見出し画像

【短編小説】あの頃聞いた最後の思い出




そのレコードは埃をかぶっていた。




瓦礫に覆われているというのにヒビひとつ入っていない。




ここはレコード屋だったのだろうか。



きっとここに再生するための機械もあるはず、そう思って懸命にコンクリートをどかす。




乾いた空気と冷ややかに見下す雲が孤独を見捨てた。



雪だるまのように膨らんだコートの下は汗ばんでいる。




働くってこういう感覚だったなあ。




一通りどかすと大きな箱が出てきた。ずいぶん豪勢だ。




埃を払うと針が見えてくる。



もう使い物にならないかもしれないが、試す価値はあるかもしれない。


咳き込みながら払い、レコードを台にセットした。




音楽とも呼べない音が流れる。




この世界の最後の娯楽かもしれない。



曇った空を見上げながら快適でもない瓦礫の上に座り込んだ。






ひとりぼっちになって、もう10年。




#思い出の曲

この記事が参加している募集

#思い出の曲

11,332件

サポートしていただくとさらに物語が紡がれます。