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小さな恋のメロディー【幼馴染み】

三軒隣に同い年の妹みたいな存在の子がいる。
近所の子だから、当たり前のように小さい頃から遊んでいて、親同士も仲が良かった。
その子の名前は、凛。先天性の緑内障を患っている。

凛は目が見えないから僕がいつもそばにいて、いろいろなことを教えてあげた。
仕方なくやっているという気はない。
もう、それが僕の中で当たり前になっていて、僕の一部のような気がする。
保育所も小学校も中学校もずっと一緒だった。障がい者とはいえ、凛は器用な子だったから、一度教えるとすぐに覚える。勘が良いと言っていいだろう。
だから、盲学校には行かず、僕と一緒に学校へ通った。学校の協力もあり凛は点字の勉強にも励んでいた。

僕は凛の役に立つことが嬉しいのだと思う。
「凛の世話をしてくれて、いつもありがとうね」と凛のお母さんからよく言われる。
『世話をする?』僕は少し疑問に思う。
「大変でしょ」「疲れない?」「自分の好きなことをしていいんだよ」
そんなに大変そうに見えるのかな?
僕はいつも凛と一緒にいられるのがいいんだ、と思っているけど、凛はそうは思っていないのかな…

僕は、中学を卒業する前に凛の気持ちを確かめたかった。高校からは離れ離れになるからだ。
凛はこう言った。
「私は裕人のお世話になっている、と思っているよ。だから、お荷物にならないように裕人が言うことは、集中して聞いている。裕人がいなかったら、健常者が当たり前にしているような普通のことができなかったと思う。本当に感謝しているよ。
小6の時も“夫婦みたいだな、お前ら”って揶揄われたりしたけど、裕人は恥ずかしげもなく堂々としていたことに私は嬉しかったよ。
これから、それぞれの学校に行くけど、私は寂しくなんかないよ。今まで裕人が教えてくれたことや励ましてくれたことを胸に閉まってあるし、困った時、寂しい時はココから出しておさらいすればいいんだもん!だから大丈夫だよ」

僕は嬉しかったし安心した。僕のしてきたことは、凛に伝わっていたんだ。

離れて生活するようになって、生活の時間のズレが、3軒隣の近所でも遠く感じられる。たまに見かけたりするけど、あえて声はかけなかった。
なんでだろう…あえて声はかけない。どうして、かけないんだろう。
僕の中で、凛の面影がだんだん薄れていく。どんどん遠くなっていった。
高校生活はバドミントン部に入り、部活に明け暮れた。
大学では心理学を学びたくて必死に勉強し、そして入学できた。
それなりに忙しい日々を過ごしていたが、いつも頭のどこかに凛のことが浮かんでくる。どうして、浮かんでくるのだろう…

ほとんど言葉を交わさないまま、5年の月日が流れた。
二十歳の成人式に、凛と久しぶりに話をした。子供の頃と変わらない凛がいた。ちょっと控えめで、でもしっかり自分の意見を持っていて、僕の話を聞くときは集中している。
今までいろいろな人と出会ってきたけど、普通の印象だった。普通のそれ以下、それ以上でもない。
でも、凛の顔を見ると自然と笑顔になる。
笑みが溢れる。
楽しい。
不思議なのだが、子供の頃の気持ちと全く変わっていない。

僕は、凛のことが好きなんだ、ということに初めて気づいた。


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