

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絵の向こう側

絵の向こう側

今日も良い天気だ。降水確率0%、最高気温27度。
私は天気予報を確認したら、四つ切サイズのスケッチブック、絵の具、筆が入ったカバンを肩から下げ、イーゼル片手に海へと出かける。歩いて15分で海岸へ着く。
海といっても砂浜ではない。船やボートが停泊している港へ行く。白い船は太陽の光を浴びて眩しいくらいだ。そこで私は絵を描くのが日課になっている。

私の夫は、同じ会社の同僚で2年先輩だった。会社の仲間内

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